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裏切り者として死んで転生したら、私を憎んでいるはずの王太子殿下がなぜか優しくしてくるので、勘違いしないよう気を付けます  作者: みゅー


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 オオハラは少し考えてから言った。


「とにかく、もう日が暮れてしまっているし、彼を無理やり歩かせるなんてことはできません。フルスシュタットの宿で一泊するしかありませんね」


「そうですね。殿下に追いつかれる心配もありますが、流石に夜中に馬車を走らせることはないでしょうし」


 そう言って、ここで一泊することになった。


 翡翠は宿に入りファニーが寝てしまったあと、オオハラの部屋を訪ねた。


 夜中に部屋を訪ねて来た翡翠を見て、オオハラは驚いた顔をした。


「どうされたんですか?」


「『ジェイド』を見つけ、ニヒェルに再会したら訊こうと思っていたことがあるんです」


「なんでしょう、答えられることなら」


 そう答えると翡翠を部屋へ招き入れ、ソファに座るよう促した。お互いに向き合って座ると、翡翠は口を開いた。 


「目的を果たしたら、私は強制的にもとの世界に戻るのでしょうか?」


「いいえ、それを決めるのはあなたです。イーコウで会ったときにも話しましたが、あなたは僕の娘も同然ですから、幸せになってほしいと思ってます。なにか不安なことでも?」


