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第30話 アルはコミュニケーションが得意①

 グロートの森に行ってから1週間。

 町では大工が少しずつだが新たなる民家を建て始めていた。


「おお! アルさん。どんなもんだい?」

 

 大工の一人が俺に仕事の出来栄えを訪ねてくる。


「うん。いいんじゃないかな。この調子ならガライは、これからドンドン上手くなっていくだろうね」

「そ、そうか? よーし。もっと頑張るぞ!」


 大工のガライは俄然やる気を出して、仕事に打ち込み始める。


 俺は町の様子をペトラと見回っていた。

 みんなが頑張ってくれたおかげで、廃材などの撤去は早々とすんだ。

 まぁ、それはティアたちの【収納】のおかげでもあるのだけれど。


「あ、アルさん。こんにちは」

「こんにちは、ケリー。今日もゴミ回収頑張ってくれてるんだね。ありがとう」

「い、いえ。これも町のためですから」

「お兄ちゃーん! 私たちも頑張ってるよぉ」

「おおっ。ミリアたちも偉いなぁ」


 親子が町のゴミを拾い歩いていて、俺はその子供の頭を撫でてやっていた。

 他にもゴミを拾い歩いている人が大勢いて、町が毎日綺麗になっていく。


「…………」

「どうしたペトラ?」


 ペトラはじーっと俺の顔を覗き込んできた。


「あ、いや。アルさんってみんなから好意を抱かれているというか……人気ありますよね。話をしているだけで、みんな嬉しそうだし」

「そう?」

「そうですよ。何でですか?」

「別に大したことはしていないんだけどな」

「大したことしてなかったら……何をしているんですか?」

「……『人を動かしている間は二流の商人』って親父がよく言っていてね」

「?」


 俺は親父のことを思い出しながら、ペトラに話をする。


「『人が自発的に動く環境を作ってこそ一流の商人』。そのために一番必要なことってなんだと思う?」

「必要なこと……お金ですか?」


 真剣に悩み、ペトラはそう答えた。


「残念ながら不正解だ。もちろん、お金で動く人間も大勢いるだろうけど、一番大事なのは『コミュニケーション能力』さ」

「コミュニケーション能力?」

「ああ。例えばさ、一緒に遊ぶ友達が優しくて楽しく遊べるのと、態度の悪い友達と気分を害しながら遊ぶのじゃ、どっちがいいと思う?」

「そりゃ……楽しい方がいいです」

「だろ? だからコミュニケーションが大事になってくるんだ。悪態をついたり、人に突っかかったりするのは、俺から見ればコミュニケーション能力が低いだけだと思っている」

「なるほど」


 ふむふむとペトラは首を振りながら話を聞いている。


「人との付き合い方を大事に考えている人間なら、そんな態度を取らないものさ。そして遊びもそうだけど、仕事にしても復興作業にしても一緒なんだよ。気分よく働けるのと気分悪く働くのじゃ、効率も大きく変わってくる。それから友好的な人に好意を抱くのも当然のことだから人にも好かれる。だけど世の中にはそれを知らない人間が多い。だから俺がやっていること自体は大したことじゃないけど、みんなができない分、大層に見えるんだろうな。人に好かれる上に効率よく仕事をしてもらえる。そしてさらには自発的に動いてくれるようになる、と。な、いいこと尽くめの魔法のようなものなのに、これを使わない手はないだろ?」

「はぁ……それで、どうやったらそれは使えるんですか?」

「笑顔を忘れないことと、人を褒めること。とりあえずはこの二つを忘れなければいいんじゃないかな」

「なるほど……そう言えば、初めて会った時も私を『可愛い』って褒めてくれましたもんね」


 ポッと頬を染めるペトラ。

 

「ああ。そこで大事なのは、お世辞じゃなくて、『本当に思ったこと』を褒めること。そうすれば、相手の心にも素直に伝わるからね」

「なるほど……って、本気で私のことを可愛いって思ってくれてるんですかー!?」

「ああ。そうだよ」


 大慌てで真っ赤になるペトラに、俺は笑顔を向ける。

 いや、本当に可愛いと思うよ、ペトラは。


 実際、ペトラとすれ違う人も彼女を見ているし。


「あ、ペトラだ。可愛いな」

「相変わらず可愛いな」


 なんて言いながら、彼女の横を通り過ぎていく。

 だが彼女はその事実にも気づかず、本気で俺の意見を否定していた。


「ご主人様。ただいま戻りました」


 ティアが空間を繋げて、町へと戻って来る。

 北の山で食料の調達をしてもらっていたのだ。


「ご苦労さん。ティアのおかげでみんなは飯を食える。町のみんなが感謝していたよ」

「恐縮でございます」


 お礼に頭を撫でてやると、ティアは尻尾を気持ちよさそうに動かしていた。


「じゃあ、次は【錬金術】の習得をしてくれないか? 知識はあるから、覚えるのも早いだろ?」

「はい。承知いたしました」


 頭を下げて気持ち良く肯定するティア。

 だがペトラが何か疑問に思い、声をかけてくる。


「あの、ティアさんに【錬金術】を覚えてもらって、どうするつもりなんですか?」

「ん? みんなに【錬金術】を教えてもらうんだよ。まぁ、新しい仕事の教師と言ったところかな」

「……アルさんが教えた方が早くないですか? 大工仕事にしてもそうですし、全部自分でやった方がいいと思うことを他人に任せますよね」

「……ペトラの言っていることは正しいよ。だけど、自分が全部できるからって全部自分でやってたら、みんなのやることが無くなってしまう。人に任せるというのは、みんなに仕事を与えるという意味でも、成長してもらうという意味でも大事なことなんだ」

「そ、そうなんですか……」

「ああ。それに他人に任せた方が、俺も楽をできるしね」

「……それが本音じゃないですか?」


 怪訝そうに言うペトラ。


「ははは。ちゃーんとみんなのことを考えて任せているのだよ」


 半分当たっていたので、とにかく笑って誤魔化しておいた。


 ペトラはなんだか鋭いなぁ。

 と褒めても良かったが、それは止めておくことにした。

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