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第19話 エミリアは怒りをぶつける

「おかしい……何かがおかしいぞ」


 シモンはギルドを歩き回りながら職員や冒険者たちの様子を見ていた。


 何やら以前よりピリピリした空気が流れていて、苛立っている者もいる。

 この間まではみんな本当に仲が良く上手くなっていたはずなのに……

 何がどうなっているんだ?


「おい! 早くしろよ!」

 

 一人の冒険者が職員に怒鳴りつけていた。


「も、申し訳ございません……」

「こっちだって暇じゃないんだからもっと急げよ!」


 その冒険者は口は悪いものの、無意味に人を怒鳴り付けるような人間ではなかった。

 最近仕事が上手くいっておらず、イライラしていたのだ。


「お、おい。あいつは最近、高難易度の依頼でも請け負っているのか?」

「いえ。自分のレベルに見合った仕事をしているはずですよ」


 職員の女が質問に答えると、シモンは彼女のお尻を触った。


「ひっ」

「そうかそうか。だったらなぜ仕事が上手くいっていないのだ……」


 職員はシモンを睨み付けるが、本人は別段気にしていない様子だ。

  

 どうせギルドマスターである自分には何も言ってきやしない。

 いつも通りだ。

 いつも通りのはずなんだ。


「…………」

 

 なのに――


 何かがおかしい……

 何か、ほんの少し歯車が狂ってしまったような……


 ギルド内の様子が毎日少しずつ悪い方向に変化しているような感覚。

 シモンはそれを肌で感じていて、妙な不安にゴクリと息を飲む。


 何もなければいいが……


 しかしシモンの不安に思う気持ちは加速していく。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 その日の夜のこと。


「なるほど。アルベルトはローランドに移り住んでいたのか」

「はぁ……うちの職員がレイナークで奴と会ったらしく、そう言っていたということです」


 ゴルゴはシモンの部屋に来ていて、葉巻を吹かせながらシモンの話を聞いていた。


「なるほどな……まあいい。また何かあったらそのつど報告をしろ」

「はっ。かしこまりました」

「グッド!」


 部屋を出て行くゴルゴ。

 が、そのゴルゴと入れ替わるかのように、一人の女性が扉を壊す勢いで開け部屋に入って来る。


「おいこら、シモン!」

「エ、エミリア、帰って来てたのか……どうしたのだ?」


 エミリア。

 美しい金色の髪を胸元まで伸ばしていて、頭には赤いカチューシャをつけている。

 強気な瞳に、強気な表情。

 だがそれ以上に可愛らしい容姿の方が目立つ。

 背は低く、紅い服に紅いスカートを穿いていて、胸はつるぺた。

 見た目は完全に子供にしか見えないが、アルと同い年の18歳。

 腰にはレイピアが帯刀されている。


 彼女は部屋に入ってくるなり、机をバンと強く叩く。

 椅子に座っていたシモンの身体がビクッと震える。


「アルを辞めさせたってどういうことだよ!」

「い、いや……だってあいつ、いつまで経っても強くならないし、まともに仕事をしているところを見たことないし……」

「あいつは仕事できるってみんな感心してたんだぞ! お前の目は節穴か!」

「ギギギ、ギルドのみんなはそう言っているかもしれんが、俺が見た限りでは仕事をちゃんとしてなかったんだよ!」

「だからって……私がいない間に追い出すことないだろ!」


 力強く机を殴るエミリア。

 机にピシピシッとヒビが入る。


「ひっ……エ、エミリア、もう少し丁寧な物の言い方できないかなぁ? ちょっと言葉が乱暴すぎる――」

「じゃあ直接あんたに乱暴してやろうか?」

「ちょちょちょ、ちょっと待て! そんなことする必要はないだろ……」


 眉間に皺を寄せたまま、腕を組むエミリア。

 怒気を隠そうともせずに、シモンを見上げる。

 シモンは大量の汗を垂れ流しながら言い訳を考えていた。


「あ、あいつがいなくなったところで、何も影響はでないだろ? 少々仕事ができたのかもしれないが、代わりはいくらでもいるんだ……な? 分かるよな? いてもいなくてもいい存在だったんだよ、あいつは」

