第45話 アルはエミリアと再会する
鳴り止まない男たちの叫び声。
戦いの勢いはさらに増していく。
モンスターたちはローランドとレイナークの戦士たちにたじろぐばかりであった。
まだ敵の数はモンスターの方が圧倒的だというのに、もう負ける気配はない。
「すげーよすげーよ! 親分はやっぱりすげーよ!」
「アルさんがいればどんな戦いも負けやしない! あの人についていけば間違いないんだ!」
「あ、あれがローランドのアルベルト・ガイゼルか……噂どころの強さじゃない!」
俺を褒め称える声が耳には入ってくる。
「よし。最後に大花火を上げてローランドに帰るとするよ」
『大花火でございますか?』
「ああ。デビルグリズリーを倒した時と同じやつさ」
『ああ……なるほど』
ブルーティアがロッドモードに変化する。
そして火の力を放出してやると、天に向かって赤い閃光が走った。
「後のことは任せた。みんななら必ず勝てると信じているよ」
俺の言葉に呼応する仲間たち。
閃光はドンッと空中で爆発し、敵に向かって炎の雨が降りしきる。
勝利の前祝いだ。
【フレイムレイン】にまたみんなが大騒ぎをしていた。
ギガタラスクがブルーティアに収納されると、ティアは人間の姿に戻る。
「ティア。お前もここに残ってくれ。俺はローランドの方に加勢しに行って来るよ」
「かしこまりました。お気をつけ下さいませ」
俺とティアは同時に【空間移動】を開く。
ティアは現在戦っている仲間たちの後方へ、俺はローランドのギルド前へと移動する。
「アル様!」
「どんな様子だい?」
「どんな様子って……ちょっと大変なことになっていて……」
「大変なこと?」
「あの、女の子が登場したんですけど……」
カトレアはスライムの力で外の情報を確認していたようで、その様子を理解している彼女は、たらりと一筋の汗を流す。
「……その子がメチャクチャ強くって、戦況が大きく変わっちゃったんです」
「……一人で戦況を変えるような女の子……って、まさか」
そんな女の子、俺には一人しか思い浮かばない。
その子のことを考え、少しばかり高揚する自分がいた。
「カトレア、武器の状態でも、結界は維持できるのか?」
「武器の状態の方が維持しやすいです。アル様がスキルを習得してくれれば、その力で私が制御しますので、この場を離れることもできますよ☆」
「よし、じゃあスキルの習得を頼むよ」
「は~い」
そう言ったカトレアの体ばポワッと光る。
そしてソードモードに変形し、カトレアを手にした俺は町の外へと向かった。
「ア、アルさんだ! アルさんが来たぞ!」
町人が俺の姿を見て、少し嬉しそうな顔をする。
だが、外で繰り広げられているであろう戦いの方に視線を戻し、唖然としていた。
「おお、アル! あいつが来てくれたぞ!」
「ああ、やっぱりね」
テロンさんが嬉しそうに俺に話かけてきた。
「よ、よおアル」
「ボラン」
傷だらけのボランが地面に座り込み、俺を見上げる。
こんな傷だらけになって……みんなを守ってくれていたんだ。
俺は彼の姿を見て、感謝の念を抱いていた。
「傷を治すよ」
「ああっ!? 俺は後でいいから、さっさと外のこと済ましてこいや!」
ボランは顎で外の方を指す。
俺は群がるみんなを飛び越え、町の外へと飛び出した。
「エミリア」
戦場にはエミリアと黒ずくめの男が6人。
そしてモンスターが20匹ほど残っていた。
大地には――数えきれないほどのモンスターの死骸が転がっている。
「……アルっ、お前!」
エミリアはモンスターに背を向け、俺に向かってズンズン近づいてくる。
「ガーッ!」
デビルグリズリーがエミリアを襲おうとする。
が、急にデビルグリズリーの体がバラバラになってしまう。
斬った。
エミリアが斬ったんだ。
なんとか太刀筋は見えたけど……なんて迅さをしているんだ。
俺はゾッとし、怒るエミリアに笑みを向けた。
「久しぶりだなぁ、元気にしてたか?」
「なんで勝手に町を出て行った!? 私が帰ってくるまで待ってろよ」
「あの時は必死だったんだ。でもこうして再会できたからもういいだろ?」
「でも、一ヶ月以上会えなかったんだぞ!」
エミリアはほんのり頬を染めて怒る。
「いや、一ヶ月以上というのは、ほとんどエミリアが悪いんじゃ……」
迷子になったのはエミリアだし。
長期間会えなかったのは、俺の責任ではない。
黙って出て行ったのは事実だけど。
