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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
「もちろんでございます。翡翠様が私たちに、いつもお心を砕いてくれていることは承知しております。ですから、私たちはいつも翡翠様になにか恩返しができればと思っておりました。ここは翡翠様のためだけの晩餐会の場でございます。気兼ねなくごゆるりとお過ごしください」
驚いてファニーを見上げると、ファニーは満面の笑みを向けた。
「エンジェルってさぁ、みんなにはできないような……。う~ん、なんていうの? 気遣い? 人の心を読む? ようなことができる人だよねぇ。それってぇ、とぉってもすごいことなんだよ? いつも感心するもん! それでみんながさぁ~、感謝の気持ちを伝えたいって思うのはぁ、当然じゃない?」
ファニーのその発言に、周囲の使用人たちは大きくうなずく。それを見て翡翠は頭を下げた。
「あ、ありがとうございます」
自分には、こんなにも優しい目を向けてくれる人たちがいる。翡翠はそれが嬉しくて、思わず大粒の涙をこぼした。
そんな翡翠をみんなが取り囲む。
「最近は特に元気がなくていらっしゃるので、とても心配していました」
「元気を出してくださいね? なにがあっても私どもは翡翠様の味方です」
「あまり接点のない私たち一人一人の名前まで覚えてくださっていて私は感激しました」
そう口々に翡翠を励ます言葉をかけられ、翡翠は感激し心から感謝した。
「本当にありがとうございます。私から一つみなさんにお願いがあるのですが、よいでしょうか?」
翡翠がそう言うと、みんな黙って翡翠を見つめた。
「今日は一緒にこの場を楽しんでいただけないでしょうか?」
するとみんな翡翠に笑顔を返した。
「もちろんです!」
そう言ってみんな楽しそうに翡翠を取り囲み、様々な話をしてくれた。
屋敷の者は自慢の美術品を見せてくれたり、希少なオートマタを見せ説明してくれる者もいて楽しい時間を過ごした。
「翡翠! ここにいたのか」
そのとき突然部屋の入口からそう声がかかり、翡翠は驚いてそちらを見るとそこにカーレルが立っていた。
その姿を見て、今度こそ怒られると思った翡翠は慌てて頭を下げた。
「すみませんでした。私が我が儘を言って勝手にここの準備をさせました」
そこでファニーが翡翠を庇うように言った。
「違うよ翡翠! ここにいるみんなはさぁ、翡翠にそんなことを言わせるためにこんなことをしたわけじゃないんだよ? ってかさぁ、エンジェルを放っておくほうが悪いんじゃん? エンジェルは悪くないんだからさぁ、頭さげる必要ないじゃん。それに勝手に準備したのは僕だしぃ、連れ出したのも僕!」
それを聞いてカーレルは無言で翡翠の前に出ると跪いた。
「翡翠、すまなかった。君をないがしろにするつもりはない」
翡翠は驚いて、カーレルに立つよう促す。
「殿下、止めてください。悪いのは私です。そんな、跪くなんてとんでもないことです。とにかく立ってください」
するとカーレルは立ち上がり、翡翠の手を取ると自分の方へ引き寄せその胸に抱いた。
「私は君を傷つけてばかりだ。こんなつもりじゃないんだ、君を大切にしたいだけなのに。すまない。本当にすまない。私は君を大切に思っている」
翡翠はその台詞に涙があふれ、思わず、素直にカーレルの胸に顔をうずめようとした。が、その気持ちを既所でグッと抑える。
カーレルの胸にあのペンダントがあったからだ。
勘違いしてはダメ、カーレル殿下の心にはミリナがいる。
翡翠は自分にそう言い聞かせなんとか涙をこらえると、カーレルに笑顔を向けた。
「殿下は本当に心配性なのですね、私は大丈夫ですよ?」
そう言ってカーレルに微笑むと話を続ける。
「それにこうして自分の好き放題させてもらっていますし、これ以上なにか言えばそれは我が儘になってしまいます」
そして、カーレルから体を離した。カーレルは翡翠の顔を覗き込むと頬を指で拭った。
「だが、泣いた跡が残っている」
「違います、これはみなさんが優しくて、それが嬉しかったからです。とても感動しました」
カーレルはそう言う翡翠の顔をじっと見つめた。
「君はいつも……」
「いつも? なんでしょうか?」
「いや、なんでもない」
そう返すと、カーレルは周囲を見渡して言った。
「私もこの場に混ぜてもらえないだろうか?」
使用人たちは困惑気味にお互いの顔を見合わせると微笑みうなずく。
「殿下、もちろんでございます」
「ありがとう」
使用人たちにお礼を言うと、カーレルは翡翠の腰を引き寄せ熱っぽく見つめる。
「翡翠、もう一人にはしない」
翡翠はカーレルのこの言葉に意味などないとわかっていても、思わずドキリとして目を逸らした。
「わかりました。私も気をつけます」
そう言って周囲を見ると、ファニーやエミリアたちに温かい眼差しを向けられていることに気づき、恥ずかしくなりうつむいた。
「旦那様!」
エミリアのその声に振り向くと、そこにはラファエロとニクラスが立っていた。
「翡翠、一人にして申し訳ありませんでした。私も混ぜてもらえませんか?」
「翡翠、遅くなって悪かった。そばを離れてすまない」
「お二人とも謝らないでください。ファニーやエミリアたちがいてくれたので、私は大丈夫です」
そう答えると、ニクラスとラファエロは申し訳無さそうに部屋に入ってきた。
だが、翡翠は他の参加者を放っておいてよいのだろうかと心配になり、ニクラスに訊いた。
「あの、晩餐会にはブック首相とカーレル殿下がいらっしゃらなくて大丈夫なのですか?」
するとニクラスは微笑む。
「大丈夫です。後のことはスローンにまかせてありますから」
そう答え、大きく手を叩いた。するとそれを合図に楽団が入ってきた。
「今日は立場は関係なく、みな大いに楽しんでくれ!」
そのニクラスの言葉を合図に楽団が即興で陽気な音楽を奏で始めると、みんな音楽に合わせてダンスを踊り始めた。
その後、カーレルたちが翡翠から離れることはなく、カーレルにいたっては気がつくとずっと翡翠を見つめ続け、翡翠はどう対応したらよいか困ってしまうほどだった。
「翡翠、私と踊らないか?」
カーレルに誘われ翡翠はびっくりして顔を見上げた。なぜなら、カーレルはどんなときも絶対に誰かと踊ることはなかったからだ。
「私と、ですか?」
「そうだ。私は君と踊りたい」
ジェイドだったころ、一度だけでもカーレルと踊れることがあるかもしれない。そんな期待を持ってダンスの練習を重ねたことがあった。
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