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第21話 アルは悪党たちと対峙する②

 ジリジリと後ずさり、俺と距離をあける男たち。


「一応聞いておくけど、お前たちにボスはいるのか? いたとしたらどいつだい?」

「…………」


 俺に恐怖しているのか、それともそのボスに畏怖の念を抱いているのか。

 どちらかは分からないが、その場にいる誰もが青い顔をして何も言わない。


「おい!」

「?」


 その声は上から聞こえてきた。

 俺は視線を上げ、声の方を視認する。


「俺がこいつらのボスだ。お前は誰だ? 何の用事でここに来た?」


 周りの中で比較的背の高い建物の上に、一人の男がいた。

 それはボサボサの緑色の髪で左目は髪に覆われていて、なんとも勝気な表情を浮かべていた。

 年齢は俺と同じぐらいか、少し下ぐらいと予測する。


 しかしこいつらのボスにしては、年齢が低いように思える。

 みんな大人だと言うのに、こんな少年の言うことを聞いているというのか。


「俺はアルベルト。ただ散歩してただけなんだけどな」

「散歩で来るような場所かよ。何か目的でもあるんじゃないのか?」

「いや、本当に散歩だよ。この町に何があるか、見て回っていただけさ」

「そっかそっか」


 男はピョンと建物から飛び降り、俺の目の前にまで歩いて来る。


「だけど運が悪いな、お前」

「何がさ?」

「散歩してただけで――死んじまうなんてさ」

「え?」


 男は素早い動きで腰から短剣を抜き、俺の腹部に突き刺そうとした。


「なっ!?」


 男は驚愕した。


「う、嘘だろ……」

「さ、刺さってないぞ……」

「どうなってるんだ」


 周囲の男たちも驚愕する。


 俺に突き立てた短剣は突き刺さることなく、皮膚で止まっていた。

 【身体能力強化】で防守も上昇しており、今の俺にはこの程度の攻撃通用しない。

 


「お前……何者だ?」

「運は悪くない冒険者、かな」



 俺は小指側の面――拳槌で男の頭を殴った。


「ほげらっ!!」


 ズボッと男の体が腰辺りまで地面に埋まる。

 そのまま意識を失い、情けなく白目をむいていた。


「ボ、ボスまで一撃で……」


 周りにいた男たちは俺をギロリと睨む。

 やるつもりか? と思っていたが――


 急に全員、媚びへつらうようにヘラッと笑い出した。

 

「お、親分! 今日からあんたが俺たちの大将だ!」

「「「よろしくお願いしやす!」」」

「……はっ?」



 ◇◇◇◇◇◇◇



「いやー、あれっすよアニキ。ここのルールは、一番強い奴が大将なんですよ。だから今日からアルアニキが俺たちのボスです。あ、俺、ジオって言います。よろしくお願いします!」


 ジオ。

 さっきまで地面に埋まっていた男だ。

 ジオは俺を半壊した椅子に座らせて、後ろで俺の肩を揉んでいた。

 

「肩こりとかしてないから……というか、俺はボスなんてやるつもりないぞ」

「だけどここのルールではそうなっているんで」

「ここの人間じゃないから、ここのルールを適応しなくていいよ」

「いやいや! だけど俺、アニキの強さに惚れちゃって……」


 俺は嘆息し、立ち上がる。


「あのさ。お前らこんなことしてていいと思っているのか?」

「こんなことって?」

「評判、悪いだろ。迷惑ばかりかけてるみたいじゃないか」

「まぁ、弱肉強食ってやつですね。弱い方が悪いんです」

「あのな。そんなことばかりしてちゃ――」

「おーい!」


 遠くから一人の男性が走ってこちらにやって来ていた。


「あんたがアルだよな?」


 男はジオたちの姿を見て真っ青な顔をしている。

 ジオたちも男を取り囲んで、睨みをきかせてナイフなんかをちらつかせていた。

 なんちゅーガラの悪い奴らだ……

 南の方の奴らよりよっぽど質が悪い。

 ペトラが言っていた通りじゃないか。

 

「こいつ、ぶっ殺しましょうか?」

「なんでそんなことするんだよ。そんな必要ないのっ。で、あんたは誰?」

「俺はペトラに頼まれてあんたを探しに来たんだよ……くそっ、北の方には来たくなかったってのに……とにかく、ちゃんと伝えたからな!」


 男はビクビクしながら走り去って行く。


「……では、後つけてヤキ入れときます」

「だからそんなことするな」



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ペトラの店に戻ると、そこには兵士の恰好をした男性がカウンター前で立っていた。


「おお! あの時の!」


 その人はレイナークから来たようで、俺の顔を知っているようだった。


「どうしたの?」

「あ、アルさん……って、後ろの人!」


 ペトラはついてきたジオの顔を見てギョッとする。

 そのペトラを睨むジオ。


「おい。この子は俺の恩人なんだぞ。ペトラに何かあったら……何するかわからないぞ、俺は」

「あ、あはは……了解でっす」


 ジオは青い顔で引きつった笑みを向ける。

 こいつは誰から構わず挑発してるのか……今度ちょっと言い聞かせないとダメだな。


「ど、どうしてアルさんがその人といるんですか……?」

「話せば長くなるんだけど……」

「俺がアニキの子分になったってことだ」

「は、はあ……あ、それよりアルさん。この方が仕事を頼みたいって言ってるんですが?」

「仕事? どういう仕事?」

「ああ。レイナークの北東にある、ホライザの迷宮は知ってるか?」


 ホライザ迷宮。

 駆け出しの冒険者や、兵士のよい訓練場所としてよく利用されている低難易度の迷宮。

 レイナークでは特に利用する者が多く、重宝されている。と。


「それで、そのホライザ迷宮で何かあったの?」

「ああ……実はあそこに危険度Bクラスのモンスターが現れて、王都に今いる連中だけじゃどうしようもなくてな……いつ王都にも危険が及ぶかも知れない。だから……」

「だから、それを俺に倒してほしい、と」

「ああ。そういうことだ」

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― 新着の感想 ―
[一言] ゴ……脳筋(?)幼馴染ことエミリアはアルと再会できるのかね? 悪党と出くわしても……何とかなるでしょw(なお、理由を言ったら全身複雑骨折は確定
[一言] 脳筋?ヒロインとばったり会ったりして…
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