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すると、ミリナは瞳をキラキラと輝かせて言った。
「なら、私が翡翠のドレスを準備するね! だって誘ったのは私だもの。それぐらいさせてちょうだい」
「必要ない」
そう言いきるカーレルに、ミリナはニヤリといたずらっぽい笑みを返した。
「いいもーん。勝手に準備するから」
そこでラファエロが口を挟む。
「はぁ? 勝手に準備するって、お前その強引なところ本当にかわらないな」
「ラファエロはだまってて!」
そこで翡翠が口を開く。
「あの、私はこの外套で出席してはいけませんか? いつも着ているものですが、これは殿下から賜ったもので、王室独特の紋様が入っていてちゃんとした正装にあたると思うのですが」
すると、そこにいた全員が一斉にその翡翠の提案に対して異を唱えた。
それに驚いた翡翠は思わず後退り頭を下げる。
「あの、すみません」
それを見て、カーレルが慌てて翡翠に向き直ると言った。
「謝る必要はない。君の言っていることは間違っていないのだから」
ニクラスもうなずく。
「確かにそうだ。だが、私はその紋様のものをこれ以上公式の場で君に着てもらいたくない」
それを受けてラファエロが続ける。
「確かに、俺もその意見に賛成だ」
すると、カーレルが微笑んだ。
「私はそこは問題にしていない。ただ、その、ドレスの準備は私にさせてほしい」
そこでミリナが言った。
「えーっ! 私はもう準備しちゃったんですけど? まぁいっか。翡翠が気に入るかわかんないもんね。でも後で部屋に届けておくね」
ミリナが引いたことで結局カーレルがドレスを準備するということでこの話しの決着が着いた。
翡翠はみんなの意見を聞いて、この外套に入っている紋様にはよくない意味があり、祝いの席ではあまり着てほしくないのだと気づいて落ち込んだ。
そんな話をしたあと、荷物を置くために宿泊場所へ案内された。キッカには宿泊施設もあったが、スペランツァ教のほうで部屋を用意してくれていた。
翡翠が割り当てられた部屋へ行くと、エミリアたちが部屋を整えお茶の準備を始めていた。
「エミリア、ここまでついてきてくれたの?」
「もちろんでございます。私はこれから許される限り、ずっと翡翠様に仕えさせていただく所存です。それに」
エミリアはそう言うと廊下のほうを見つめる。翡翠がその視線の先を見るとそこにはブランドンがいた。
「彼らも一緒ですよ。私たちは言わばチームのようなものです」
翡翠は嬉しくなりブランドンに微笑むと、ブランドンは照れたように微笑み返し仕事に戻っていった。
昼食の席でカーレルは明日の準備をすると話していたが、午後になってもカーレルが翡翠になにか言ってくることは無く、だからと言って『スタビライズ』を見に行くこともなかった。
ミリナも部屋にドレスを届けると言っていたがそれもなく、部屋でお茶を飲みながら翡翠はこのまま明日の誕生会を欠席できないだろうかと考え始めていた。
なぜなら学校の卒業祝いのダンスパーティーのことを思い出し、とても憂鬱な気分になっていたからだ。
それにせっかくのミリナの誕生日だというのに、翡翠は素直にカーレルと幸せそうに微笑むミリナを祝福することが出来そうになかった。
そんなことを考えながら部屋でどうすることもできずに、カーレルたちがなにかしらの行動に出るのを待っていた。
だがそのまま何事もなく夕食の時間となってしまった。
カーレルが翡翠の部屋まで迎えに来たので、断ることもできず翡翠は外套のフードをかぶって食堂へ向かった。
食事中はミリナがずっとカーレルたちに話しかけていたお陰で、翡翠は会話に参加せずに食事をとることができた。
だが、そのせいで明日の準備について話す機会を失ってしまった。
責任感の強いカーレルのことなので考えはあるのだろうと思いながらも、誕生会を欠席する方向で考えていた翡翠は、あえてこちらからなにかしらの行動はとらないことにした。
カーレルにエスコートされ部屋に戻り、着替えて寝室で今後のことを考えているとドアがノックされ驚いた。
こんな時間に誰だろう?
そう思いながら寝室のドアをそっと開けると、そこにオオハラが立っていた。
「オオハラさん?!」
翡翠が驚いてそう叫ぶと、オオハラは苦笑しながら言った。
「不躾にもこんな時間にこんなところまで押しかけてしまってすみません」
オオハラがここまで押しかけてくるのだからきっと何かあるのだろうと思った翡翠は、部屋の外にオオハラ以外いないことを確認すると、急いで部屋へ招き入れた。
「どうしたのですか? あの、カーレル殿下をお呼びしましょうか?」
「いえ、殿下は今とても忙しいようなので」
「そうなのですか。ところでなぜここへ?」
翡翠はそう言うと、オオハラをソファに座るように促し自分はその対面に座った。オオハラはソファに座るとすぐに事の経緯を説明し始めた。
「あれから『ジェイド』のことを色々調べていたのですが、ある日突然『ジェイド』と思われるエネルギーを感知したのです」
「なぜ突然? 今まではまったく感知していなかったのですよね?」
オオハラはうなずく。
「それなのですが、やはりジェイドの生まれ変わりであるあなたが関与しているのだと思われます」
「私、ですか? でも、私は今のところ何の体調の変化もありませんし」
「違うのです。反応したのは『ジェイド』のほうです。僕の考えではあなたが近づくまで『ジェイド』はその動きを停止していたのではないかと思うのです」
「なぜでしょう?」
「おそらくジェイドが最後の『スタビライズ』に近づいたとき、なにかあったのではないかと思います。そして、ジェイドの生まれ変わりであるあなたがこの世界に召喚され近づくまでその活動を停止していたのではないかと」
そこまで聞いて翡翠はハッとする。
「では『ジェイド』はここから近くにあるということですか?」
「そうです」
だけど、と翡翠はオオハラの来訪に疑問を持つ。
「それはきっとこの国の先にあるのですよね? だったら連絡をしていただければそこへ寄ることも可能だったはずです。それを待たずにこうして慌てて駆け付けたにはなにか理由があるのではないですか?」
「流石です。これだけ理解が早いと説明が省けるので助かります」
オオハラは申し訳なさそうに微笑むと続けて言った。
「じつは今までなんの動きもなかった最後の『スタビライズ』についても動きがあったのです」
そこで翡翠は最後の『スタビライズ』を守っている結界の存在を思い出す。
「ですが、結界に覆われた『スタビライズ』をどうやって調べたのですか?」
「はい、最後の『スタビライズ』のことはエネルギーの放出状態だけを外側から計測し、その動きを追っていました。それで、先日から突然そのエネルギーが今までの平均数値の数倍を検知するようになったんです」
「急に活発になったということですか?」
するとオオハラは困った顔をした。
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※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
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