第25話 ローランドは赤く燃える
レッドヒドラを退治したことにより、迷宮内のモンスターの出現頻度が正常に戻ったようで、帰りはほどほどの数の敵しか現れなかった。
【空間移動】ですぐ迷宮を出ても良かったのだが、ティアが少しでも敵を倒したいと言ったのでゆっくり足を使って迷宮を脱出していた。
「敵を倒せば倒すだけ、ご主人様は強くなりますし、それにご褒美も期待できますから」
「ははは。褒美が目的だな……別に帰りまで頑張らなくても、ちゃんと食事は用意してやるつもりだったんだけどな」
「今日はまだ戦えますので……できる限りのことをやったほうが報酬もひとしおかと」
そう言ってティアは、猫耳をピョコピョコ動かしていた。
分かりやすいなぁ、ティアは。
そんなに美味しい食事が食べたいのかよ。
いいだろういいだろう。ならば腕を振るって用意してやろうではないか。
迷宮を出る頃には、外は太陽が沈みかけていた。
綺麗な夕陽が俺たちを照らしている。
「ありがとう。アルベルトくん」
「いやいや。大したことじゃないよ」
兵士たちは何度も頭を下げて、レイナークへと帰って行った。
「じゃあ俺たちも戻るとするか」
「そうでございますね」
一仕事を終え、上機嫌で「【空間移動】を開き、ローランドと空間を繋ぐ。
「……え?」
繋いだ空間の先ではローランドが――
炎上していた。
「どうなってるんだ……」
俺は唖然としながら穴をくぐる。
ローランドにある建物という建物全てが燃えているようだった。
夕焼けよりも赤く、非情に燃え上がっている。
「アルさん!」
「ペトラ」
ペトラが涙を流しながら俺の胸に飛び込んで来た。
「一体どうしたんだ? 何があったんだ?」
「よく分からないんです……気が付いたら店に火がついていて……」
町の外には、町中の人たちが避難していたのだろう。
燃えて行く自分たちの町を、ただ呆然と見つめていた。
「俺たちの町が……」
「……嘘だよな……夢、だよな」
涙を流しながら見ている者もいる。
怒りに歯を食いしばっている者もいる。
「アニキ!」
「ジオ……お前は何か知っているか?」
ジオは俺に駆け寄り、大きな声で言う。
「俺、見たんですけど……黒ずくめの男たちが火を点けて回ってました」
「黒ずくめの男?」
「はい」
「……人はどれぐらい死んだんだ?」
「分かりませんけど……何人かは殺されているのを見ました」
ジオは悔しそうに足場を何度も蹴っている。
「なんで……なんでこんなことになっちゃたんですか?」
ペトラは嗚咽しながら俺に訊く。
「……分からない。俺にも何が起こっているのか分からないよ」
俺たちはただ、燃え盛る町をいつまでもいつまでも見続けていた。
何もすることもできず、町の人たちは無力感に沈んでいく。
◇◇◇◇◇◇◇
翌朝。
炎は鎮火したようだが、まだまだ焦げた臭いが周囲に漂っていた。
老人や子供たちは眠っていたようだが、他のみんなは徹夜をしていて疲れた表情をしている。
みんな疲弊し、悲しみ、絶望して俯いていた。
「……これから、どうする?」
「どうするたって……」
ずしーんと重苦しい空気が流れている。
「……でもよ、どうせ遅かれ早かれ、この町はこうなる運命だったろうさ」
「……どういうことだよ」
町のゴロツキたちが話をしている。
「まともに仕事もしねえし、堕落してただけじゃねえか、俺たち。町が燃えなかったとしても、いずれこの町は終わる運命だったんだよ」
「……そう、か」
誰も反論しない。
自分たちのこれまでの生活を考え、妙に納得している様子だった。
ペトラは妹のルカを膝枕で寝かしたまま、俺の方に視線を向ける。
「アルさん……一緒に仕事しようって言ってくれてましたけど、もう無理ですね」
「なんで?」
「なんでって……」
この様子を見たら分かるじゃないですか。
ペトラはそんな風な顔をしている。
「こんな時になんだけど、町が無くなっても仕事はできるよ」
「で、できませんよ!」
「できるよ。本気なら、どんな環境だってなんだってできる」
「なんだってできるって……じゃあアルさんは、ローランドを元通りにすることができるって言うんですか!?」
ペトラは納得いかないらしく、珍しく声を荒げてそう言った。
「元通りは……無理、かな」
「やっぱり無理じゃないですか」
「元通りは、な。でも、前以上の町を作ることは可能だよ」
「……え?」
周囲の人たちはざわついて俺の方を見る。
「言っちゃなんだけど、元々底辺ギリギリの町だったんだ。あんな状態の町をもう一度作れって方が難しいぐらいだ。適当にやったとしても、あれよりましな町はできあがる」
「……適当じゃなかったら……どんな町ができるって言うんですか?」
「どんな町だって作れるさ! みんなが願う限り、どこまでも発展させることができる。みんなが立ち上がるのなら、きっとなんでもできるさ」
一人の男が俺に近づいてきて言う。
「その話、本当かよ?」
「本当さ。俺が約束する。みんなが本気になるなら……最高で最強の町を創ってみせる」
町の人たちは、まだ信じられないと言った顔で俺に視線を向けていた。
だが、微かな希望が瞳に宿りつつあったのを、俺は見逃さない。
「本当にみんなが心から望むのなら――俺が町を再建させてみせよう」
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