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テンプレに従わない異世界無双 ~ストーリーを無視して、序盤で死ぬざまあキャラを育成し世界を攻略します~  作者: さとう
第三章 霧の国シャドーマ編

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十二執政官序列六位『悪童』ザンニ④

 海斗は、コノハナとカグツチを連れ、霧の国シャドーマで最も巨大な研究施設である『ヨミヒラサカ』に到着した。

 これまでと違うのは、実験体の宿泊設備が存在しない、巨大な白い研究所だけということだ。ヨミヒラサカの研究所は、ザンニが自ら研究、開発をする研究所なので、その規模が桁違いだ。

 まず、海斗たちのいる正門。

 真っ白で高い塀に囲まれ、数トンはありそうな巨大門がある。

 門の前で、コノハナは海斗をジロっと睨んだ。


「……案内したよ。もう解放してよ」

「ダメだ。逃げたら……わかるよな?」


 海斗は、鳥の骨の一部を手で弄び、指先の上で破裂させた。

 コノハナの全身の骨は、今や『骨爆弾(ボム・ボーン)』で爆弾と化している。正確には骨が破裂するのであって爆発するわけではないが。

 爆弾にされた骨が体内で破裂すると、間違いなく死ぬ。


(……まあ、生きたモノに使うには、二十秒くらい触れないとダメって制約はあるが)


 当然、そのことは言わない。

 カグツチは、チラチラとコノハナを見ていた。


「あの……お姉ちゃんたちと合流しなくていいんですか?」

「ああ。とりあえず、俺たちだけでいい。俺の予想だと、まずザンニは……」


 すると、正門が開き……門の前に、着物を着た少女が立っていた。

 凛とした佇まい。背中には薙刀を背負い、完璧な一礼をする。


「お待ちしておりました。『救世主』カイト様……十二執政官序列六位『悪童』ザンニ様がお待ちです」

「お姉ちゃん!!」

「……コノハナ。静かになさい。ザンニ様が、きっとなんとかしてくれるわ」

「……うん」


 サクヤは、何かに耐えるように声が震えていた。

 拳を握り、隙あらば海斗を斬殺しそうな殺気を感じた。

 だが、サクヤは手が出せなかった。


(……この子)


 海斗の『骨爆弾』でコノハナが即死する可能性もある。スキルを発動させる前に殺す自信はあったが、海斗の死と連動し爆破する可能性もゼロではない。

 だが……目の前にいる少女、カグツチ。


(──強い)


 全力で初撃を放っても、止められる気がした。

 全く知らない異種人が、自分に匹敵する可能性を感じていた。


「……では、こちらへどうぞ」

「ああ。おかしな真似してみろ……可愛い妹が、見るも無残な姿になるかもな」

「……ッ」


 サクヤは、歯を食いしばりながら、海斗たちを案内するのだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 案内されたのは、研究所の最上階にある広大な部屋だった。

 ワンフロア全てが吹き抜けになっており、天井も高い。

 カグツチはキョロキョロし、天井を見上げ、「わ~」と声を出している。

 海斗は、「まるで学校の体育館……よりも広いな」と呟く。

 部屋の中央に、対面でソファが並んでおり、そこに一人の少年が立っていた。


「や、救世主くん」


 ボサボサの髪、普通のシャツにハーフパンツ、サンダルを履き、白衣を着た十六歳ほどの少年だった。だが、顔に斜めの傷があり、縫い跡がある。

 十二執政官序列六位『悪童』ザンニは、ニコニコしながら海斗を出迎えた。

 海斗は言う。


「広い部屋だな。まるで、戦うための場だ」

「あっはっは。ま、実際そうだからね。でも……戦う前にお話ししない? もしかしたら、戦う以外の道が開けるかもよ?」


 ザンニは、ソファを差す。

 海斗は座り、カグツチはコノハナと並んで後ろへ立たせた。

 

