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第42話 戦場は二つ①

 ローランドを守るのはボランを含める計18人の男たち。


 カトレアは町の中心、ギルド前で【テイム】したスライムたちに命令を出す。


「じゃあみんな、アル様のために頑張って町を守ろうねっ」


 カトレアは【テイマー】の能力を習得しており、モンスターを使役することができる。

 彼女のもとにいるモンスターはどこから見つけてきたのかは分からないが、全部白いスライムであった。


 そのスライムたちは、町を囲むようにピョコピョコ四散していく。


「ここで町を守ったら、アル様も私のことを褒めてくれるはず。いししっ。」


 ニヤリと、普段誰にも見せないような悪い笑みを浮かべるカトレア。


 そしていい具合に分散したという報告がスライムたちから入り、スーッと息を吸い込んだ。


「【結界(セイフティウォール)】」!


 その言葉と共に、カトレアの身体から稲妻が走り、スライムたちに向かって走り出す。


 スライムに稲妻が届くと、町を取り囲むよう侵入不可の障壁が発生する。


「戦いには参加できないけど、これで町を守れる……けれど、長時間は持たないから早く帰ってきてくださいね、アル様」


 カトレアはここにはいないアルを思い浮かべ、そう言葉を漏らした。


「これなら後ろを気にしないで戦えるじゃねえか! よっしゃ! かかってこいや!」


 ローランドに迫り来るモンスターは、Cクラスモンスターばかりであった。


 デビルグリズリー。


 鷲の頭と翼にライオンの胴体を持つグリフォン。

 

 赤い皮膚で人間を大きくしたような体型に二本角が生えたレッドオーガ。


 

 それらが無言で殺気を放ちながら歩いて来る。

 まるで獲物を追い詰め余裕を見せるかのように。

 走らず、ただ着実にその距離を詰めて来ていた。


「ううう……Cクラスモンスターばかりだ……」

「てめえらは強いだろうが! 今までだってCクラス相手に勝ってきたんじゃねえのか!?」


 ローズらの訓練に参加してきた彼らは、Cクラスモンスターを何度も討伐してきたのは事実だ。

 しかし、数が多い。

 何百というモンスターが目の前にいる。

 どうしても身体が震え出す。


「だけどよぉ、俺らが気合入れねえと、みんな死んじまうんだぞ」

「エイドルフ……」


 そう言ったのはボランの右腕とも呼べる存在であるエイドルフという男だった。

 黒い髪をボランのように逆立て、左目に深い切り傷がありその目は開かない。

 ボランと同じく鎧を装着していて槍を構えている。


「ビビッていても死ぬだけだ。気合入れろ。腹をくくれ。ここを守れるのは俺たちしかいねえんだ。町のガキも女も、死んじまっていいのかよ」


 男たちはハッとし、町に住むみんなのことを思い浮かべる。


「……そうだった……俺たちはみんなを守らないといけないんだ」

「そうだ! 俺らの仕事はみんなを守ってやることなんだよ! アルが来るまで気合いれろや!」

「「おおっ」」


 モンスターはその姿をハッキリと確認できるほどまで距離を詰めて来ていた。

 そして――


 堰を切ったようにモンスターたちは駆け出した。


「来るぞ! 死ぬ気で守んぞオラァアア!」

「おう!」


 ボランを筆頭に、男たちも駆け出した。

 衝突するボランたち。


 「【シールドバッシュ】だオラッ!」


 ボランが凄まじい威力の【シールドバッシュ】を放つ。

 盾で殴り付けられたデビルグリズリーは首の骨を折り、フラフラしている。

 そこをエイドルフが槍で突き刺す。


「さすがボランだ。デタラメな威力してやがる」

「デタラメなくらいじゃねえとみんなを守れねえだろうが、ああっ!?」


 持てる最大の力で盾を振り回し、敵を殴りつけていくボラン。

 その荒々しい戦い方に、仲間たちは呆れつつも安心感を覚えていた。

 

 戦う仲間たちさえも守るという気迫を発しているボラン。

 それは男たちから見れば、心強さこの上なく、勇気づけられていた。


 決して心が折れることなく、モンスターとの激戦を繰り広げるボランたち。




 ……だが戦いは熾烈を極め、男たちは次々に深手を負っていく。


「くっ……負けるかよ!」

「俺らが負けたら、みんながヤベえんだ!」


 デビルグリズリーの裂傷やグリフォンの嘴に抉られた傷。

 レッドオークの持つ棍棒に殴られた者もいる。


 男たちは勢いを失っていき、徐々に後退を始めた。


「み、みんな……」


 町の入り口、【結界】内から、ペトラを筆頭とした町人たちがボランたちの戦いを見届けていた。


「頑張って! ボラン!」


 キャメロンが面倒を見ている子供たちが心配そうにボランの名前を叫んでいる。


「心配してんじゃねえよ、ああっ!? てめえらは絶対に守ってやっからよ!」


 そう言って、レッドオーガの胸に剣を突き刺すボラン。

 ボランだけは傷も少なく、モンスターたちと対等以上に戦闘を続けていた。


「ボ、ボラン……俺らは限界だ。後はお前の盾代わりにしかなれねえ」


 折れた槍を敵に向けながら、傷だらけのエイドルフはそう言った。


「……てめえらが俺の盾になんてなれると思ってんのかよ?」

「な、なんだと……」


 ボランの言葉にムッとするエイドルフ。


「俺が……てめえらを盾にするわけねえだろうが! 俺がてめえら全員まとめて守ってやる! 盾になるのは、俺なんだよ! 分かったかコラッ!」

「ボ、ボラン……」


 エイドルフたちはボランの背中を見つめ、目頭を熱くし、心を震わせていた。

 

 ボランは一歩前に出て、エイドルフたちへ怒声にしか聞こえない声で言う。


「てめえらも町に避難してろや! 俺が町もてめえらも、何もかも守ってやるからよ!」

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