第39話 アルはジオに人助けをさせる②
「うっひゃー! メチャクチャ気持ちいいっすね!」
ティアをレイナークに呼び出し、ブルーティアのバイクモードで草原をビュンビュン疾走する。
強い風を肌で感じながらミュウのお父さんを探していた。
ジオはブルーティアの速さに感動し、後ろで大暴れしている。
「楽しい気持ちはよく分かるけど、お前もちゃんと探してくれよ」
「了解っす了解っす。くまなく探させてもらいますよっ」
キョロキョロ周囲を見渡すポーズを取るジオ。
人探しよりバイクの方が楽しすぎるようで、また感激した様子で笑っている。
『ご主人様、あれを』
ティアが見つけたのは、壊された馬車だった。
馬はどこかに逃げ出したようで、もう姿は見当たらない。
「あ、アニキ、中に人がいますよ」
「中に?」
俺はブルーティアを止め、壊れた馬車の中を確認する。
「…………」
意識朦朧としているが、生きている。
手元には水があり、それを飲んでなんとか生き延びていたようだ。
俺は怪我に響かないように、慎重に馬車の側面を取り外していく。
一瞬で壊すだけの力はあるが、こうやってゆっくり剥がす作業は緊張するな。
心臓をドキドキさせ、ゴクリと息を飲んでゆっくりゆっくり外す。
最後にガッと外れ、中からうめき声が聞こえてくる。
「……問題はないみたいだな」
「そのようでございますね」
ホッとため息をつき、俺はジオに指示を出す。
「ジオ。お前が助けてやってくれ」
「なんで俺が助けるんすか? 何があったか知らないっすけど、怪我した方が悪いでしょ?」
「悪い悪くないの問題じゃないんだよ。ジオはこれからも俺の子分としてそばにいたいか?」
「はぁ、そりゃ、そうっすけど」
「じゃあ、頼むよ」
「……はい」
釈然としない表情でジオはミュウの父親を馬車から救い出し、背負う。
俺が空間を開き、カトレアがいる場所へと向かった。
「カトレアはギルドの入り口にいるみたいだ」
「はぁ……」
つまらなそうにジオは歩く。
なんでこんなこと俺がしないといけなんだよ。
そんな顔をしている。
「アル様~。その人ですか?」
「ああ。治療を頼むよ」
カトレアは【回復】のスキルを習得しているので、彼の傷を癒すことができる。
ギルドに入り、床に寝そべらせると、カトレアが【ヒール】を発動させた。
「う……ううう……」
傷が少しずつ塞がっていく。
意識はまだ戻らないが、顔色が良くなっていた。
「…………」
ジオは治療の様子より、自分の服についた血ばかりを気にしていた。
「お父さん!」
ティアに話を聞いたミュウがギルドへと駆けこんで来た。
「お父さん、お父さん!」
「大丈夫だよ。もう心配ないからね」
「うん……ありがとう、アルお兄ちゃん!」
ミュウは涙を流しながら笑顔でそう言った。
「……お礼は、こっちのお兄ちゃんに言ってやってくれ。お父さんを運んでくれたのは、あいつだから」
「え?」
俺の言葉にキョトンとするジオ。
ミュウはジオの前に立ち、ペコッと頭を下げる。
「ありがとうお兄ちゃん! お父さんを助けてくれて」
「お、おお……」
ニッコリ微笑むミュウに、照れるジオ。
俺は彼の隣に立ち、ジオに話しかける。
「どうだ? 悪い気はしないだろ?」
「……そ、そうっすね」
照れて鼻をかいているジオ。
「これが人を助けるということだ。なんとも言えない喜びを感じないか?」
「ま、まぁ……」
まんざらでもないと言った顔のジオに、俺はくすりと笑う。
「強い者が弱い者を喰うんじゃなくて、強い者が弱い者を助ける。それが本来の人間のあるべき姿だ。弱肉強食なんて野蛮な考えは捨てて、俺と一緒に人間らしい生き方をする気はないか?」
「……助ける、すか」
「人を傷つけるだけじゃ得られない感動を、あの子からもらえただろ? それがこれからも得られる報酬だよ」
ジオは真剣な顔でミュウの横顔を見つめ、ポツリと呟いた。
「……悪くないかもっすね」
「だろ?」
俺はジオの背中をパンッと叩く。
「お前ならきっと変われるよ。俺はそう信じている。ローランドはもう人を傷つけ、奪って生きていくような町じゃない。これからはお互いに助け合って生きていかないと。なっ」
「……うっす」
ジオがどれだけ分かったのか。
それは俺には分からない。
だけど、今回のことがジオにとってのターニングポイントになってくれたらと、俺は願う。
生まれ育った環境のせいでジオも悪党にはなったが、きっと優しい世界を知れば彼も変わるはずだ。
俺はジオのなんとも言えない、むずがゆそうな表情を見ながら、くすりと笑った。
◇◇◇◇◇◇◇
一週間後。
天気はよく、太陽が必要以上に燃えている朝。
「じゃあボラン、カトレア。町の守りを頼んだよ」
「任せとけ! 俺が全員守ってやるからよ!」
「は~い。私アル様のために頑張りま~す☆」
「俺のためじゃない。みんなの為に頑張ってくれ」
ローランドをボランとその仲間たち、そしてカトレアに託して俺たちはレイナークへと向かうことにした。
「四害王……強力なモンスターを送り込むってことらしいけど、大丈夫か、ティア」
「はい。ご主人様がいれば、どんな敵が来ようとも問題はありません」
「俺もティアがいれば、負ける気はしないよ」
俺の横でニコリと笑うティア。
ローズが空間を広げ、レイナークへの進軍が開始される。
鍛え上げられたローランドの冒険者たちが堂々とした面持ちで隊列をなし、不敵な笑みを浮かべながら歩いていく。
本当に心強くなったよ、みんな。
俺も仲間たちに続き、空間の穴を通ってレイナークへと移動を開始した。
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