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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
街中を歩いていると心地よい風に吹かれ、翡翠は色々なことを忘れその風を全身で浴びると軽く伸びをした。
そうして油断していたせいか、一瞬だけ翡翠のフードが捲れてしまった。
慌ててそれを戻すとうつむき、翡翠に気づいた者からなにか非難を受けるのではないかと身構える。
そのとき、前方にいた者が突然翡翠の前で両膝をついて頭を下げた。
「偉大なる賢人様、こうして会えたことを私は神に感謝いたします」
驚き困惑し戸惑った翡翠が思わずカーレルを見上げると、カーレルは無表情のままその者に言った。
「立ってくれ。気持はわかるが、賢人は今とても困惑している。いつか場をもうけるから今はそういったことは控えてほしい」
カーレルは町民たちにも賢人が訪れると話していたのだろう。翡翠が申し訳ないような気持ちになりうつむいていると、カーレルは自分の背後に翡翠を隠した。
カーレルもさすがに翡翠を間近で見られれば、ジェイドと似ている事に気づかれると思ったのだろう。
そう思っているとその者は立ち上がり、深々と頭を下げる。
「我々がした仕打ちを思えば、偉大なる賢人様に見捨てられても当然かもしれません。承知いたしました」
そう言って下がっていった。
「あの、殿下? あのかた私のことをとても勘違いしていらっしゃるようでしたけれど、大丈夫なのですか?」
「いや、勘違いではない。君はなにも気にしなくていい。さぁ、行こう」
そう言って困惑する翡翠の肩を抱くと、カーレルは無言で足早に歩き始めた。
カーレル殿下は一体どのように説明してまわったのだろうか?
そう思いながら振り返ると、先程の者が立ち止まりこちらに深々と頭を下げていた。
こうしてミデノフィールドでの訪問を終えると、ラファエロが戻るのを待って一行は隣国のヘルヴィーゼ国へ向けて出発した。
ここでお別れかと思われたファニーもなぜか一緒に行動することになった。
「ファニーさんたちも一緒にヘルヴィーゼ国へ行くのですか?」
馬車の中でカーレルにそう尋ねると、カーレルは不機嫌そうに答える。
「どうしても同行したいと言ってね。私がそれを拒否してもついてくるだろう。だから諦めた」
そう言うと翡翠を見つめ微笑んだ。
「それに奴が役立つこともある」
「そうなんですね」
そう答え微笑み返したが、翡翠は不思議に思う。芸術家が旅の道中で役に立つこととは、一体どんなことだろう? と。
もしかして、カーレル殿下はファニーを宮廷道化師として雇うつもりなのだろうか?
そんなことを考えながら、窓の外に視線を移した。
次に行くヘルヴィーゼ国は軍事国家であり、閉鎖的であまり近隣諸国と友好的な関係を持たない国である。
当然ながらジェイドが生きていたころ、サイデューム国とヘルヴィーゼ国の関係は良好ではなく、そんな国へ王太子殿下であるカーレルが単独で行ってもいいものなのか翡翠は不安に思っていた。
お忍びでの訪問という形にすれば外交的には問題ないのかもしれないが、元首であるニクラス・ブック首相がそれを許すかわからなかった。
彼はとても野心家でたぐいまれなる才能に恵まれ、絶大な魔力をもちそれを駆使し今の地位まで登り詰めた人物だ。
翡翠はジェイドだったころ、一度ニクラスに会ったことがあった。
ヘルヴィーゼ国は『スタビライズ』を宗教的対象として扱わずに何らかの動力源として扱っている国である。
サイデューム国でジェイドが『スタビライズ』を停止して回っていることを知ると、ジェイドが『スタビライズ』を扱えるということに目をつけたニクラスが接触を図ってきたのだ。
翡翠は流れる景色を見ながら、ぼんやりとそんなことを思い出していた。
ミデノフィールド区域の北方にある外壁がヘルヴィーゼ国との境界となっており、その外壁まで馬車で二日かけて向かうとヘルヴィーゼ国と国境検問所にたどり着いた。
以前ここへ来たとき、国境検問所の手前には小さな村と騎士団の駐屯地があり、ピリピリとした空気でとても物々しかった記憶がある。
ところが、久々に来た国境検問所は大きく様変わりしていた。
まず、村に到着してすぐに驚いたのが検問所のある大通りには市場のように露天商が並び、新たに宿泊施設が建設されておりまるで観光地のようになっていることだった。
更に驚くべきことに、検問所に進んで行くとあんなに固く閉じられていた門扉が取り払われており、ほとんどの人々が自由に行き来していた。
「とても活気のある場所なのですね」
もうちいさな村とは呼べないほど活気のある街並みを眺めながら翡翠が驚いてそう言うと、カーレルは優しく微笑んだ。
「数ヶ月前、ヘルヴィーゼ国との関係が良好となってから一気に発展した」
翡翠は驚きながらも、両国が友好的になったことが素直に嬉しかった。
「それは素晴らしいことです。できれば隣国との争いは避けたいですしね」
たった数ヶ月であれほど緊張関係にあった両国がここまで友好関係を築くことができるとは、一体なにがあったのかと疑問に思っていると、ラファエロが翡翠のその疑問に答えるように言った。
「ここまで発展したのは、誰かさんの功績のお陰だ」
するとカーレルが嬉しそうに微笑む。
「そう言われると私も嬉しい」
そんな二人のやり取りを見て、これはきっとカーレルの功績に違いないと思った。
翡翠はそんなカーレルを褒めるつもりで言った。
「この国の人たちはとても幸せそうな人たちばかりです。殿下や陛下の采配が素晴らしいものなのだとわかりますね」
すると、カーレルは首を横に振る。
「私や陛下の手柄ではない」
「そうなのですか」
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※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
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