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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
屋敷内に入ると今後翡翠を担当するメイドのエミリアを紹介された。彼女は翡翠の身の回りのことすべての世話をしてくれるそうだ。
今までもカーレルが使用人をつけてくれてはいたが、一人がずっと翡翠を担当してくれるというのはこれが初めてのことだった。
前世も今世も庶民生まれの庶民育ちである翡翠は、メイドたちに世話をしてもらうことにとても抵抗があった。
この世界の貴族社会においては、そのような振る舞いを見せると使用人から舐められてしまうこともあると聞いている。
だが、サイデューム国のメイドたちもエミリアもそんな態度は一切見せず、翡翠のそんな態度を見て奥ゆかしいと笑顔を向けてくれていた。
なので、この頃には次第にこの環境に慣れて心地よく過ごせることが多くなっていた。
だからといって、翡翠が本物の貴族のように横柄な態度を取るようなことはなかった。
夕食のとき、翡翠が思いきってエミリアにすべての身支度をお願いすると、エミリアは嬉しそうに翡翠の支度をしてくれた。
ドレスや装飾品、それ以外の小物もすべてニクラスが準備してくれていたので、翡翠はそれに着替えさせてもらって食堂へ向かった。
食堂に全員揃ったところで突然、ニクラスが今後は自分も旅に同行すると宣言した。
すると即座にカーレルが反応する。
「翡翠には私がついているのです。わざわざブック首相がご一緒される必要はありません。ブック首相は自国のことに集中してくださって結構ですよ」
そう言ってあからさまな作り笑顔を見せた。それに対しニクラスも作り笑顔を返す。
「ほう、殿下が一緒にいらっしゃるから危険はないと? だが先日、あの聖女が一緒に行動していたと聞いている。そんなことで大切なものが守れるのか?」
翡翠はニクラスの口からその台詞が出てきたことに驚き、思わずニクラスの顔を見つめる。
それに気づいたニクラスは翡翠を熱のこもった視線で見つめ返してきた。
恥ずかしくなり慌てて視線を逸らしうつむくと、過去ジェイドとしてニクラスと交わした会話を思い出していた。
当時ニクラスは力こそすべてだと豪語し『失う物がないからこそ強くなれる』そう言っていたのだ。
ジェイドは当然それに対して異を唱えたのだが、もしかしてそれを覚えていたからわざとそんなことを言っているのかもしれない。
それに、今ニクラスが言った『大切なもの』とはミリナのことだというのはわかっている。
ニクラスはミリナと翡翠を共行動させたことで、ミリナを危険にさらしたと暗に責めているのだろう。
そう考え少しいたたまれない気持ちになっている横で、カーレルは作り笑顔を崩さずに答える。
「聖女には監視役がちゃんといる。問題ない」
「なるほど、それで連れ戻されたということか」
翡翠はニクラスがそんなことまで知っていることに驚いた。
ニクラスがわざわざこんな話をしたのは『サイデューム国内で起きたことはすべて把握している』と、カーレルをけん制しているのかもしれない。
そして、ニクラスは表情を変えずに穏やかに話を続ける。
「だが、その監視の目をくぐって聖女は抜け出し殿下を待ち伏せたのだろう? やはり、安心はできないな」
するとカーレルが初めてニクラスの前で不機嫌そうな顔をした。
「わかった。だが、ヘルヴィーゼ国内だけにしてくれ」
「断る。今までも我慢していた。それはすべて翡翠が混乱しないようにするためだ。だが、状況が変わったのだから問題はないだろう。これからは好きにさせてもらう」
そう言うとニクラスは翡翠に向き直った。
「そういうわけで、これからご一緒させていただきます」
急に話の矛先を自分に向けられ、翡翠は慌てて答える。
「え? あ、はい。よろしくお願いいたします」
翡翠は二人が今交わしていた会話のうち、後半は何を言っているのか話についていけていなかったが、とりあえず了承しておいた。
それを見てニクラスは微笑むとうなずいた。
「さて、堅苦しい物言いはここまでとしよう」
そう言って、カーレルに向き直る。
「カーレル、ラファエロ、こうしてゆっくり話せるのはずいぶん久しいな」
それに対してカーレルはいつもの落ち着いた笑顔を返した。
「確かに、だが城下からヘルヴィーゼまでは距離があるから仕方がない」
そこで、ラファエロがニヤリと笑い口を挟む。
「それにしてもあの出迎えには驚いたんだが? いくらなんでもオーバーだろ」
「あれぐらいは当然のことだ。それにしっかり国賓として出迎えておけば変な動きも取れないだろう」
「確かに、違いないが」
そう答えてラファエロは翡翠に微笑んだ。
これは、少しでも変な動きをすればすぐにバレると忠告しているのだろうと思いつつ、翡翠はラファエロに微笑み返すとうつむいた。
いつでもどこでも自分がやってきたことを忘れてはならない。こうして信頼を失い、白い目で見られたとしてもそれでも自分の使命を果たすと誓ったのだからと、翡翠は自分に言い聞かせていた。
すると隣に座っていたカーレルがテーブルの下でそっと手をにぎった。驚いて顔を上げると、カーレルが心配そうに翡翠の顔を覗き込んでいた。
「翡翠、君は自分がやったことについてなんら恥じることはないんだ」
そう言って、優しく微笑んだ。きっとジェイドの頃のことを思い出した翡翠がその行いに落ち込んでいると思い心配しているのかもしれない。
翡翠とジェイドは違う人物で、ジェイドのころの行いで落ち込む必要はない。そう言いたいのだろう。
その優しさが嬉しくもあり、申し訳なくもあり翡翠は無理に笑顔を作ると言った。
「大丈夫です。それはわかっていますから。あの、私そんなに落ち込んでいるように見えましたか? 今日は少し疲れているだけで大丈夫ですよ? カーレル殿下は心配し過ぎです」
そう答えて、カーレルの手をそっと振りほどくとマナーなど無視して目の前にある食事を思い切りよく頬張った。
その様子を見てカーレルは悲しそうに微笑んだ。
食後、客間に場所を移すとお茶を楽しみながら今後のことを話し合った。
「どうせヘルヴィーゼ国は横切って行くだけなんだろうが、少しはゆっくり観光してほしいものだ。なにか急ぐ理由があるか?」
それにカーレルが答える。
「いや、オオハラの話ではそんなに急ぐ必要はないとのことだった」
「そうか、よかった」
そう答えると、ニクラスは翡翠をじっと見つめた。
「あの、なんでしょうか?」
「もう二度と会えないかもしれないと思っていたので、今目の前にあなたがいることが信じられなくて」
そこで、ラファエロが翡翠に優しく微笑むとうなずく。
「俺も翡翠に会ったときはそう思った」
カーレルもそれに同意するようにうなずくと言った。
「私も同感だ。翡翠、この世界に帰って来てくれてありがとう」
するとニクラスは、棚から大切そうにボトルと小さなグラスを人数分取り出し、ボトルを掲げるとった。
「こいつは特別なときのためにとっておいたんだが、今がそのときだろう」
そう言って詮を抜くと、グラスに注いで全員に手渡し自分のグラスを翡翠の方へ掲げた。
「再会を祝して」
それを合図にカーレルとラファエロもグラスを掲げ『翡翠との再会に』と言ってグラスの中身を飲み干した。
翡翠もつられてグラスを掲げたが、そのあとグラスに少しだけ口をつけると、なんだか急に恥ずかしくなり苦笑してうつむいた。
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