第20話 アルは悪党たちと対峙する①
朝目覚めると、ティアが俺に抱きつくようにして眠っていた。
ほどよい大きさの胸が背中に当たっている。
というか剣でも眠るんだ、なんて思案するが、飯も食うことができるので寝ることぐらいあるだろうとも思ったり。
「んん……」
彼女の吐息が耳に当たる。
これは……悩ましい。
「…………」
これ以上ティアが横で眠っていたら変な気分になりそうだ。
俺はガバッと起きて、深呼吸する。
するとティアはパチリと目を開いて素早い動きで起き上がった。
「おはようございます。ご主人様」
「お、おはよう」
「昨日は大量のFPを消費しましたので、回復に専念するためにスリープモードに入っておりました。申し訳ございません」
「いや、そんなの気にすることないよ」
ペコリと頭を下げ「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べるティア。
俺は大きく伸びをし、今日はどうしようかと考える。
するとティアがこほんと一つ咳払いをした。
「ご主人様。昨日の戦いで新たなるモードとスキルが解放されました」
「へー。どんなものだい?」
「スキルはナイトとマジシャンの上位の物を。サポートは【遠隔接続】という物が解放されました」
ナイトの【剣】とマジシャンの【火術】を最大まで習得したことにより、その上位ジョブのスキルが解放された、と。
だが【遠隔接続】というものが分からないな。
「ティア、【遠隔接続】というのはどういうサポートなんだ?」
「【遠隔接続】とは、ご主人様が私を所持していない状態でも、サポートの恩恵を受けられるというものでございます。そしてあまり離れていない状態ならば、一部スキルの使用も可能となります」
「へー……じゃあ、【身体能力強化】の効果も得られるってわけだ」
「はい」
なんというありがたき効果。
そんなの入手しないわけないじゃないか。
俺は一寸の迷いなく習得をティアに頼む。
ティアの体が光ったと思うと、体に力が溢れてきた。
「おお! これならティアがいなくても十分戦えそうだな」
「ですが、私がいない場合は【ブルーティア】の性能は上昇しないのでお気をつけください」
「了解了解。じゃあペトラの店に行って朝食を取りに行くか」
「あの、ご主人様……」
「ん? どうした?」
ティアはほんのり頬を染め、口を開く。
「私も一緒によろしいでしょうか?」
◇◇◇◇◇◇◇
ティアは『美味しい』という感覚が大変気に入ったらしく、朝食を一緒に食べていた。
昨日のように人が変わったように大騒ぎはしなかったものの、幸せそうにモグモグ口に含んでいる。
「アルさん! 昨日のすき焼き、美味しかったです!」
ペトラは目をキラキラさせ、カウンターから身を乗り出してそう言った。
「あれは……本当に美味でした。あの、ご主人様」
「なんだい?」
「不躾ではありますが……また美味しいものを食べさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ。いいよ」
ティアは喜びに目を大きく開き、食事をサッと済ませて立ち上がる。
「では。モンスターの狩りへと行ってまいります」
「ああ。気をつけてな」
「スピレイ洞窟へ素材回収と合わせて行きますので、何かあれば、【通信】で申しつけください」
ティアは揚々とした表情で、店を飛び出して行く。
そんなに美味しいものが嬉しかったのか……
あんなに喜んでくれるなら作り甲斐があるというものだ。
また美味しいものを作ってやろう。
俺も食事をすませ、店外へと出た。
今日はこの町の様子を見て回ろう。
ずっと仕事ばかりで、まだ町がどんなものなのか把握できていない。
のんびりとした足取りで町を歩いて回る。
ひもじそうな子供たちに、喧嘩をしている酔っ払い。
やることもなく、ただ俯いて座っている大人たち。
「…………」
酷い。
分かっちゃいたけど、改めて見て回ってみるとその酷さが容赦なく目に映る。
木造の家が多く立ち並んではいるが、どれもこれもボロボロだ。
道も汚いし……本当に酷い。
ペトラの店は町の南側にあり、南側はまだ比較的マシだった。
まぁ、ペトラが毎朝掃除したり、そして彼女の店の存在が大きいのであろう。
だが北に行くにつれて、壊れた廃屋が多くなり、人気が少なくなっていく。
北は悪党がどうのこうのって言ったけど……確かにこの雰囲気ならいそうだな。
「おい!」
なんて考えていたら、その悪党集団が廃屋からゾロゾロと現れた。
「てめえ、誰の許可を得てここを歩いてるんだぁ?」
「許可って……そんなの必要なの?」
「ああ。必要だ」
「……誰の許可が必要なんだよ?」
「そんなの決まってるだろ。俺たちのだよ」
俺を取り囲んだ男たちは、ひひひっと厭らしい笑みを浮かべる。
「許可が欲しけりゃ――金を出しな」
目の前の男は俺の胸倉を掴んでそう言った。
「あー。今お金持ってないんだよね」
「じゃあ、死ぬか?」
「ははは。死ぬのは嫌だなぁ」
男は拳を振り上げて、俺に殴りかかってくる。
俺はその拳を顔で受け止めた。
「えええっ! ……い、痛くねえの、か?」
「痛くないなぁ。痛いというのは――こういうことを言うんだぞ」
俺は相手の腹に拳を叩き込んだ。
現在【身体能力強化】が発動しているため、俺の筋力は果てしなく上昇している。
本気でやれば一撃で殺してしまう。
なので死なない程度に、優しく、ソフトに殴った。
しかし。
「ぐほぅうううう!!」
男は腹を抱えたまま、背後にあった廃屋へと吹っ飛んた。
「あれ?」
男たちは吹き飛んだ男の方を見ていたが、ゆっくりとこちらに視線を戻す。
「ば……化け物か……」
「こいつ、ヤべえんじゃねえか……」
「どんなパンチ力してんだよ……」
その場にいた全員が、ゴクリと息を飲む。
俺は自分の想像以上の力に唖然としていた。
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