 翡翠は少し逡巡したのち、もとの世界で召喚される直前の自分がどういう状況だったか話した。


「そんな、ではもとの世界に戻ればあなたの命は……」


「あの事故は、こちらに召還されるために起きた事故ではないのですね?」


「そうですね、残念ながら関係ありません」


 それを聞いて翡翠は、絶望的な気持ちになった。


 オオハラからカーレルに説明してもらい、誤解が解けなければ翡翠はもとの世界に戻ろうと思っていた。


 あの事故が召還と関係があれば、もとの世界に戻っても、何事もなかったかのように飛行機の中に戻されるのではないかと、少し期待していたからだ。


 翡翠は死刑宣告をされた気持ちになった。


「わかりました、夜中にすみませんでした」


「翡翠さん、大丈夫ですか? 事故のことは残念ですが、そんなに心配しなくてもこの世界に残ればいいのですから。ね?」


 オオハラはそう言って微笑んだが、彼はカーレルがどれだけ翡翠を恨んでいるか知らないから、そんなことが言えるのだろう。


 翡翠は気を取り直したように微笑むと、オオハラに言った。


「そうですね、許されるならそうします。明日は早くにでなければいけないのに、こんな夜中にすみませんでした。おやすみなさい」


 そう言って頭を下げると、翡翠は自分の部屋へ戻った。


 翌朝は日が昇らないうちに出発した。


 欲を言えば、フルシュタットは景観がとても美しい街なので、通りすぎるだけの旅ではなくゆっくりしたい気持ちもあった。


 それに、ここに来ることは二度とないかもしれない。そう思うと少し名残惜しい気持ちもあり、翡翠は後ろ髪を引かれながらフルシュタットを立った。


 ここからは徒歩で、最小限の荷物を手にまず結界のところまで進んで行く。


 歩きながらファニーが翡翠に尋ねる。


「ねぇねぇ、あの結界はどうするの? エンジェルが消しちゃう感じ?」


「はい、消さないと『スタビライズ』に近づけませんから」


「だとするとさぁ、消した瞬間に根暗王子に居場所がばれちゃうんじゃないの?」


「そうなるとは思いますけど、仕方がないと思っています。それにどちらにしろ、カーレル殿下たちには追いつかれるのではないかと思います


「う~ん、そっか」


 翡翠は、あらためて二人に向かっていった。


「巻き込んでしまってごめんなさい」


 すると、二人はほぼ同時に答える。


「えー?! そんなこと思ってないけど!」


「なにを言ってるんです! そんなことありません!!」


「でも、本当は私が力を取り戻した時点で一人で行こうと思えば行けたのに、特にファニーさんには無理に付き合わせてしまって」


 翡翠はそう言うとうつむいた。


「だからぁ、いいんだってば~。博士も僕も好きでここにいんの! ね?」


「はい、ありかとうございます」


 次いでオオハラが言った。


「翡翠、あなたは僕たちが一緒に行動することで、僕たちもなんらかの処罰を受けるかもしれないと心配しているのではありませんか?」


 そのとおりだった。翡翠が無言でいると、ファニーが前方を指差した。


「ねぇ、あれが結界じゃない?!」


「やっとここまでたどりつけました。あとはあの結界を消して『スタビライズ』を停止するだけです」


 そう言って翡翠は結界に寄った。近くで見るとまるでクリーム色の透明な風船のようにみえた。


 翡翠は振り向いてオオハラに言った。


「それにしても、こんな巨大な結界をよくミリナは張れたものですね」


 すると、オオハラは首を横に振る。


「これは、聖女の張ったものではありません。『ジェイド』の防衛反応ですね」


 そう言って翡翠の横に並び結界を見つめた。


「えっ? でもこれは聖女が張ったものだとカーレル殿下が仰ってましたけれど?」


 そこでファニーが口を挟む。


「そんなことよりさぁ、早くしないとみんな来ちゃうんじゃな~い?」


「そうでしたね、じゃあ二人とも少し離れていてください」


 そう言って翡翠が結界に触れた瞬間、まだなにもしていないのに結界が消え始めた。


「さっすが~! 誰も消せない結界をこんなに容易く解除しちゃうなんて、すごいね~」


「違います、私はなにもしていないのに触れた瞬間に勝手に結界が消え始めたんです」


 すると、オオハラがうなずく。


「当然です。『ジェイド』が結界を張ってあなたが来るのを待っていたんですから。さぁ、行きましょう」


 促され翡翠は一歩ずつ確実に『スタビライズ』へ近づいて行った。


 周囲の景色を見て翡翠は、ジェイドの最期の瞬間を思い出す。


 私の胸には背後から一瞬で大剣が突き立てられた。あれは一体誰の仕業だったのだろう?


 そんなことを考えていたとき、背後から声がかかる。


「待って!」


 振り返るとそこにミリナがいた。


 ミリナがいるということは、カーレルたちも近くにいるかもしれない。そう思った翡翠は思わず身構える。


「翡翠、落ち着いて。私はあなたが心配で追いかけてきただけなの!」


 翡翠は驚いて尋ねる。


「追いかけてきたって、殿下は? それに誕生会も」


 すると、ミリナは苦笑して言った。


「たぶん、私が一番最初に翡翠がいないことに気づいたんだと思うの」


「どうして?」


「朝食のあと、ドレスを渡していないことに気がづいて、私あなたの部屋に行ったの。そしたら部屋を出ていくのが見えて……」


「でも、だからって一人でここまで?」


「もちろんエルレーヌにも来てもらってるよ? でも、翡翠がカーレル殿下になにも言わないで出ていくなんて、なにかわけがあるんでしょう? だったら勝手にカーレル殿下に報告するわけにはいかないじゃない?」


「誕生会は?」


 すると、ミリナは顔をしかめた。


「あーんなの、堅っ苦しいだけでちっとも面白くないじゃない。だから、適当に影武者立てて出てきちゃった。それに誰が主役だって一緒だもの」


「そうなんですか?」


「ところで、翡翠はやっぱり『スタビライズ』を停止したいの?」


 確信を突く質問に翡翠は一瞬戸惑うが、うなずく。


「どうしても停止しなければいけないんです。もしも、ミリナ様がそれを阻止しにきたのなら……」


 すると、ミリナは驚いた顔で答える。


「えっ? 私が?! 違う違う。だってどうしても『スタビライズ』を停止しなければいけない理由があるんでしょう? なら、それを邪魔する必要なんてないじゃない」


 思いもよらぬ返事に翡翠は戸惑い、思わずオオハラの顔を見る。と、オオハラは翡翠を見つめ、しばらく考えた様子を見せたあとうなずいてミリナに言った。


「では、聖女様もご一緒しますか?」


 すると、ミリナはその場でぴょんびょんと跳ねて、嬉しそうに言った。


「いいの? 実はそう言ってくれるの、待ってたんだ!」


 そう言って翡翠の方へ駆け寄った。


 そのとき、ファニーは翡翠の腕をつかみ自分の方へ引き寄せた。


「いいから、とにかく早く行こうよ~」


 そう言って翡翠を引っ張り『スタビライズ』に向かって歩き出す。


 翡翠は『スタビライズ』に近づくにつれ、異変に気づいた。『スタビライズ』の中になにか人のようなものが入っている。


 目をこらして見るとそれがジェイドだと気づき、驚き声も出せずにそれを見つめた。


 ジェイドは背後から大剣を貫かれた状態で『スタビライズ』の中で保存されていたのだ。


 そして、ジェイドを貫くその特徴的な大剣を見た瞬間、誰がジェイドを殺したのかを知った。

誤字脱字報告ありがとうございます。


書籍化希望される方は、高評価・ブックマークをよろしくお願いいたします。


※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。


私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。


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