「6割だ!」
「いや、9割ぐらい悪いだろ」
「……じゃあ8割」
ついっと視線を逸らすエミリア。
背後にまで迫っていたグリフォンの頭部にレイピアを突き刺す。
「Cクラスのモンスター相手に余裕すぎだろ……なんだよあの女は」
町の男たちがエミリアの強さに呆れ返っていた。
「なあエミリア、俺も結構強くなったんだぞ」
正確には強くなったのは神剣ではあるけど。
ま、その辺の説明は曖昧にしておいてもいいだろう。
「別に、あんたが強くなっても驚かないけど。アルにはそれだけの素質があったからな」
『……アル様のことよく知っているんですね、この子』
「ああ。子供の頃からずっと一緒だからな」
エミリアは俺とカトレアの会話を聞いて、目を点にさせていた。
「この剣、喋れるのかよ。というか、ブルーティアじゃないよな」
「ああ。これはホワイトカトレアと言って――」
『アル様の従順な僕であり、未来のお嫁さんでーっす☆』
「……剣と結婚だと? 後で詳しい話を聞こうか」
エミリアの額に青筋が立つ。
カトレア……いらないことを言うんじゃない。
こいつは本当に怖いんだから、冗談でもそんなこと言うなよっ。
俺はエミリアのレイピアを見て、カトレアに言う。
「カトレア。レイピアモードでいこうと思う。【小剣】スキルの習得とモードの変更を頼む。バランスは攻撃と防御50・50だ」
『了解で~すっ』
ホワイトカトレアは、純白のレイピアへと変化し、依然として俺の右手に納まっていた。
俺はエミリアと肩を並べ、敵と対峙する。
「私一人でも十分すぎるぐらいだけど、あんたの実力、確認してやるよ」
「ふふふ。驚くなよぉ」
ドンッと加速する俺たち。
エミリアが敵とすれ違うと、モンスターの身体はバラバラになっていく。
俺は相手の頭部、心臓を狙って一撃で葬って行く。
「へえ、本当に強くなったみたいだな。やるじゃないか」
「エミリアほど迅くはないけどな」
「はっ! レイピアの扱いは得意なんだよ」
エミリアは笑みを浮かべながら、次々とモンスターをこま切れにしていく。
これほどの剣速は自身のレベルを上げないと不可能だろうな……
まぁ、俺には必要無いかな。
俺は着実に、確実に止めをさしていく。
これで十分だ。
レッドオーガの頭部を突き刺し、デビルグリズリーの頸動脈を切り裂く。
そしてあっと言う間に、モンスターたちを全滅させることに成功した。
「つ、強い……二人とも段違いに強い!」
驚嘆した声を上げる町人たち。
その声を背後に、俺とエミリアは黒ずくめの男たちへと視線を向けた。
「お前たち、ローランドを燃やした連中だよな? 今回もそうだが、目的はなんだ?」
「…………」
短剣を構える男たち。
話は通用しない、か。
そして音を立てずに奴らは駆け出す。
「こいつら、【アサシン】辺りか……アル、人間を殺したことはあるか?」
「いやー、無いねぇ」
「だったら、後は私に任せろ。悪人限定だけど、私は経験があるからな……どう見ても悪者だし、殺してしまっても問題ないだろ」
エミリアは相手を睨み付け、数歩前に出る。
「話を聞きたいから、一人は残してくれよ」
「分かったよ」
エミリアに突撃を仕掛ける男たち。
「【ホーリースティング】!」
エミリアは接近する男たちに、神聖な力を纏ったレイピアを乱れ撃つ。
全身穴だらけになった奴らは、バタバタと倒れて行く。
残ったのは1人のみ。
エミリアは素早い動きで男を跪かせ、後ろからレイピアを首に宛がう。
「さあ、話してもらおうか。お前たちは自分の意志でローランドに来たのか? それとも誰かの命令で……」
俺が近づいて話を聞こうとすると、男は自分の心臓を短剣で一突きする。
絶命する男。
エミリアは嘆息し、レイピアを鞘に納めた。
「口を割る前に死んだ、か」
「…………」
俺が拳をギュッと握り締めると、エミリアは俺の背中をポンと叩く。
「そう落ち込むなよ。ほら、後ろを見ろ。みんな無事だ。今はそれだけでいいだろ?」
「……ああ。そうだな」
町のみんなが歓声を上げていた。
無事に涙を流し、抱き合っている者もいる。
情報を聞き出すことはできなかったけど……みんなは無事だった。
確かに今は、それだけで十分なのかもしれない。
俺は軽くため息をつき、笑顔を漏らす皆の顔を見ながらそう考えていた。
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