第46話 アルはみんなに料理を振る舞う
「【リザレクション】」
カトレアに【回復】を習得してもらい、ホワイトカトレアの力でボランの傷を癒す。
傷が治ったボランがホッと息を吐くと、子供たちが彼に抱きついた。
「コラッ! そんな一気に来たら怪我すんぞ! 順番に来いや!」
もみくちゃにされるボラン。
声は荒げてはいるものの、子供たちを否定しない。
「あの、ボランさん」
それはロイだった。
彼は涙を流しながら、ボランに宣言する。
「僕……僕もボランさんみたいに、誰かを守るために強くなりたい……ううん。誰かを守れるように強くなる。僕も『覚悟』を決めました。自分だけのためじゃなくて、ボランさんみたいに誰かのために強くなる。僕も、あんな日々はごめんだから」
「おう! いいじゃねえか! 俺もまだまだ強くなんねーと……こんなバケモンみてえな女がいるんだからな。人間には限界なんてねーのかも知れねえ。お互い、もっと強くなんぞ、いいな!?」
「はい!」
バケモノなんて言われて、エミリアは頬をピクピク動かしていた。
俺は彼女のことをなだめる。
ボランは今回、一番の功績者なのだから。
数字だけで見れば、そりゃエミリアの方が活躍したのだろうけど、ボランはそれ以上にみんなのために命を張ったんだ。
英雄が女の子にボコボコにされる姿を、みんなに見せるわけにはいかない。
と言っても、エミリアのことだからそんなことはしないだろうけど。
「あの赤髪、今度ボコボコにしてやる」
「…………」
気のせいだった。
エミリアならやりかねん。
◇◇◇◇◇◇◇
レイナークでの戦いも終わったらしく、夕方過ぎにティアたちはローランドに帰還した。
エミリアは【空間移動】に驚いていたが、それ以上にティアやカトレアが人間の姿になったことに驚愕している様子。
「お、お前……本当にブルーティアかよ」
「はい。エミリアのことは、子供の頃から見ていましたよ」
「……本物か」
「ええ。そしてご主人様とは、エミリアよりも前から一緒ですから」
「!?」
ティアは勝ち誇ったような顔で、エミリアにそう告げた。
エミリアは一瞬驚いた表情をするが、ムッとしてティアを睨み付ける。
「だけど、子供の頃からずーっと話をしてきたからな、私は」
「知っていますよ。お二人とは私もずっと一緒でしたから。エミリアとご主人様は二人きりになったことなどないのですよ?」
眼鏡をくいっと上げ、余裕を見せるティア。
むむむ、と悔しがるエミリア。
珍しいな、ティアが張り合うの。
というか、エミリアとよく張り合えるな……
二人の間に稲妻が走り、それを見ていたペトラがオロオロしていた。
「み、みなさん、仲良くしましょう。せっかくの大勝利だったのですから、ね?」
「「…………」」
ペトラの声は空しく、二人の心も動かすことはできなかったようだ。
いや、ペトラじゃなくても、誰もこの二人の心は動かせそうにない……
◇◇◇◇◇◇◇
夜になり、俺はギルド横の酒場で調理をしていた。
今日はもうギルドの職員は誰もいなく、酒場のみに灯りが付いている。
隣ではそれを見守るティアの姿が。
彼女は料理が気になるようで、俺が調理している姿を凝視していた。
「なんでエミリアに突っかかったんだよ?」
「いえ……強敵ですので、少々牽制をと思いまして」
「強敵? あいつに勝つつもりか? 不可能とは言わないけれど、勝つにはまだまだ経験が足りないんじゃないか?」
ティアははぁとため息をつき「そういう意味では」と一言だけ呟いた。
「あんたがアニキの幼馴染かよ」
「そうだけど、あんた誰?」
店の方は、冒険者たちが勝利の美酒で、大騒ぎしていた。
少し酒の入ったジオが、エミリアに絡んでいる。
「あんたみたいな子供がアニキと同じ年だとか、後、強いとか信じらんねえよっ」
エミリアは座っていたテーブルを立ち、ニコッと笑い、手を差し伸べる。
ジオはヘラヘラしながらエミリアと握手する。
握手をした瞬間――ボキボキボキッと骨が折れる音が部屋中にこだました。
「あんぎゃあああああああああ!!」
「子供みたいで悪かったな。ま、これからよろしく頼むよ」
「「「…………」」」
ジオ率いる【アルベルトファミリー】の男たちは、言葉を失っていた。
そしてこの場にいた全員がこう思ったと言う。
彼女に逆らうのはやめておこう……と。
「エミリアを子供扱いしたら痛い目に合う。これもう常識だからな」
「そうでございますね。マーフィンでは数々の男たちが痛い目に逢ってきましたから」
ティアは料理を凝視しながら言った。
「まぁ、みんなもすぐに理解するだろうさ……よし、完成だ。ローズらとボランを呼んで来てくれないか?」
「かしこまりました」
◇◇◇◇◇◇◇
「……アル、料理は元々得意だったけど、見たこと無い物も作るようになったんだな」
「ああ。色々と勉強をしてね」
エミリアは俺が作った物を覗き込んで、驚いている様子だった。
見たことも無い料理。それが目の前にあるからだ。
「おい! なんだよこりゃ!?」
ボランが料理の匂いを嗅ぎながらそう訊いてくる。
「これはもつ鍋って言うのさ」
もつ鍋。
異世界の日本ではそこそこポピュラーな鍋料理。
