第44話 戦場は二つ③
「エミリア……やっと到着したのかよ……?」
「……テロンさん、なんでここにいんのよ」
ピュッとレイピアを振るい、血を弾くエミリア。
「そ、そんなことよりこいつらなんとかしてくれ! 俺らじゃ悔しいが、どうしようもねえんだ!」
エミリアの姿を見たテロンさんたちの変化に、頭を傾げる町の男。
「? あんな子供が一人来たところでどうなるってんだ……?」
「誰が子供だ! てめえ、後で覚えてろよ!」
「ひっ!!」
見た目からは信じられないような迫力を感じさせるエミリア。
その憤怒の表情に、男は腹の底から湧き上がる恐怖に震えあがっていた。
「エ、エミリアさんって、確かアルさんの幼馴染で……前のギルドでも5本の指に入る実力者、でしたっけ?」
ペトラがテロンにそう訊くと、話を聞いていたエミリアが嘆息する。
「はぁ……アルの奴、そんなこと言ってたのかよ」
「え、違うんですか?」
「ああ。違うな」
テロンの言葉に、肩を落とすペトラ。
「ご、5本の指に入る実力者じゃないなら、この状況――」
「エミリアは、5本の指どころか……マーフィンにある3つのギルドを合わせた中でも最強だ」
「え?」
「5本の指ってのは情報が古い。少し前の話だ。アルもその辺の話はちゃんと聞いてなかったんだろうな」
ペトラはエミリアの姿を見て、驚き、口を開ける。
「さ、最強って……じゃあ」
「ああ……エミリアなら、この状況をなんとかしてくれる」
ペトラは背中をブルッと震わせる。
彼女ならもしかして……ペトラの胸にも希望の灯が灯り出す。
「ちょっと、あんたは向こう行って」
エミリアは猫でも扱うかのように、ボランの襟首を持ち上げ、ポイッと【結界】の中へと放り込む。
「ど、どんな力してんだよ……」
エミリアの怪力に、驚愕の声を上げる自警団の男たち。
ドサッとボランは地面に落ち、子供たちが駆け寄り抱きついていく。
「ボラン!」
「い、いてーんだよ、このクソガキどもが!」
「ボラン……」
キャメロンは膝をつき、涙を流しながらボランの血を拭き始める。
全身真っ赤になるボラン。
「こここ、こんなぐらいどうってことねえんだよ! それより、あいつ……」
「エミリアなら大丈夫だ」
「ああっ?」
テロンはエミリアから視線を外さないままニヤリと笑う。
「怪力自慢の男さえ敵わない腕力に、目にもとまらぬ太刀筋。マーフィンにおいて最強で最凶の女戦士……あまりの強さを誇り、とてつもない迅さで敵を倒すエミリアについた二つ名は――【神力瞬殺】」
エミリアのレイピアがヒュンヒュンと動いたかと思ったら、目の前にいた男の身体がバラバラに分解された。
町の男たちは目を点にさせて声をあげる。
「つ……つええ! それにはええ!!」
黒ずくめの男たちがサッとエミリアとの距離を取ると、モンスターたちは【結界】への攻撃を中断し、彼女に向かって駆け出した。
「ふん。あんたら程度に私が止められると思ってんの? あんま舐めないでくんない?」
◇◇◇◇◇◇◇
ギガタラスクが大きく足を上げる。
俺を踏み潰すために。
だが、
「そんな鈍い動きじゃ、俺を踏みつけることはできないぞ」
俺はギガタラスクの側面に移動するように、ダッと駆け出す。
襲い来るモンスターを斬り倒しながら、走る。
ずしーんと地震が起きたかのような衝撃。
一瞬身体が浮くが、問題はない。
「喰らったらひとたまりも無いな」
『逆に言えば、喰らわなければ問題ありませんね』
「そういうことだな。そして、こんなもの喰らうわけもない」
俺はギガタラスクの足にブルーティアを突き立てた。
少々傷をつけることができたが、あまり効果が見られない。
「あれ? もう少し利くと思ったんだけどな」
『予想以上の硬さですね』
「だな……っ!?」
ギガタラスクは突然、身体を回転させ始めた。
その巨体からは信じられないような速度で、回る、回る。
奴の体から激しい突風が発生し、砂と石つぶてを周囲に巻き散らす。
特に石の威力は凄まじく、Cクラスモンスターたちの体に風穴を開けていく。
俺はこれらを宙高く舞い、回避する。
するとギガタラスクは回転を止め、ズンッと大きな音を立て着地した。
「他のモンスターをまとめて倒してくれたし、このまま放置しておくのも悪くないかもな」
『ですが、カトレアが待っているのではないですか?』
「そうなんだよなぁ。待ち人がいるから、あまり時間はかけられないんだよな。よし。一気に勝負をつけるか。ティア、【暗黒剣】の最大習得を頼む」
『かしこまりました』
ブルーティアが光り、【暗黒剣】の使用が可能となる。
【暗黒剣】――
それは【ナイト】の上位職の一つ【ダークナイト】の剣スキルだ。
闇の力を剣に宿し、【剣】スキルよりも強力な攻撃を可能とするスキル。
俺はギガタラスクに向かって落下を開始する。
突き刺すような風を肌で感じ、ブオーッという激しい音が耳に鳴り響く。
「【ダークネススラッシュ】」
自身の何倍もの長さを誇る闇の刃を展開させる。
俺はそれを下に構え――
ギガタラスクの甲羅に突き刺した。
「ゴォオオオオオオアアアアアアアア!!!」
腹のそこに響いてくる咆哮。
ギガタラスクが痛みに叫んでいる。
「どうりゃああああああ」
俺はそのまま、ギガタラスクの甲羅の上を駆け出した。
首元当たりから、尻尾の方に向かって全力で走り抜ける。
「……す、凄すぎる……アニキ、凄すぎっすよ!」
スパンッとギガタラスクの甲羅が真っ二つに裂ける。
血が噴水のように噴き出し、辺り一面を真っ赤に染めていく。
ギガタラスクは横に崩れ落ち、激しい揺れを起こす。
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」
男たちの咆哮。
それはギガタラスクの断末魔よりも草原に響き渡った。
その咆哮はギガタラスクを倒したことによる歓喜のものであったが、勝利の雄たけびにも聞こえる。
俺は目を閉じそれを聞き、胸の内を喜びに満たしていた。
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