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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
ジェイドにとってここの研究所のセキュリティなど、あってないようなものだった。
研究所に来ると、職員たちにジェイドが関係者に見えるように幻覚をみせ、なんの争いもなくここまで侵入できた。
そうやってここへたどり着き、ニクラスが待ち伏せてたときはとても驚いたのを覚えている。
「ジェイド、あなたは驚くかもしれないが私はあなたをずっと待っていた」
ジェイドはその台詞に驚き警戒し身構えた。それに男性に魔法が効いていないことにも驚く。
「そんなに怯えないでいただきたい。そうそう、自己紹介がまだでしたね。私の名はニクラス・ブック。おそらくあなたもこの名をご存じでしょう?」
「ヘルヴィーゼ国の元首が私を待っていたというの?」
すると、ニクラスはニヤリと笑って答える。
「サイデューム国ではあなたのその偉大な力を過少評価されていたようですね。ですが私は違います」
「どう違うと?」
「あなたの目的は『スタビライズ』を停止することのようだ。そして、私はその力に注目した」
「私の力に?」
「そうです。『スタビライズ』については実のところわかっていることは少ない。そんな中、あなたは現れた」
ジェイドはニクラスの言いたいことがわからず、警戒を緩めずニクラスを見つめた。すると、ニクラスは不敵な笑みを浮かべて話を続ける。
「わかりませんか? 私たちは『スタビライズ』からほんの少し力を得ているに過ぎない。それどころか、どうやって動いているのかすらわからない中、あなたはこれを停止することができる。それはすなわち、あなたが『スタビライズ』をも操れる力を持っているということだ。違いますか?」
そう言うとジェイドをじっと見つめた。ジェイドはその野心的な青年の顔を見つめ返すと、その瞳の奥に力を求め続けるものの狂気のようなものを感じた。
「あなたは私と結託して『スタビライズ』を操りたいというの?」
「まぁ、早い話がそういうことです。私達が手を組めばこの世界すら掌握できるほどの力を手にできるでしょう。あなたの目的はわからないが、この世界を掌握できるほどの力があればどんな目的も達成するのは容易いことだと思いませんか?」
確かにそうかもしれない。この小さな世界一つを掌握することは可能だろう。だが、この小さな世界一つを掌握するという目先の欲にとらわれれば、宇宙そのものの危機を招くことになるのだ。
あまりにも無知で滑稽なその計画にジェイドは思わず笑いだした。
ニクラスは驚き、笑われたことに怒りをあらわにした。
「なにがおかしいのです?」
「だってあまりにも滑稽だったから。それに、私はそんな小さな事には興味がない。守らなければならないものがあるのだから」
すると、今度はニクラスが笑い始めた。
「守らなければならないこと? 私から言わせてもらえばそちらの方が滑稽だ。『守るべきもの』は弱点にほかならないからです。事実として何かに執着し、失うことを恐れているからそんなに力があるにもかかわらず、私のように国一つ掌握することもできないのです」
そう吐き捨てるように言うと、ニクラスはくだらないとばかりにがっかりした様子を見せ、ジェイドから視線を逸らした。
ジェイドはそんなニクラスに優しく諭すように言った。
「でも事実として、私はあなたより力がある。それは、守るべきものがあるから。この理由がわからない限りあなたが私を超えることはできないでしょうね」
それだけ言うと、そっぽを向いているニクラスに対し残念に思いながら呟く。
「それにしても、あなたには失えるものすらないなんて」
するとニクラスは驚いた顔でこちらを向いたが、その瞬間手をかざして気絶させた。
「翡翠、どうしました? ぼんやりしているようですが」
そう声を掛けられ翡翠は我に返ると、表情を見られないように外套のフードの縁を引っ張って言った。
「すみません。ヘルヴィーゼ国の技術力の高さに圧倒されていました」
これは本心からでた言葉だった。
するとそれを聞いてニクラスは翡翠に言った。
「あなたにそう言われると嬉しいですね。実は最近、色々サイデューム国に技術提供をしているのです」
翡翠はその言葉に驚いてニクラスを見上げた。するとニクラスは苦笑する。
「そんなに驚くことでしょうか?」
そう言ったあと自嘲気味に笑い、続けて言った。
「あなたにそう思われても仕方がないかもしれませんね」
「いえ、あの、すみません」
翡翠がそう言ってうつむくと、ニクラスは翡翠のそばに立ち手を取り両手で優しく包むように握った。
「私はある女性に会い、人生観を変えるようなことを言われました。それからは、その女性に言われたことについてよく考えるようになり、生き方をあらためたのです。そうしたら驚くべきことが起きました、なんだと思いますか?」
突然の独白に何を言おうとしているのかわからず、翡翠はニクラスの顔を見上げるとニクラスは変わらぬ笑顔で翡翠を見つめ返す。
「以前より国がより豊かになり、私はより多くのものを得ることができたのです。そしてなにより、私の心がとても満たされるようになった。そして、それは私の力となった」
ジェイドがここで諭すように話したとき、あんなにも野心的で人の意見など聞かなかったのに、そんなニクラスをここまで変えた人物は一体誰なのだろう。
そんなことを思いながら翡翠は微笑んだ。
「その素晴らしい女性に出会えたことも素敵なことですけれど、それで己の行動を良い方向に変え、自己を高めることができることがすごいことなのだと思います」
「あなたならそう言うと思いました」
そう言って微笑むと続けた。
「それ以来、私はその女性をお慕い申し上げているのです。彼女は初めて私に人を愛するという感情を、守るべきものを与えてくれました」
はにかみながらそう言うニクラスを見て、今は幸せなのだろうとほっとした。
それと同時に、もしかしたらその女性とはミリナのことではないのだろうかと、根拠のないことを考えた。
私はミリナ様を意識しすぎてる。
そう思い、翡翠はそんな考えを打ち消すとニクラスの優しい眼差しを見つめ返し、なんとか笑顔を返した。
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