ニラとキャベツとたっぷりのもやし。
それから豆腐とホルモンを味噌と醤油と出汁などで煮込んだ辛めの料理。
【異世界ショップ】で材料を調達したので、他の人には再現不可能だったりする。
ボランたちはそれを見て、怖さ半分、興味半分と言った顔でゴクリとつばを飲み込んでいた。
「これは今回、みんなが頑張ってくれたお礼だ。みんなのおかげで、さらにレイナークでの評価が上がった。そして、ボランのおかげで町はこうして無事で済んだ。ありがとう、みんな」
みんなは嬉しそうに頭をかいたり照れたりしている。
ボランはあまり賞賛に興味は無いようで、もつ鍋に釘付けになっていた。
「口に合うかどうか分からないけど、みんなのために作ったんだ。遠慮なく食べてくれ」
みんな恐る恐る、もつ鍋をスプーンですくい、口に運ぶ。
「……う、美味い……これは美味いぞ!」
「こんな食べ物があったのか……」
男たちはハフハフ、熱がりながらも必死にもつ鍋を食べていた。
エミリアもローズもカトレアも、口に合ったらしく美味しそうに食べている。
「いや、お前は何作らせても美味く調理するよな」
「ははは。エミリアにそう言ってもらえたら、作った甲斐があるなぁ。ティアはどうだ?」
ティアはすました表情で、もつ鍋を口に運ぶ。
上品に口を動かしていたが、急にふるふるしだし――
「ううう……美味いにゃあ! 野菜の優しい味と濃いめのスープがマッチしていて食べるほどに食欲が増していく。ホルモンの甘みとうま味を兼ね備えた、この美味さ。濃いはずにゃのに気分が悪くにゃるようなしつこさは一切にゃい……こんにゃの……こんにゃの美味しくにゃいわけがにゃい! ギガタラスク以上のインパクト……まさに、Sクラス美味だにゃっ!」
バクバク食べ始めるティア。
いつものティアとはかけ離れ過ぎたキャラクターに、エミリアたちはポカンとしていた。
「ね、姉様……どうしたんですか?」
「お姉ちゃん……変」
俺はみんなの反応を見て、くくくっ、と声を殺して笑った。
「アルさん」
入り口の扉が開き、ペトラが入って来る。
「どうしたんだ?」
「あの……なんか変な人が、アルさんに用事があるから合わせてくれって……」
「変な人?」
すると、ペトラを押しのけ、一人の男が焦った様子で入ってきて、俺の足にしがみ付いて来る。
「アルぅ……頼む、助けてくれぇ……」
それは、痛々しく包帯を巻いているシモンだった。
「シモン……なんでここに?」
「シモン? てめえ、何しに来たんだ!?」
エミリアが席を立ち、恐ろしい表情でこちらに近づいて来る。
「ひいいっ! エミリア! なんでここにいるんだ!?」
「それはこっちのセリフだ。なんでお前がここにいんだよ」
ガタガタ震えるシモン。
ティアはこちらに目もくれず、もつ鍋を美味そうに頬張っている。
「まあまあエミリア。とりあえず話だけでも聞いてやろう」
「ちっ」
エミリアにぶっ飛ばされたという話はテロンさんから聞いている。
そりゃ、これだけ怪我を負わされたら怖くて仕方ないだろう。
俺だってこんなにやられたら震え倒す。
「なあお前、メチャクチャ強くなったんだってな? そこでレイナークでの活躍の話も聞いたよ。お前を追い出したこと謝るから、帰ってきてくれ。もう俺のギルドがまともに機能しなくなって、困ったなんてレベルの話じゃないんだ……お願いだぁ、帰って来てくれぇ」
シモンはおいおい涙を流しながら俺にそう訴えかけてくる。
「いやぁ、でも俺はこっちで仕事してるしなぁ。帰ったところでメリットもないし」
「お願いだ……いや、お願いしますよぉアルさん。お願いですから帰って来てください」
シモンは媚び媚びの表情と声でそう言って、俺の靴をペロペロ舐めだした。
こいつ、どれだけ落ちぶれてるんだよ……
「この通りですから、帰って来てください」
「汚っ。ちょっとやめろよ。そんなことされても嬉しくともなんともない」
俺が足を引くと、シモンはさらに涙を流しながらこちらを見る。
「お願いですよ~。帰って来て下さい~」
「い、いや……お断りしておくよ」
さすがにエミリアもシモンの行動にはドン引きしている様子で、何も言わずに顔をヒクヒクさせていた。
俺は別件でシモンと話をしたかったので、とりあえずはローランドで休む場所を用意してやることにした。
シモンは俺が帰る話と勘違いしていたようで、笑顔のまま男に連れて行かれる。
「おいアル! メチャクチャうめえじゃねえか! おかわりくれや!」
「ああ。分かったよ」
ボランがもつ鍋を食いつくし、鍋をかかえてそう言った。
彼は今回一番の功労者だ。
俺は喜んでおかわりを用意することにした。
その後も、さらなる町の発展と、みんなが幸せに生活していけるように。
そして仲間たちが生きていることに感謝して……
色んな願いを込めて、もつ鍋を大量に振る舞った。
「ア、アニキ……痛いっす……どうしたらいいっすか?」
「…………」
手を倍ぐらい腫れさせたジオが、俺に泣きついてくる。
俺は呆れながらも、みんなの健康も祈っておくことにした。
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