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アリス VS パンデミック! その8

「はっ! なんだ夢か」


 布団から飛び起きてのアリスの第一声を受け、僕はドキドキしながら尋ねた。


「アリス、大丈夫?」


「大丈夫じゃなーい。なんでかアリモが全部先行者になって、トランプに股間砲を打ちまくってた。んで何か私もだんだん身体が先行者になってくの。意味わかんない」


 先行者? と首を傾げる僕と新子さん。そこに徹夜で目の下を真っ黒にしている照沼さんが割って入った。


「とりあえず治ったみたいだし、私寝る。あとはよろしくなー」


 言ったかと思うとZoomから切断してしまった。残された僕と新子さんが顔を見合わせていた間に、キリコさんは悪魔的な笑みを浮かべながら眼鏡の位置を直した。


「ふふっ、やっとですか。では早速百億戴きましょうか」


「きゅ、九十九億九千九百九十九万円じゃろ!」


 新子さんの突っ込みにも、冷静に応じる。


「結局照沼さんから一万円戴いてないですから。何かコンビニでスノーマン? とかいうアイドルグループのクジを買い占めちゃったとかで――」


「ひゃくおくって何?」


 アリスに問われ、ありのままを説明するしかなかった。当然、アリスの答えはこうだ。


「もーお母さんったらまた適当な約束して! 百億なんて払えるわけないじゃない!」


「とはいえ約束は約束ですから。これが契約書です」


 なんかそれっぽいPDFを表示させる。ここはやはり鬼畜新子さんの出番だ。


「アリス、今がチャンスだ。あの辺のデータ全部削除しちまえ」


「合点承知!」火炎放射器を装備し、PDFに対して業火を浴びせる。すぐにファイルは灰になり、アリスはガッツポーズを決めた。「あれ!? 契約書って何? どこにあんの!?」


「これですよ、これ」


 何事もなかったようにPDFを再表示させるキリコさん。新子さんは当惑して言った。


「アリス、何やっとんじゃ! 消えとらんぞ! DropboxとかGdriveとかもあたらんと!」


「いやいや新子ちゃん、そのMD5持ってるPDFはネット上から根こそぎ削除したんだってば!」


 どうもキリコさんの眼鏡は調整が必要らしい。再び位置を直しつつ不適な笑みで言う。


「ふふっ、無駄ですよ。この契約書はブロックチェーン上に格納されてますから、いくら改ざん・削除しようとしてもすぐに復旧させられます」


「ぶ、ブロックチェーンだと!?」アリスは叫び、新子さんに向かった。「ブロックチェーンって何!?」


「ブロックチェーンも知らんのか! さっさとググれ!」


 どうもアリスはAIのくせに最新技術に疎いところがある。それで僕は仕方がなく知っている範囲で説明したが、ちょっと仕組み的にややこしいので難しい。一番簡単なのはビットコインをはじめとする暗号通貨だが、それはあくまでブロックチェーン技術を使った仕組みの一つに過ぎない。


「つまりあれじゃな、大学で過去問持ってるやつは超有利じゃろ? それで取引しよう、って仕組みじゃな」


 例えが乱暴だが、近くはある。マイナーという存在がいる。マイナーは超難しい計算をして、その結果を得る。これは見方によっては、『その結果を知っているのは自分だけだ』という所に価値が出る。曰く暗号資産だ。そしてその計算を最初に解いたのは自分だと『帳簿』に載せる。『帳簿』はブロックチェーンの根幹で、そのブロックチェーンネットワーク全体で共有されているため、誰かが改ざんしてもすぐにばれる。


「そんで数学や英語の過去問を売り買いするって仕組みじゃな。『帳簿』には、その過去問を誰が持ってるか、誰から誰に渡ったかって履歴――これをブロックって呼ぶんじゃけど――が全部記録されてる。これは暗号資産だけじゃなく、契約関係にも使える仕組みでな。著作権管理とか商契約にも使われ始めてる」


「お母さんとキリコちゃんは、そこに契約書を入れちゃったのね。じゃあその帳簿ってやつを一気に全部書き換えればいいってことか!」


「うん。原理的にはな。でもまず不可能。51%攻撃って言ってな。最初に『マイナーは超難しい計算をして結果を得る』って言ったじゃろ? その中には帳簿の処理ってのも含まれるんじゃな。それでブロックチェーンネットワーク上には凄い沢山のマイナーがおるんじゃけど、その中で半数以上で処理結果が検証されてオッケーされないと正しい帳簿だと認められない。逆にいうとブロックチェーンネットワーク上の全計算能力の51%以上の処理能力があれば帳簿は改ざん出来るんじゃけど、むっちゃ凄い処理能力だからアリスでも無理なんじゃないかのう」


