魔法
ジンは魔女のお婆さんの家で一夜を過ごした。
「お婆さん、昨日はどうもありがとうございました。実は食事をしたのは6日前のゴブリンが最後でして」
ジンが食べたまともな食事はナイフ使いの肉が最後だった。
「いや、どうってことないよ。しかしあんた食い物ならそこら辺にいるじゃないか。どうしてそいつらを食わなかったんだい」
狩りに使う時間をズレの修正に使ったなんて言うことはできない。
「いや、僕も食べたかったんですけどなにぶん実力がなくて」
真実を混ぜた返答をした。ジンはこの辺りで最弱のゴブリンに殺されそうになった男である。
「あんたそんなんで良くその歳まで生きてきたもんだ。ホント奇跡は起こるもんだね」
魔女のお婆さんが呆れた顔をして言った。
「もしかして魔力を持っていないのかい?それなら納得できるんだが」
ジンの額に手が当てられた。
何か体の中でモゾリと動く感覚があった。
これが魔力だろうか。
「なんだ魔力をきちんと持っているじゃないか。
まあ、平均よりちと少ないがのう」
どうやら自分は平均以下の魔力しか持っていないらしい。
異世界に来たのだから魔法で無双できるのかと思ったがそうそう上手くいかないようだ。
そういえばアイツが「体はそれでいいな」とかなんとか言っていた気がする。
日本人の体に本来持っていない魔力があまり馴染まなかったのだろう。
しかし魔力があることから一応アイツが調整はしてくれたらしい。
受験から逃げ出したバツかと思ったがそうではなさそうだ。
ココロの底からアイツに感謝した。
顔を正面に向けるとお婆さんがジンをにらみつけながら唸っている。
そして思いついたようにお婆さんが手を打った。
「ああ、あんた孤児だね!だから魔力の使い方を親から教わることがなかったんだね。普通は育てもとが教育をしなきゃならんのだが、あんた運悪くクズに育てられたね」
魔女に可愛そうな目で見られた。
「おっしゃ、まかしとき!一流魔術師のセツナさんがしっかりと教育してやろうじゃないかい」
どうやら魔女の名前はセツナというらしい。
やはり記憶どうりにジンの師匠になってくれるようだ。
ズレをなおした甲斐がある。
ジンはココロのなかでニタリと笑っていた。
…………
「まずはこの山を1日で上下山できるようにしろ。口ごたえは許さん。サッサと走れ!トロトロ歩くな」
出会いとはうってかわってセツナは鬼のように厳しくなった。
これはイジメではなく魔法の訓練だそうだ。
セツナ曰く魔法も運動もまず必要なのは根気、集中力、持久力であるそうだ。
山上下ダッシュは確かに根気、集中力、持久力をつけるつけるにはもってこいかもしれないが、ジンが魔法で思い浮かべる美しさとはかけ離れたもだった。
泥臭さ、汗臭さにまみれていた。
「っっもう限界だっ」
ジンは山の中腹にたどり着いた時点でねをあげた。
魔女に会う前は麓から山頂まで5日かかった山なのだ。
もちろん空腹で疲れていたからこその5日であったが、その道のりを1日で半分消化すれば十分だろう。
しかし魔女はそんなに甘くない。
「ほら休んでんじゃないよ!重り増やすぞ!」
そう言いながら上着のポケットにナイフを増量する。
そう、ジンの所有するあのナイフだ。
魔女は始め剣を一本持たせて小屋からジンを送り出したが、休むたびにどこからともなく現れてナイフという重しを追加していくのだ。
これが本当にきつい。
ジンのポケットには合計10本のナイフのうち、すでに5本が入っていた。




