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第43話 戦場は二つ②

 依然として、俺たちはモンスターを攻め押していた。


 ジオを筆頭に実力者揃いのローランドの冒険者たち。

 レイナークの戦士たちもそれに負けじと奮闘している。


『ご主人様、あれをどういたしますか?』

「ああ……俺たちが相手をするしかないだろう」


 俺はブルーティアを一度止め、ローズに人間の姿に戻ってもらう。


「ローズ、指揮は任せた」

「はっ! ご武運をお祈りしております!」


 ローズはジオたちのもとへと駆けてゆき、鞭でモンスターをなぎ倒していく。

 彼女の強さもひときわ目立ち、その容姿から目を離せないレイナークの男たちが数人いた。


「び、美人だ……」


 彼女にアピールしようと張り切り出すローズ派の男たちもいる。


「教官! 自分、頑張っておりますので見ていて下さい!」

「てめえ、抜け駆けすんじゃねえ! あ、自分も頑張っておりますから!」

「無駄口を叩く暇があればさっさと敵を倒せ! 貴様らが頑張っていることぐらい、把握している!」

「「「……イエス! マム!」」」


 男たちはなんとも嬉しそうにモンスターを退治していく。


 俺はその様子を見届け、アクセルを回す。


 モンスターたちを迂回しながら、ギガタラスクに近づいて行く。


 が、俺を追いかけて来るモンスターも多数いる。


「面倒だなぁ」

『蹴散らしていきますか?』

「ああ。そうしよう」


 進行方向を変え、モンスターを土台にしてブルーティアで宙を浮く。


 空中でブルーティアは神剣の姿になり、俺の手に納まる。


「【ソニックストライク】」


 敵の密集している空間を狙って真空の刃を放つ。

 モンスターは刃に両断されていき、その跡に一本の道が出来上がった。

 【ソニックストライク】をはギガタラスクに向かって放ったので、一直線の道は奴の方へと伸びている。

 

 俺はそこへと着地して、ギガタラスクの方向へと駆けた。

 

 だがモンスターは俺に向かって全方位から雪崩れ込んでくる。


 俺はくるくる体を回転させながら【ソニックストライク】を解き放つ。


 ドンゥと勢いよく吹き飛んでいくモンスターたち。

 ギガタラスクへの接近を再開させる。


 ジオたちが俺の戦う姿を見て何か驚きに満ちた声を上げていたが、それを無視してとにかく突き進む。


 そしてギガタラスクの目の前にまで到着し、俺はその巨体を見上げた。


「さてと……どうやって倒すかな」



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ボラン……ボラン!」


 【結界】の中へ避難した仲間たち。

 そして町の町人たちがボランに声を掛ける。


 不安。

 恐怖。

 そしてボランを心配する気持ち。


 町人たちは傷だらけになっていくボランの背中を、震えながら見守っていた。


「ああっ! 私もアル様に頼んで【空間移動(ワープゲート)】習得しとくんだった! そしたらみんな連れて逃げれたのに……くそっ、くそっ!」


 カトレアは相変わらずギルド前で【結界】を維持していて動けないので、その場で地団駄を踏んでいた。


「ボラン……」


 キャメロンが涙を浮かべながらボランの無事を祈っている。


「へっ……俺が死んでも、お前らは守ってみせるぜ! だから……心配しねえでそこで見てろ!」


 剣はすでに折れ、鎧もズタボロになり、盾は半壊していた。

 頭から流れ出た血によって片目が塞がっている。


 そんな状態でもボランの心は折れない。

 たとえ自分に何があろうとも、町人を守ってみせる。

 彼はそれだけを考え、モンスターの前に立ちはだかっていた。


「ボランさん……何でそこまで……何でそんな傷だらけになっても、こんな絶望的な状況でも、みんなのために戦えるんですか」


 そうボランに問うのは、戦いに参加できず、【結界】の中で涙を流しているロイだった。

 こんな悪夢のような状況の中でも、決してあきらめないボランの姿に、ロイは心を打たれていた。

 いや、心を打たれていたのはロイだけではない。

 そこにいる全員が、ボランの姿に感動すら覚えていた。


「……毎日毎日、クソみたいな生き方してよ、クソみたいな町で、これからどうなっていくんだって思ってた。それがアルのおかげでまともな町になってきて、みんな笑顔になってよ……俺はただ、その笑顔を守ってやりてえって思っただけだ」

「…………」


 ギリッと歯噛みするボランは、眉間に寄せれるだけの皺を寄せる。


「町を燃やされた時の、みんなの絶望。忘れらんねえんだよ……もう、あんな気持ち、味わせたくねえし、味わいたくねえ。だから、俺は覚悟しただけだ」


 これまでのローランドと燃やされたあの日のことを思い浮かべ、ボランは怒りを再燃させていた。


 もうあんな日々はごめんだ。

 もうあんな思いをみんなにさせたくない。

 もう絶対にみんなを、悲しませたくない。

 

