第33話 町のみんなは訓練をする①
「やっぱ俺らには無理なんすかね、親分……」
数十人の男が、項垂れながら俺にそう言った。
男たちは俺の部屋に来ていて、俺はベッドに座りながら彼らの話を聞いている。
ちなみに、部屋にはまだベッド以外何もない。
「まだ諦めるには早いでしょ。何回か失敗しただけだろ?」
「でも俺ら、中々強くなれねえし……」
「強くなれないって、そんな言うほど訓練もしてないじゃないか。この間までただのチンピラ集団だったんだ。仕方ないさ」
「「「……はぁ」」」
男たちは一斉にため息をつく。
ダメだ。彼らと一緒にいたら、こっちまで滅入ってくる。
「ま、大丈夫だと思うよ。みんなならできると信じてるから」
「うっす」
男たちが部屋から出て行く。
それと入れ替わりに、数人の男女が入って来る。
「おい」
「何か?」
殺気だった様子で、彼らは俺を睨み付けてくる。
「いつまで無駄なことやってるんだよ。外からも大勢人を呼んでさ」
「そうよ。部外者が偉そうに」
彼らはローランドの改革に反対している連中だ。
町から離れるわけでもなく、ここに滞在して周囲の志気を下げたり、こうして俺に直接文句を言いに来たりする。
目的は……多分ないのだろう。
理由など何でもよく、不平不満ばかりを口にする。
深層的な理由としては……気にしてほしいということだろう。
俺たちはこれだけ不幸なんだから話を聞いてくれ。
これだけ腹が立っているから話を聞いてくれ。
文句ばかり言う人間のほとんどがそうだ。
だから俺は黙って彼らの話を聴くことにした。
うんうん首を縦に振りながら話を聴く。
人には真剣に話を聴いてくれる人が必要なのだ。
だからこうして聴いてあげることによって、心を開いてくれることがほとんどだ。
話を適当に聞くのではなく、身体全体で真剣に聴いてあげる。
これがコツだ。
そうしているといつしか彼らは、現状に対しての不安を口にしだした。
「……俺らなんかじゃ、どうせまともな生活なんてできやしないんだ」
「私たちが真っ当な生活を送れると思う?」
「俺は可能だと思っているよ。誰だって本気になれば変われるものさ」
そこで俺はピンとくる。
「さっきの奴らがさ、自分たちがダメだって嘆いてたんだけど……あいつらが変わったら、みんなも変われるかい?」
「……あ、あいつらにできるんなら俺たちにも……」
「どうせあいつらじゃ無理だと思うけど」
変われるかもと考える人と、無理だと不貞腐れている人が半々と言ったところか。
まぁ、少しずつでも変えていこう。
「とりあえず、彼らの変化を見ていてくれ。話はまたそれからしよう」
しなければならないことは山積みだが、一つずつできることをやっていこう。
◇◇◇◇◇◇◇
翌日。
ほとんど曇りの無い青空の下、俺はティアたちと共にローランドを出たところに来ていた。
俺とティアとペトラが並び、その前にはローズとカトレアがいる。
そしてローズたちの目の前には、こちら側を向いているジオを筆頭としたチンピラや冒険者希望の人たちが立ち並んでいた。
「これより、貴様たちの戦闘訓練を開始する。覚悟はいいか?」
「訓練って……お前が俺らを鍛えるってのか?」
ローズは地面を鞭で叩く。
男たちは「ひっ」と青い顔で怖がっている。
「いいか! まずは貴様ら自身を信じろ! 自分を信じれない奴に強くなる資格も可能性もない!」
「みんなー頑張ってねぇ~☆」
怒声を発するローズの横で、カトレアが大変可愛らしい声でみんなを応援する。
「か、可愛い……」
「可憐だ……でもこっちの女も美人だぜ」
「どっちも好みだ……」
すでに二人に魅了され始めている男たち。
「今日はホライザ迷宮へ行く。そこでモンスターたちと戦ってもらう。いいな!」
そう言うとローズは空間を広げ、ホライザ迷宮への穴を創る。
ゾロゾロ穴を通っていく男たち。
俺たちも穴を通ってホライザ迷宮へと移動する。
「はぁ……しかしこれ、本当に便利ですよね」
ペトラがいまだに信じられないといった顔で、穴を通る。
ここら辺は神剣のチート能力に感謝だよなぁ。
移動時間が短縮されるから、超効率的に訓練にも仕事にも行ける。
通常よりも段取りよく、みんなの戦闘能力を向上させられること間違いなしだ。
「では行って来い! 貴様らならできるはずだ!」
ここは壁にタイマツが灯っているので、奥まで見渡すことができる天然洞窟。
大したモンスターも出現しないが、男たちはゴクリと息を飲んでゆっくりとした足取りで前へ進んで行く。
出現するモンスターはEランクのコボルトとスケルトンのみ。
初心者育成にちょうどいい、レイナークでも多用している迷宮である。
さっそく3匹のコボルトが出現し、こちらをジロッと睨み付けてくる。
「ひっ……」
「さあ行け!」
「い、いや……無理っすよ」
「無理だと思うから無理なんだよぉ。みんななら大丈夫だって、私信じてるよっ☆」
カトレアの声を聞いてほんのり顔を赤くした男たちがコボルトを睨む。
そして突撃を開始する。
数人に囲まれたコボルトたちは為す術もなく、男たちの剣を喰らい絶命した。
「わーわー! すごーい! やっぱりみんな、やればできるんだね!」
男たちは敵を倒せたことと、パチパチ手を叩きながら応援するカトレアの声に興奮していた。
そしてそれを見ていた他の男たちもやる気スイッチが入ったのか、瞳を異様にギラギラさせていた。
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