第37話 ローズはアルに甘えたい
「おい、もうマーフィンには来るなって言ったよな?」
落ち込むロイをマーフィンの広場で慰めていると、ゴルゴが顔をピクピクさせながらやって来た。
なんて間の悪い。
まさかこんなところでゴルゴと会うとは。
だけどこういう時に会ってしまうものなんだよなぁ、不思議と。
「あー……言ってたな」
「じゃあなぜ来た?」
「それはお前が勝手に言ってただけであって、俺は約束したわけでも承認したわけでもない」
「……潰す。絶対にぶっ潰す」
下品な指輪を8つつけた指をコキコキ鳴らすゴルゴ。
殴り合いの喧嘩なんてまた面倒な。
俺ははーとため息をつき、相手の出方を窺った。
「…………」
ゴルゴは鼻がくっつくほど俺に接近する。
「喧嘩には偉く自信がありそうな顔をしているな」
「まぁ、今は自信しかないかな」
「……勝てるにしても勝てないにしても、喧嘩ぐらいじゃお前の心は折れない、か」
ゴルゴは俺から離れ、その場を立ち去ろうとする。
「いいか。どんな方法を使っても、俺はお前をぶっ潰す」
「はははっ。じゃあ俺はやられないようにできる限りの抵抗をするよ」
「……ちっ」
ゴルゴは苛立ちを隠そうともせず、近くにあった商店の果物を蹴り飛ばしていく。
店の人は困った顔をしつつも、相手がゴルゴだと分かると黙って果物の処理をしていた。
「……帰ろっか」
◇◇◇◇◇◇◇
俺たちはギルド横のルカが働いている酒場に来ていた。
店は大繁盛で、カウンター席しか空いてない状態だ。
カウンター席に座るロイは緊張でガチガチになり、俯いたままだった。
こいつはどこにいても俯いているんだなぁ。
「あ~アルさん~」
のんびりとした口調で、ルカが声をかけてくる。
「ロイもいらっしゃ~い」
「いい、いら、いらっしゃいましたっ」
どれだけ緊張してんだよ。
真っ赤になってルカと目を合わせようとしない。
俺は適当に食事をルカに注文し、ロイと会話する。
「で、あの子が好きらしいけど、どうするんだよ?」
「すすす、好きってわけじゃ……ないわけではないですけど……」
耳まで赤くしてロイは続ける。
「……でも、弱い僕なんかじゃ、振り向いてくれませんよね……」
「別に腕っぷしなんかはどうでもいいんじゃないの?」
「え、どうでもいい……んですか?」
「問題は心の強さだと俺は思うよ」
「心……」
ロイは自分の胸当たりに手をおき、話を聞いている。
「強くなれないのも心が原因だと思うし、相手に振り向いてもらえないと思うのも、心が問題だと思う」
「…………」
「『髪型より、心を整えろ』そんな格言もあるぐらい、心を整えるの大事なことだ。まずはロイ自身、心を整えてそれから事に当たった方がいい。何をするにも結果が違ってくるから、心を強く持ってみなよ」
まぁ、今すぐできるかは別問題として、心を強く持つことができればロイだった変われるはずだ。
誰だって変われるんだ。
俺はそれを伝えたいのだが……やはり、ロイは俯いてばかりいた。
「…………」
しかしスライムにやられてしまうほどの弱さとは……
この子はどれぐらいのステータスなのだろうか。
【鑑定】で確認したいな……
そう考えた時、丁度ティアが戻って来て俺の下へとやって来た。
よし。ティアがいたら【鑑定】を使えるぞ。
俺は【鑑定】を使用し、ロイのステータスを視認する。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ロイ・ロンドニック
ジョブ:プリースト
レベル:1
HP:5 FP:1
筋力:1 魔力:1
防守:1 敏捷:1
運:1
スキル 可能性の卵
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
弱っ!