「カグツチ。コノハナが妙な真似したら殺せ」

「はい」


 サクヤとザンニに聞こえるよう意識したつもりはない。海斗は普通の声で言い、ソファに座って足を組んだ。

 ザンニも海斗の対面に座り、ニコニコしている。

 サクヤは、ザンニの後ろで殺意を放っていた。


「ちょっとサクヤちゃ~ん。そんな殺気をボクの後ろで出さないでよ。怖いじゃないか」

「…………」


 サクヤは無視。

 ザンニは苦笑し、海斗に「ごめんごめん」と軽く謝った。

 海斗は、足を組んでソファに寄りかかって言う。


「さて、『悪童』ザンニ……『魔王の骨』を渡せ。大人しく渡すなら、コノハナを返してやる」

「あっはっはっはっはっは!! いやあ、すごいねキミ。ボク、執政官序列六位『悪童』だよ? ビビりもしないし、対等以上の態度じゃないか」

「ビビる理由あるか? まあ、俺も強くなってるからな」


 スカラマシュ、プルチネッラ、スカピーノ。海斗は三人の執政官を倒し、『魔王の骨』を宿し強くなっている。初めて異世界に来た時の海斗はもういない。

 戦いを知り、命のやり取りを知り、己を鍛え上げた『救世主』として、海斗はザンニの前にいた。


「というか、取引の意味わかるかい? コノハナちゃんは大事だけど……『魔王の骨』のがもっと大事だ。サクヤちゃんには悪いけど、その取引には応じれないねえ」

「だろうな。じゃあ、コノハナは用済みだ。カグツチ、殺せ」

「はい」


 カグツチは小太刀を抜き、コノハナの首を切断しようとした……が。


「待ちなさい!!」


 サクヤが叫び、小太刀は止まる。

 

「……お願い、やめて」

「なんで?」

「その子は、妹なの……私の、大事な」

「それ、俺に関係あるか? ザンニもいらないって言ってるし、恨むならザンニを恨めば?」


 海斗はニヤニヤしながら、片手を上げる。

 コノハナは震え、小太刀を首に添えられる。


「お、お姉ちゃん……」

「……」


 カグツチが、ほんの少しだけ迷いそうになっていた。

 姉……カグツチには実感がないが、イザナミという姉がいる。

 妹を失う姉。イザナミが、自分を失ったら、この姉妹のように悲しむのだろうか?

 だが、考えてもカグツチにはわからない。なぜなら、姉妹という実感がないから。

 だから、今は自分を助けてくれた海斗に従う……カグツチは、そう決めていた。

 すると、ザンニがパンパンと拍手をする。


「あっはっはっはっはっは!! いやぁ~……キミ、本当に人間かい? ボクの研究成果の一つに、『十二種族で最も邪悪な性根を持つのは人間』って結果が出たけど、ホントその通りだね」

