第36話 町は変化していく
訓練が開始されてからおよそ一ヶ月。
みんな以前とは比べ物にならないぐらい強くなっていた。
体はたくましく引き締まり、顔つきも凛々しいものに変貌している。
「…………」
みんな鎧を着飾り、風貌も戦士そのものになっている。
なってはいたが、少しばかり予想外のことが起きていた。
それは、ローズ派とカトレア派という、二つの派閥が出来上がってしまったこと。
みな腰に毛皮を巻いているのだが、黒い毛皮はローズ派。
白い毛皮はカトレア派、ということらしい。
「教官の方が美人に決まってんだろ!」
「バッカ! カトレアちゃんの方が可愛いだろうが!」
ギルドの入り口付近で、不毛な争いをしている数人の男たち。
顔と顔をくっつけ合い、いがみ合っている。
「おいおい、こんなところで喧嘩してんじゃねえよ」
「あ、ギルドマスター……」
男たちよりも大柄のテロンさんがギルドから出て来て、みんなをなだめていた。
「ギルドマスター、教官の方が美人だと思わねえか?」
「絶対カトレアちゃんだよな!」
テロンさんはため息をついて、ぼそっと呟く。
「俺は……ティア派だ」
「「…………」」
第三勢力確認。
これはまた大騒ぎになるのではないだろうか。
近くで見ていた俺だったが、急ぎ足でテロンさんたちに近づいて行く。
が、
「お前ら、あの子らにいいとこ見せてえんだろ? だったら仕事頑張れ。どんどんアピールしてたら、いつか振り向いてくれるかもなっ」
「……よし。教官のために頑張ろう」
「カトレアちゃん……見ててくれ!」
男たちはギルドへドドドッと駆けこんで行った。
俺は走る足を緩め、ゆっくりテロンさんに近づく。
テロンさんは俺に気づき「よっ」と手をあげる。
「しっかしアルの言った通りになってきたな」
「何がさ?」
「コミュニケーションをしっかりできたら、組織は円滑に動くって話だよ」
「ああ。その話か」
テロンさんはギルドの塔を見上げなら、眩しそうに話す。
「前のギルド、お前がいなくなってからピリピリしだしてたから、こっちに来ても似たようなもんかなってほんのちょっぴりだが思ってたんだ。でも、根本の原因がコミュニケーション不足だって知って、お前の言う通りにやったらみんな気持ちよさそうに仕事をしてさ……いや、面白いもんだよ」
ニカッと笑みをこちらに向けるテロンさん。
「それに町もどんどん良くなってきてるし、まさかのギルドマスターにまで任命してもらってよ。毎日あらゆることを面白く感じてんだ。誘ってくれたこと、感謝してるぜ」
「感謝してるのはこっちの方だよ。面倒見もいいし、意志も強いし、ギルドを任せるならテロンさんしかいないって思ってたからね」
「ははは。また嬉しいことを言ってくれる。だけどお世辞じゃなくて、お前が『本心』を言っているから気持ちいいんだよな」
俺たちは笑い合い、ガシッと手を組んだ。
「な、なあ……」
訓練を開始する前に俺の部屋に乗り込んできた人たちが、おずおずと俺のもとへとやって来た。
「どうしたの?」
「い、いや……その……」
俺は彼らが話すの静かに待った。
「その……俺らにも、できることってあるか?」
少し照れた顔で、彼らは俺を見ている。
町のみんなは強くなり、以前とは別人のように変わっていた。
それを見て、この人たちも自分も変われるんじゃないか?
きっとそう思ったのだろう。
変わるために何ができるか、俺にそう聞いてきたと解釈する。
俺は彼らの変化に嬉しくなり、笑顔で答えた。
「当然だよ。みんなにもできることはある。なんだってできるんだ。だからやりたいことを一緒に探して行こう。俺はその手伝いをするよ」
「そ、そうか……じ、じゃあ俺も冒険者になりたい――」
みんなそれぞれ、自分のやってみたいことを口にしていた。
テロンさんも嬉しそうにその人たちの話を聞いている。
俺は歓喜に満ちた胸で、町を見渡す。
建物も増えてきて、人の笑顔も増えてきている。
商店もちらほらあり、当然のように売り買いが行われていた。
こんな当たり前のことが、すごく嬉しくて。
俺は一人静かに心を躍らせていた。
「あ、あの……」
「ん?」
今度は、ロイが落ち込んだ顔でこちらに歩いて来る。
「この前言っていた、僕でも安全に戦える場所に連れて行ってほしいんですけど……」
「ああ。そうだったな」
俺は自信なさげなロイの姿を見て、思案する。
この子でも勝てそうなモンスターと言えば……スライムぐらいか?
そう考え至り、俺はマーフィンへと空間を繋ぐ。
草原へと移動し、ピョンピョン飛び跳ねるスライムを見つけ、俺はロイに指示を出す。
「ほら。あれならお前にも勝てるんじゃないか?」
「ス、スライム……頑張ります!」
ロイはゴクリと喉を鳴らし「うわー」と叫びながら素手で突撃する。
みんなどんどん変化していく。
ロイだって、変わっていけるはずだ。
スライムとの戦闘は、その第一歩なんだ。
「うわー……うわーーーーー!!」
「…………」
スライムの身体がビヨーンと伸びて、鞭のようにロイの顔面を叩く。
ロイはゴロゴロと大地を転がり、スライムに乗りかかられていた。
「ア、アルさん……たすげでぐだざーい!!」
ロイはボロボロ涙を流しながら、俺を見ていた。
スライムに負けるってどんだけ弱いんだよ……
何もできなかった頃の俺でも勝てたんだぞ。
俺は呆れながらスライムを追い払い、ロイを助けた。
嗚咽しながら涙を流すロイ。
「うーん……」
この子を強くするにはどうしたらいいかな……
町を復興させようと考えてから、一番の難題かも知れない。
答えがでないまま、俺は草原でうんうん唸っていた。
【皆様へのお願い】
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
大感謝です!
これからもこの作品を他の沢山の方にも読んでいただいて、楽しんでもらいたいと考えております。
ランキングが上がれば自然に読んでくれる方も増えるので、ぜひお力添えのほど、よろしくお願いいたします。
そのため、もし少しでも、面白かった、続きが気になる。
そう思っていただけたなら、ブックマーク、高評価をお願いします。
評価はこの小説の下にある【☆☆☆☆☆】を押してもらえたらできます。
ブックマーク、高評価は、作品作りの励みになり、モチベーションに繋がります。
是非とも、よろしくお願いいたします!