まさかここまで酷いとは……
想定外もいいところだ。
「…………」
その後俺は、顔面蒼白でロイの横顔を黙って見ていた……
◇◇◇◇◇◇◇
その日の夜のこと。
ティアは錬金術の指導に、カトレアは町の見張りをしに外出していた。
自室には俺とローズ、二人だけだった。
「毎日ご苦労さんだね。またみんな強くなったらしいじゃないか」
「はっ! アルベルト様の剣となるよう、しっかりと教育しております」
ローズは背筋を伸ばし、キリッとした表情でそう答えた。
「俺のためじゃなくてもいんだけど……まぁ、ありがとう。助かるよ」
「恐縮であります!」
「…………」
ローズはいつも真面目で堅苦しい雰囲気だけれど、こんなので疲れないものかな。
そこで俺は、ローズが喜ぶものはなんだろう、と考える。
肩ひじ張らず、素直に喜んでくれるものがあれば、気も休まるのではないか。
「そういえば、ローズとカトレアには、何も返せていなかったな」
「返すなど滅相もございません! 私はアルベルト様のお役に立てればそれだけで十分でありますから」
さすがはティアの妹……なんていい子なんだ、ローズ。
ティアは美味しい物を提供したら喜んでくれたが……ローズはどうだろうか。
「何か食べたい物は無いか?」
「食べたい物でありますか……いえ、特にありません」
ティアも基本的に食事は必要ないって言ってたしなぁ。
うーん。だったらローズが喜んでくれるものって……なんだ?
全然思いつかない。
ただで働いてもらうのは俺の信条に反するし、何かお返しを与えてあげたいんだけどなぁ。
「……あ、あの、アルベルト様」
「え、何?」
ローズはキョロキョロ周囲を見渡しながら、俺に言う。
「その……私に何かを提供したいとお考えのようですが……こんなこと無礼になりますし、アルベルト様のお役に立てるだけで私は構わないのですが……あの、ご無礼でなければお願いしたいことが一つだけあります」
「お願いしたいこと? 何何? 遠慮なく言ってくれ。俺ができることならなんでもしてあげようじゃないか」
俺は揚々として、ローズの言葉を待った。
ローズはずいぶん迷ったあげく、ようやく口を開く。
「あ、甘えてもよろしいでしょうか……」
「甘える? それぐらい別にいいけど」
「そ、そうですか……」
甘えるぐらいなんてことないのに。
まぁ、普段のローズのことを考えたら、そんなキャラじゃないし気にする、かな?
だけどローズが甘えたいというのならば俺はドーンと受け入れるだけだ。
それぐらい別にどうということはない。
すると。
「――アルベルト様っ!」
ガバッとローズは俺の胸に飛び込んで来る。
俺は咄嗟のことによろけてベッドに座り込む。
「アルベルト様アルベルト様ぁ。私毎日アルベルト様の為に頑張ってるんですよぉ。自分も強くなったし、みんなも強くしたし、全部アルベルト様のためなんですぅ」
「…………」
ぐりぐり頭を俺の腹に押し付けるローズ。
「ねえねえ褒めて褒めて。私の頭をよしよししながらいーっぱい褒めてくださーい」
「よ、よしよし……」
「んふふふふ」
ローズは大きな尻尾を動かしながら、普段の彼女からは考えられないほど、強烈に甘えている。
あれ? この子ローズだよな?
カトレアと勘違いしてるとか?
頭を撫でられて満面の笑みを浮かべる彼女を見て、俺は頭を傾げる。
いや、可愛いんだけどさ……本当にローズか?
「アルさん、入るよ」
扉がコンコンとノックされる。
するとローズは光の速さで俺から離れ、姿勢を正し、キリッとした表情で扉に向かって声をかける。
「入れ」
「…………」
ガチャッと扉を開けた男は、ローズを見るなり敬礼をする。
「これは教官どの。こちらにいらっしゃいましたか」
「ああ。で、何の用だ? 話なら私が聞こう」
「…………」
それはいつも通りのローズだった。
だったらさっきの子供みたいに甘えてきたのも……ローズで間違いないんだよな。
俺は彼女の新たな一面に少し驚き、ちょっぴり笑みを浮かべてローズの顔を見る。
ローズは俺の視線に気づき、少しだけ頬を染め、真面目な顔で男と会話を続けていた。
【皆様へのお願い】
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
大感謝です!
これからもこの作品を他の沢山の方にも読んでいただいて、楽しんでもらいたいと考えております。
ランキングが上がれば自然に読んでくれる方も増えるので、ぜひお力添えのほど、よろしくお願いいたします。
そのため、もし少しでも、面白かった、続きが気になる。
そう思っていただけたなら、ブックマーク、高評価をお願いします。
評価はこの小説の下にある【☆☆☆☆☆】を押してもらえたらできます。
ブックマーク、高評価は、作品作りの励みになり、モチベーションに繋がります。
是非とも、よろしくお願いいたします!