「……影響、ね」


 ふんと鼻を鳴らしてエミリアは続ける。


「じゃあ私はこのギルドを辞める」

「え……えええっ!? ちょっと待て! そんな勝手な真似を――」

「先に勝手な真似をしたのはどっちだ!? アルがいないんじゃ、私もこの町にいる理由はないしな」

「そ、そんな……あいつがいなくなったというだけで辞めることないだろ……お前がいなくなったら、困るよ……」

「影響。無いんだろ?」

「うっ……」

「どっちなんだよ……男ならハッキリしろ!」


 エミリアはレイピアを引き抜き、ヒュンと一振りすると、大きな机が真っ二つに割れ崩れ落ちる。


「ひええええっ!」

「どっちかって聞いてんだ。お前の悲鳴なんて聞きたくないんだよ」


 さらにエミリアはレイピアで周囲の本棚や高そうな壺、ソファなどを切り刻んでいく。


「お願い、やめて! 全部高かったんだ!」

「だったら答えろよ。影響、ないんだろ?」

「あるある! 影響あります!」


 答えを聞いたエミリアは、シモンの鼻先にレイピアを突き付ける。


「おおお、落ち着け……な、エミリア?」

「おいおい、何の騒ぎだ……ってエミリアか」


 騒ぎを聞きつけた職員たちが、シモンの部屋へとやって来た。

 騒ぎの元凶がエミリアだと分かり、先頭にいたテロンは呆れた表情でシモンに声をかける。


「シモンよ。今回のことはぜーんぶお前が悪い」

「ア、アルをクビにしただけじゃないか!」

「そのアルをクビにしたことが大問題なんだよ。みんな、納得いってないんだぜ」

「お、お前らが納得しようがしまいが、俺が納得してればそれでいいんだよ!」


 テロンはカチンとし、大きくため息を吐き、エミリアに言う。


「俺たちはもう知らん。お前の好きにしろ」

「ああ」

「ちょ、お前ら! 俺を助けろ!」


 ゾロゾロと階下へと撤退していくテロンたち。

 シモンはガタガタ震えながらエミリアを見る。

 レイピアを納刀し、より一層激しい表情でシモンを睨むエミリア。


「エ、エミリア……な、落ち着け……アルをクビにしただけじゃないか? そんなに怒ることでもないだろ?」

「お前、カーラたちのケツ触ったり、他の職員に嫌がらせしたりしてたみたいだな?」

「え……えええっ? なんでエミリアが知ってるの?」

「全部アル経由で話は聞いてる。だからこれは(・・・)私とみんなの怒りを込めた一発だ。覚悟しろ……てめえは――」

「ちょ、ちょ――ぶふぅうううう!!」

「ムカつくんだよ!」


 ひょいっと軽やかに飛び、エミリアは渾身の一撃をシモンの顔面に突き刺した。

 男より腕力のあるエミリアの拳は、シモンの体を軽々と吹き飛ばす。


 バリーン! と窓ガラスを割って、シモンの体が部屋から飛び出した。


「あっ。やりすぎた」


 落下していくシモン。

 そして地面に落ち、グシャッと嫌な音を立てる。


「ひゃ……ひゃあああ……」


 全身複雑骨折。


 一命はとりとめたものの、大怪我を負うことになったシモン。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌日、エミリアは仕事の報酬を受け取らず「治療費に使え」とシモンに一言だけ言ってギルドを去って行った。


 全身包帯だらけのシモンを見ても、誰も憐れんだりしていない。

 憐れむどころか、逆にざまあみろ。と言ったような顔でニヤニヤ笑っていた。

 

「…………」


 みんなの態度に怒り狂いそうだったが、ここを辛抱すれば、まだ俺のために働いてくれる。


 我慢だ我慢……

 

 エミリアも抜けてしまったが、まだ強い奴はまだいる……

 そう考える一方、だがもしかしたらこれはまだ始まりに過ぎないのでは?

 とも考えていた。

 

 自身の安泰を夢みるシモンであったが、不安は容赦なく加速していく。

 そしてその不安はこれから現実のものとなり、彼を更なる不幸へと誘っていくのであった。

【皆様へのお願い】


ここまで読んでいただいてありがとうございます。

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これからもこの作品を他の沢山の方にも読んでいただいて、楽しんでもらいたいと考えております。

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[良い点] 見事なザマァ!…後はゴミゴにシモネタ野郎以上の異常なザマァを!…シモ何とかの悪いあだ名はシモネタ野郎です!…いろんな意味で!
[気になる点] なんで未だに無能の行方を気にかけているのかがよく分からないです。 ギルドにとって脅威になると思うなら囲っておけば良かった話だし、そうでないなら放逐して後はどこぞなりとでのたれ死ねってな…
[一言] アルが優秀でギルドに貢献していたという描写がほしい 冒険者がなぜイライラしていたのかも解らないので
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