「かもな。で……なんで止めた?」

「『骨』……キミ、やっぱり面白いね。『勇者』みたいな偽善者のクズとは違う。キミは、世界を救うクズだよ」

「それ、褒めてんのか?」

「うん。くくくっ……決めたよ」


 ザンニは、指をパチンと鳴らす。すると、ザンニの足元のタイルが開き、半透明の筒がせり上がってきた。筒の中は液体で満たされており、そこには『背骨』が浮かんでいる。


「『魔王の背骨バックボーン・オブ・コカビエル』をキミにあげるよ。その代わり、コノハナを解放してくれるかい? サクヤのためには、その子は必要なんだよ」

「…………まあ、いいだろう」


 ザンニはニコニコしながら、筒から背骨を取り出す。


「まず、スキルを解除してもらおうかな」

「…………」


 海斗が指を鳴らすと、コノハナの身体が一瞬だけ輝いた。

 すると、ザンニの足元から白い蛇が現れ、骨を器用に咥えて這いずり出す。


「コノハナと交換だ」

「……カグツチ」


 カグツチが頷き、コノハナの背を押す。

 蛇、コノハナがゆっくりと移動。海斗の前に蛇が、サクヤはコノハナと抱擁した。


「お姉ちゃん!!」

「ああ、コノハナ……!!」


 海斗は、『魔王の背骨』を手にすると、蛇が消滅した。


「さて、交換完了。じゃあ、これでバイバイ……ってわけには、いかないよね」

「どうするつもりだ?」

「『救世主』くん。キミの身体が欲しいんだよ。異種人をせっせと作るより……『魔王の骨』を宿したキミがいれば、魔神様のいい『器』になるんじゃないかな?」

「ははははは!! 目の付け所はいいなあ。だが……どうやって?」


 ザンニはここで初めて、見たこともないような歪んだ笑みを浮かべた。


「こうやって」

「ぁがっ」


 ザンニが指を鳴らした瞬間、コノハナの身体が崩れ落ちた。


「…………え? こ、コノハナ……?」

「サクヤちゃ~ん。コノハナは心臓が破壊されて、あと数分で死んじゃうよ~」

「……な」

「コノハナを助けたかったら、『救世主』くんを死なない程度に痛めつけてよ。彼を捕獲することができれば、コノハナを治療してあげる」

「…………」


 サクヤはもう、ザンニを見ていない。

 薙刀を抜き、頭上でクルクル回転させ海斗へ突きつける。

 ツノが生え、髪色が変わり、竜麟が浮かびあがる。


「コノハナを生かしてるのは、サクヤの起爆剤ってところか。妹ラブのこいつを……お前の最強の手駒を全力にさせるためか」

「正解。サクヤちゃんはボクの部下の中で最強なんだよねえ。ボクは見ての通り研究者だから、直接戦うなんて野蛮なことしたくないんだよ……さあ救世主くん、そのまま大人しく」


 ◇◇◇◇◇◇


 次の瞬間、ザンニの胸から『剣』が生えた。


 ◇◇◇◇◇◇


「……………………え?」


 ザンニは、自分の胸に生えた『剣』を、何が起きたかわからないような目で見てた。

 完全に心臓を貫いている。

 不意打ち。どこから? ザンニは致命傷を負ったことを忘れ、背後を見る。


「…………」

「え、だれ?」


 そこにいたのは、コノハナだった。

 だが、コノハナではない。顔半分が全く知らない『女』だった。


「く、くははっ……くははははははははは、アーッハッハッハッハッハッハ!!」


 海斗が、心底おかしいと言わんばかりに笑い出した。

 そして、ポケットから小瓶を出し、ザンニに見せる。


「これ、なんだかわかるか?」

「…………『鎖蛇』」


 小瓶の中には、潰れたようにひしゃげた蛇がいた。

 たった今、ザンニの命令で『潰れた』のだ。


「お前が『鎖蛇』に魔力を送ると、鎖蛇に巻き付いた心臓を絞め揚げ、破裂することは知ってたんだよ。だから、事前にコノハナの『鎖蛇』を外科手術で除去し、持ち歩いていた。コノハナは、俺の部下が保護してる。そこにいるのはコノハナに化けた俺の『影』だ」


 ヨルハの姿になり、ザンニの背中から剣を抜いた。

 ポカンとしているカグツチ。


「え……えと、えあ?」

「カグツチ。悪いが……ヨルハを見られた以上、お前も俺の『影』になってもらう。文句は言わせない」

「……えと、あの、よく、意味が」

「とにかく、話は後だ」


 目の前にいるのは、我を忘れたサクヤ。

 スリークォーター。顔も竜麟に包まれ、牙が生え、瞳孔が縦に裂ける。

 着物で見えないが、全身の七割が竜麟に包まれているはずだ。もう言葉は通じない、戦うだけの戦闘マシンとなった。


「カグツチ、ヨルハ、サクヤを大人しくさせろ。ヨルハ……わかってるな?」

「はい、主。問題ありません……ふふん、二人目の後輩。さあ、一緒にいきますよ!!」

「は、はい!!」


 海斗は、胸を押さえるザンニの前へ。

 右手でポンポンと、『魔王の背骨』を弄びながら言う。


「ククク……今の気分は?」

「最高に、サイアクだね。ははは……まさか、ボクが自ら戦うことになるなんて」


 ボタボタと、ザンニの白衣の袖から蛇が落ちてくる。

 白衣からではない。天井から、ソファの下から、蛇が現れる。


「とりあえず救世主くん……キミは殺すよ。どうやら『魔性化』しないと、ボクの命が尽きそうだ」

「それで、ドットーレに俺を引き渡す……か?」

「さあ、どうだかねえ」


 大量の蛇が、ザンニの身体を覆い尽くす。

 グジュグジュと、ザンニの身体が『蛇王アンフィスバエナ』によって作り変えられていく。

 海斗は、『魔王の背骨』を弄びながら、ククリナイフを抜いて突きつけた。


「さあ、ここからのシナリオは、俺たちが作る!!」


 霧の国シャドーマにて、十二執政官序列六位『悪童』ザンニとの最終決戦が始まった。

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テンプレに従わない異世界無双 ~ストーリーを無視して、序盤で死ぬざまあキャラを育成し世界を攻略します~
レーベル:GA文庫
原著:さとう
イラスト:山椒魚
発売日:2025年 5月 15日
定価 863円(税込み)

【↓情報はこちらのリンクから↓】
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お読みいただき有難うございます!
月を斬る剣聖の神刃~剣は時代遅れと言われた剣聖、月を斬る夢を追い続ける~
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