そして至る現在
リアは、ブロン皇太子との結婚の誓約が、彼の主催で行われる舞踏会で実施されると信じていた。物置小屋火災事件の前の段階だ。まだブロン皇太子のホリーへの好感度は、そこまでではなかっただろう。でもともかく二人の仲が深まりつつある段階ではあった。
きっとリアは、ホリーとブロン皇太子が二人でいるところを何度となく目撃し、心を痛め、その結果。嫌がらせをホリーにしていた。舞踏会でドレスが地味だとけなしたり、流行遅れだと意地悪く言ったり、たまに裾をわざと踏んづけたり……。
でも深く反省し、それを日記にしたため、それでも良心の呵責に苦しみ、遂に決意した。そう、ホリーに謝罪することを。
宮殿の庭園にホリーを呼び出したリアは、数々の嫌がらせを心から詫びた。そして自分がなぜそんなことをしたのか、その胸の内を打ち明けたのだ。その上で、自分がやったことをブロン皇太子にも話すことにしたとホリーに話した。
最後は公爵令嬢という立場であるにも関わらず、皇帝陛下に謁見しているかのような平身低頭の姿勢で謝罪をした。このフレミング皇国では最大級の謝罪であり、格下の爵位相手にする謝罪ではなかった。
それを見たホリーは……。
焦ったのではないか。その場ではお茶を濁すようにして受け流したが、リアが誠心誠意でブロン皇太子と話をしたら……。もしかするとブロン皇太子はリアの謝罪に理解を示し、彼女を許すかもしれない。そこにホリーは気づいたのではないかと思う。
そうなるとホリーの想いは実らない。そこでホリーは自作自演をしたのだ。つまり物置小屋にリアは、ホリーを閉じ込めていない。警備の騎士の目を盗み、ホリーが自ら物置小屋に入り込んだ。放火についてはやり過ぎだと思う。この日記を読んだ上での私の予想は、ホリーの火の不始末だと思った。物置小屋の中で、ロウソクに炎をつけ、それを倒してしまった……そんなことではないかと思う。
でもそれをうまいこと利用し、ホリーはすべてをリアのせいにした。ブロン皇太子に犯人は誰かと聞かれ、答えなかったのは他でもない。自作自演だから答えられなかった。でも警備の騎士が勝手に勘違いし、リアの姿を庭園で見たとブロン皇太子に話したわけだ。あとはホリーの目論見通り。ブロン皇太子はリアに幻滅し、ホリーに同情し、その同情は深い愛へと変わる……。
ではなぜ、リアは反論をしなかったのか?
しなかった、ではない。できなかった……のだと思う。ホリーにさんざん嫌がらせをした負い目もある。さらにブロン皇太子がホリーに惹かれた理由の自己分析も、完了していた。その結果リアは、あきらめの境地に達していたと思うのだ。
日記の最後のページには、こう書かれていた。
『明日の夜。
舞踏会がある。でも物置小屋放火事件のことを内々で尋ねられているが、まだ逮捕はされていない。そして私は尋ねられても、無言を通している。ブロン皇太子は正義感が強い。きっと来る舞踏会の場で、私に弁明の機会を与えようとしてくれているのかもしれない。つまり舞踏会の場で私を断罪しつつ、皆の前で弁明して見せよ、ということだ。でも私が真実を話し、それを皆が信じてくれる……? その可能性は低い。私が舞踏会や晩餐会で、ホリーへ嫌がらせをしているのは、多くの貴族に見られていた。私が言葉を重ねても、どうせ信じてもらえない。それにブロン皇太子に必要な女性も分かった。彼には相応しい相手を見つけてもらいたいと思う。そして私は悪あがきせず、悪の華として散ろうと思う。』
リアのこの最後に書かれた日記を読んだ私は、その時の彼女を予想することになる。
リアは悪役令嬢だったが、真面目な子だった。真面目で不器用。うまく自分を出せない。もうダメだとなったリアの心のSOSで、前世の記憶が覚醒されたのだと思った。
でもさ、なんで私なのかなぁ。
前世の私は、リアのような才色兼備ではないのに。
ただ……。
そっか。
私って能天気だから。辛いこと、しんどいことがあっても、それでも折れないんだよね。逆境に強いタイプ? 雑草魂?
今からの断罪回避は難しいかなぁ。私、頭の回転がいいわけではないし。一応リアに転生しているから、勉強とかはできるけど、地頭がいいわけじゃないしさ。
そんなことを思っていたら、突然頭痛に襲われた。覚醒し、目覚めて日記を読み終えてすぐ、私はベッドに倒れ込む。そして夢の中で、リアの記憶を追いかけることになった。次に目が覚めると、前世の私とこの世界のリアの記憶が見事一致し、落ち着いた。
落ち着いたと思ったら「昼食のお時間です」とメイドから声をかけられ、あれよあれよという間に、舞踏会のためのドレスに着替える時間になった。その後は身支度を整え、馬車に戻り、宮殿へ向かった。緊張しながらも会場となるホールへと歩いて行き……。
そして至る現在だ。

























































