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裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます  作者: みゅー


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 カーレルは裏切り者の翡翠よりミリナの言うことを信じてしまうだろう。


 今は一旦、引いた方がいいかもしれない。


 咄嗟(とっさ)にそう考え、どうやってこの包囲網から突破するかを考え始めたそのときだった、目の前で信じられないことが起こった。


 カーレルの合図で騎士団が一斉に武器を構えそれをミリナに向けたのだ。


 そして、カーレルは言い放つ。


「ミリナ、もう言い逃れはできない」


 ミリナは信じられないとばかりに周囲を見渡すと、カーレルに向き直る。


「殿下、勘違いしてませんか? 実は翡翠は本当に私たちを裏切っていて……」


「うるさい、黙れ。その口を閉じろ」


 カーレルが静かに低い声でそう言うと、ミリナは自分の分が悪いと悟ったのか、振り返り怪訝な顔でオオハラを見つめて言った。


「オオハラ、あなた私を裏切ったの?」


 オオハラはゆっくり首を横に振る。


「いいえ、違います。申し訳ありませんが僕は最初から翡翠さんの味方です」


「そういうことなの」


 そう呟くとミリナは突然、翡翠に向かって剣を振り上げ雄叫びをあけながら突進した。


 当然、瞬時に騎士たちに囲まれたミリナは少し抵抗したものの、あっさり取り押さえられた。


 地面に押さえつけられると、手を後ろ手にされ無理やり立たされる。翡翠はそれを見てミリナに質問する。


「ミリナ様、なぜそこまで私を嫌うのですか?」


 するとミリナは堪えきれないとばかりに吹き出し、思い切り笑ったあと言った。


「やだ、そんなのもわからないの? 簡単じゃない。庶民のくせにでしゃばりで目障りだったからよ」


 翡翠はショックを受けた。たったそれだけのことでミリナはこの世界を危機にさらしたのだ。


「でしゃばるもなにも、ミリナ様の邪魔なんて一度も……」


 そこでハッとする。


 今までミリナは、カーレルと翡翠が一緒にいても表だって怒ることはなかったが、それが気にくわないのかもしれない。


「カーレル殿下が恋人のミリナ様を差し置いて私に構ったから? でも、カーレル殿下は……」


 すると、ミリナはさらに大きな声でケラケラと笑った。


「違う違う、もしかして本気で私とカーレル殿下が付き合ってると思ってるの? まだ気づいていないなんて、そういう少し足りないところも含めて本当に翡翠って残念な子よね」


「えっ? 付き合ってないのですか?! でも、じゃあ本当に邪魔だからとかそんな理由で?」


 その質問にミリナは翡翠に優しく諭すように答える。


「あぁ、翡翠ったら世の中のことすべてになにかしらの理由があるとか、本気で思ってる人? そんなわけないじゃない。私は理由なんてなくても、そのときに感じたまま行動するだけ」


 それを聞いた翡翠は思わず言い返す。


「確かに、理由がないこともあるとは思います。それは否定しません。でもすべてのことに理由がないだなんて、本能のみで動くなんて、あなたは自分もなんにもない空虚で空っぽな人間に他ならないと思います」


 すると、そこまで余裕だったミリナが突然鋭い目付きで翡翠を睨んだ。


「はぁ?! なにそれ、どういう意味? 私にはなにもなくて、あんたはなんでも持ってるって言いたいの?」


 すると、カーレルが突然叫んだ。


「いい加減にしろ!! お前の話はこれ以上聞くに堪えない」


 そして、カーレルは無言でミリナに近づくとその首もとからペンダントを奪い取った。


「これは返してもらう」


「あら、やっぱりばれてたの。だったら早く言ってよ。でも、これを見たときの殿下の顔も翡翠の顔も、本当に最高だったわよ」


 ミリナはとても楽しそうにそう言って笑った。


 茶目っ気たっぷりにあのペンダントの話をしたとき、ミリナはあれがジェイドのものだと知っていたのだ。


 翡翠はミリナが人の皮をかぶった、得体の知れないものに見えた。


 カーレルはミリナを侮蔑の眼差しで見つめると言い放った。


「もうお前に用はない」


 騎士たちがミリナを連行して行くその間もミリナは叫ぶ。


「いいのかな~? 私は聖女なのにこんなことして。私を崇めていた大衆やスペランツァ教の人間は黙ってないかも。それにティヴァサ国との関係も悪くなるかもしれないなぁ。カーレル殿下はそういうこと、ちゃんとわかってるのかな? 大丈夫なのかな?」


 そこへエルレーヌが出てきて言った。


「偽聖女様、大丈夫です。私はあなたの監視から解放されますから嬉しい限りですし、スペランツァ教の者たちも同意見でしょう。それに、民衆のことも心配には及びません。あなたのやったことを世間に大々的に説明するつもりですから」


 するとミリナは顔色を変えた。


「あなたも? あなたも私を騙していたの?」


「申し訳ありませんね、翡翠様をお守りするためにも必要だったので。それにしても人を人とも思わないような、傍若無人で我が儘放題のあなたの監視は本当に大変でした」


 ミリナはしばらく沈黙したのち、微笑むとカーレルに言った。


「まさかそこまでするなんてね」


「それはこちらの台詞だ」


 カーレルがそう言うと、今度こそミリナは連れていかれた。


 この展開についていけずに、翡翠が呆然としているとカーレルが翡翠に駆け寄り思い切り抱きしめた。


「大丈夫だったか?」


「え? あの、はい。ちょっと、どうしてこうなったのかわからなくて、戸惑ってはいますけど……。一体どういうことなのでしょうか?」


 翡翠がそう言うと、みんな顔を見合わせて微笑んだ。


 戸惑う翡翠にカーレルが説明し始める。


「実は、ジェイドが世界を救おうとしてくれていることは知っていた」


 翡翠が驚いてカーレルの顔を見上げると、カーレルは翡翠の頬をなでながら微笑んだ。


「召喚した直後は、君にはジェイドの記憶はないと思っていた。だが、旅の途中で君がジェイドの記憶を持ってると確信した」


「だったら、そのとき言ってくだされば……」


「いや、君は私のことを信用していなかっただろう?」


 そう言われ、翡翠は返す言葉を失う。黙ってうつむくとカーレルが顔を覗きこんで視線を合わせる。


 カーレルの問いかけるような眼差しに翡翠がうなずくと、カーレルは話を続ける。


「だからまずは信頼を取り戻したかった。そうして信頼を取り戻せば君がいつか打ち明けてくれるのではないかと思った」


 それを聞いて翡翠は、ビスの村で正直に話していたら事態は変わっていたかもしれない、と思った。


 だが、あのときの三人の会話は翡翠のことを言っているように聞こえたし、特にカーレルが言った台詞は翡翠について言っているようにしか感じなかった。


『ことの真相を本人の口から聞き出してやる』


 カーレルはそう言った。だが、今考えると、あれはミリナのことだったのかもしれないと思い至る。


「あの、質問なんですが」


「なんだ?」


 翡翠を抱きかかえたまま、顔を近づけ優しく微笑見かけられ、恥ずかしくてうつむくと訊く。


「カーレル殿下はジェイドの最期の真相をずっと探っていたということですか?」


「そのとおりだ。ジェイドがいた最期の『スタビライズ』は結界に覆われ中が見えなかったからね」


「でも、なぜミリナ様が関与していると?」

誤字脱字報告ありがとうございます。


書籍化希望される方は、高評価・ブックマークをよろしくお願いいたします。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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