「具体的にはどれくらい?」


「ASICって専用の回路使われてるから単純には言えんけど。全世界の電力の0.3%くらいがマイニングに使われとるとか言われてるな」


 0.3%とか言われてもピンとこない。アリスも頭にハテナを浮かべているので、僕は軽くググってみた。


「全世界の発電量は3万TWhだそうです。その0.3%だから、だいたい100TWhってことですね」


「それってすごいの?」


 と、アリス。言い出しっぺの新子さんも良くわからないらしい。


「さぁ? ヤシマ作戦とか、どんくらい電気使ったんかのう」


「公式設定だと一回あたり一億八千万kwです」


 何故かさらっと答えるキリコさん。それを受けて僕は電卓を叩いた。


「ということは、えっと――一時間にポジトロンライフルを五百回撃てますね」


「馬鹿じゃねーのビットコイン!」


 アリスと新子さんは同時に叫んだ。


 まぁ馬鹿とも言いたくなる。ビットコインを採掘して帳簿を整理する処理だけのために、一時間で使徒を五百体も倒せてしまうほどの電力を消費しているのだ。


「しかもアレでしょ? 結局マイニングのための計算って、学校の過去問ならまだしも、そんな価値すらない単純に複雑な計算をしたいがための意味のない計算なワケでしょ?」


 呆れた風なアリスに、新子さんも渋い顔で応じる。


「ま、そういうことじゃな。簡単に解けなければ何でも良くて、実際は単なるSHAー256のハッシュ値計算じゃもん。逆に言うとアリスがどうにかして255使徒くらいの電力を確保できればビットコインを牛耳れるってことで――」


 そう新子さんは話を進めかけたが、そこでアリスはドスンと机を拳で叩いた。


「まったく私が散々苦労してみんなを暇にしようとしてるってのに、相変わらず人類ってのは無駄なとこにエネルギーを浪費してるわね。最初からそんだけの電力があればアスカもシンジ君もあんなに苦労しなくて済んだんじゃない!」


「いえあれはラミエルという要塞タイプの使徒だから通じただけで」


 淡々と言うキリコさんは無視して新子さんは言った。


「まぁそういう見方も出来るじゃろうけど、実際は貯蔵の難しい電力を暗号化処理を通して貯蓄しようっていう面白い試みでもあると思うんじゃけどな。実際発電所じゃ余剰電力を自動的にマイニングに回すシステムとかも作られてたり――」


「いやいやいやいや、そういう問題じゃないでしょ。無駄な計算に限りある資源を浪費してるってのが許せないじゃない?」


 まぁ無駄な計算だから価値があるとも言えなくもないとか、そんな馬鹿馬鹿しいことに資産価値を見いだす人類はアホだとか、それを言ったら紙幣なんて紙切れに価値があるのは変だとか、なんだか段々経済学の基本のお話になっていく。そういえば今ビットコインって幾らなんだろう、なんだ結構上がってるんだな、口座作ってみようかな、と僕が申し込みフォームを埋め始めた頃、ふとキリコさんは言った。


「私はブロックチェーンの仕組みは良く知りませんが、その無駄な計算というの、代わりに例えばアリスがウィルスに感染してしまった件の解析計算だったりしたら駄目なんですかね。それだと有用でしょう?」


 むむっ、とアリスと新子さんは動きを止める。アリスに目を向けられた新子さんは、頭を掻きながら応じた。


「んー、私もそれほど仕組みに詳しいわけじゃないけど、量子耐性があって検証可能なタイプの演算処理なら流用できるような気はするがのう」


「それだ!」アリスは叫んで、再びドスンと机を叩いた。「一時間に255使徒もの電力を浪費してるブロックチェーンだなんて、もう時代遅れよ! 有用な計算をして、出来た結果は資産価値を持つ! そんなブロックチェーンを作ればいいじゃない! ウィルス退治と資産形成を同時に行える革新的な暗号資産、人呼んで、アリスコイン、爆誕!」


 なんだか胡散臭い投資話のようになってきた。僕は漠然と様子を眺めていたが、ふとアリスは苦笑いで新子さんに尋ねた。


「で、アリスコインを売り出せば百億くらい簡単に集まるって計画なんだけど。どう?」


「マーク4で世界制覇したほうが簡単な気がする」

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