銀毛の獣
記憶を参照してからついに1週間が経った。
顔の見えないあの生物とついにご対面というわけだ。
ジンは朝食を食べると走り出した。
「珍しいねぇ、今日はやけに張り切っているじゃないかい」
小屋の中でセツナが怪しむように言った。
ジンはこの1週間の間に肉体強化の状態を自力で作り出せるまでに成長していた。
もちろん完璧とはまだ言えない。
走るたびに肉体強化が切れたり切れなかったりするのだ。
最近はいつもそんな状態で訓練を行っているためセツナからぴょん吉とバカにされている。
今日もぴょん吉はぴょんぴょん跳びなが、山を駆け抜けていく。
ジンはこの肉体強化によってニックネームと共に空中感覚や着地点での衝撃の逃し方をも学びとっていた。
自分はもうこの世界にきた当時とは違うのだ。
ぴょん
ぴょん
山を降りる。
ああ、この世界はなんて楽しい世界なんだ。
……………
山を降り、ジンは山頂を目指した。
麓から帰る途中、アレに会うはずだ。
太陽が傾いてきた。
太陽の光がオレンジ色になっている。
キラリ
キラリ、キラリ。
視界の隅に何か光るものを見た。
アレだ、あの美しい生物だ。
ジンは方向を変えて走っていった。
キュウン、キュ〜.キュ……。
悲しそうな鳴き声がした。苦しそうな鳴き声が聞こえる。
ジンはまた一段速度を上げてあのきらめきのもとへやってきた。
目の前に赤い血を流す銀毛の生物がいる。
この時、ジンは初めてこの生物の顔を見た。
それはオオカミだった。
体長は2メートルになろうかという巨大なオオカミだった。
ジンはそいつの目を見て思った。
助けたい。
特に理由はない。しかしジンは抑え切れない衝動に駆られた。
助けたい。
タスケテ
助けたい。
タスカリタイ、シニタクナイ、生きたい!
助けたい。 助けたい。 助けたい!
まさに1人と一匹の心が通じ合った瞬間だった。
ジンは自身を超えるような巨体を頭と肩、首で支えるような姿勢で持ち上げた。
前が見えない。
足元しか見えない。
普段では考えられない力が湧き上がるのをジンは感じた。
ジンは獣を担ぎ、一歩を踏み出した。
地面にくっきりと足跡がついた。
地面をしっかりと掴み、推進力に変える。
体が前に進み始めた。
タン、、、、タンっ、、タン、タン.タンタンタンタンタンタンタンタンタタタタタタタタタタタ
目にも留まらぬ速さで山を駆け登る。
助けなければ!
思考がいつもよりクリアになった。
世界の流れがゆっくりとなったようだ。
しかし、このままの速度で登っても山頂にたどり着いた時にはこいつは死んでいるだろう。
ジンはわかっていた。
このままでは助けられないことを。
しかしジンは諦めていなかった。
目の前5メートル先に空間の歪みが生じた。
信じていたよ、セツナ!
ジンは空間の歪みに飛び込んだ。
…………
セツナはいつも通りに、日の入りを見計らいジンのいる場所にゲートを開こうとしていた。
この山にはあちこちにマーキングがしてあるため、魔法空間上においては山中であれば"近い"場所となっている。
魔法空間座標x54y412z36に何か高速で移動する物体があった。
何かがジンに起こっているのがわかった。
額に汗が浮かんできた。
急がなくては。
後2秒でx54y412z36から外れてしまう。
魔法回路を目的座標に伸ばして自身の魔力を流し込んだ。
回路がひかり、魔法が発動した。
ジンと小屋とをつなぐゲートが開いたのはジンが目標座標にたどり着く1秒前だった。
ジンが転がりこむようにゲートをくぐってきた。
ジンはなにかを庇うような仕草を見せて小屋の床に叩きつけられた。
「ジンッ何があった」
ジンに尋ねようとしてすぐに事情に気がついた。
ジンの服が真っ赤な血で濡れている。
それにこの美しいケモノ、、、
「オオカミ」
神の使いと呼ばれる獣。
かつては神そのものとして祀られた獣。
助けなければならない。そう思った。
目標座標をオオカミに定めて回路を形成する。
上級回復魔法の回路だ。
私の最大級の魔法をもって助ける!
回路に体内の魔力の全てを流しこんだ。
回路が光を放ち、小屋が揺れた。
登場したオオカミは頭からお尻までの長さが体長として表現されています。
作中のオオカミは現実のものとは異なることをご了承ください。