 だからボランは覚悟を決めた。

 

「……覚悟?」

「ああ。ぜってーに全員守ってやるって覚悟が決まっただけだ。覚悟ってのは、ぜってー揺るがないってことだ。何があっても、命に代えても自分の信念を貫き通す。それが覚悟なんだよ……」


 デビルグリズリーの爪を盾で受け止めるボラン。


「だから……俺は守るんだよ……よえーてめえらを、強い心で守るんだよ! 状況が絶望的? だからなんだってんだ! 俺はただお前らを守るだけだ! 分かったかコラッ!」


 ボランは盾でデビルグリズリーを殴りつけ、命を奪う。


「……ボランさん」


 ロイは涙が止まらなくなっていた。

 ボランの勇姿に、心の叫びに――全身が、心が、稲妻に打たれたかのように痺れ震える。


 そしてこんな状況の中でも強い意志と勇気を失わないボランの姿に釘付けになっていた。


「……なん、だ?」


 モンスターを抑えようと盾を構えるボランの前に、人間が現れた。

 数は8人。


 それを見てボランたちは違和感を覚えていた。


「……なんであいつら、モンスターに襲われないんだ?」


 テロンがぽつりと呟いた。


 そう。

 その人間たちはモンスターの中心にいるというのに、奴らに襲われない。


「……てめえら」


 その姿を見て、ボランの頭に血が上る。


 それは、黒ずくめの男たち――


 ローランドを燃やした犯人たちであった。


「この野郎……またてめえらの仕業か、ああっ!?」


 怒声を発するボラン。


 しかし男たちは無言で短剣を手に取り、素早い動きでボランへと詰め寄る。

 モンスターは男たちにボランを任せるかのように、ローランドを守る【結界】に攻撃を仕掛けだした。


「きゃー!!」


 町人たちの悲鳴が響き渡る。


 ボランは黒ずくめの男たちに切り刻まれていく。


 鎧を少しずつ切り落とされてゆき、盾もじわじわと切り刻まれる。


 完全に舐められていた。

 傷だらけの上、もう武器も無い。


 男たちは時間をかけてボランの命を削っていた。


「ぐっ……てめえらっ……」


 さらに体中を斬られていき、とうとう膝をつくボラン。


 全身から血を吹き出し、意識は失いつつあった。


「ボラン!」


 テロンたちの声が虚しく響く。

 

 もう助からない。

 ここでボランは死ぬ。


 ローランドのみんなは絶望していた。


 そんな中でも残る意識を集中し、敵を睨み付けるボラン。


「……い、いつかアルがてめえらをぶっ倒す。だから俺はここで死のうが悔いはねえ……」

「ボラン!」


 子供たち、キャメロンたちが悲鳴のようにボランの名前を叫ぶ。


「…………」


 男の一人が短剣を振り上げる。


「そいつ殺したらな、アルさんがお前らボコボコにしばき回すぞ! ええんか!」


 ペトラは泣きながら男たちに声を荒げる。


 睨むだけの力を失い、ボランは俯いてしまう。

 覚悟したのだ。


 死を。


 モンスターが【結界】を襲う中、ボランの名前を叫ぶ町人たち。

 だがその声はボランの耳には届いていなかった。

 ゆっくり目を閉じ、みんなの無事だけをそっと祈る。


 あばよ……おまえら……キャメロン。

 無事でいてくれ……


 そして、短剣は振り下ろされる。


 目を伏せるキャメロンたち。


 無残にも短剣はボランの首に突き立てられようとしていた。


「!?」


 が、突如――


 男の体が、16個に分解される。


 いきなり、唐突に、突然に、綺麗に分解されたのだ。


「ちょっと邪魔なんだけど」

「あ……ああっ!!」

 

 テロンが歓喜に涙を目に浮かべる。

 テロンだけではない、マーフィンのギルドにいたメンツ全員が、涙を流し、笑みを浮かべていた。


「ここ、ローランドで間違いない?」


 ボランはゆっくりと声に顔を向ける。


「あ……ああ……」


 美しい金髪に赤いカチューシャ。

 強気な瞳を持つその少女は子供にしか見えなかった。


 だが、その姿を知る者たちは喜びに打ち震える。


「エ……」


 テロンたちを支配していた絶望が希望へと転換されていく。


「「「エミリア!」」」


 レイピアを右手に持った、子供のようにしか見えないアルの幼馴染――


 エミリアの姿がそこにはあったからだ。

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ここまで読んでいただいてありがとうございます。

大感謝です!


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[一言] おいおい!美味しいところを持って行きやがったよ! エミリアぁあ!!
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