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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
水晶谷に着くと、翡翠はジェイドだったころ本で読んで一度でいいから水晶の谷に訪れたいと思っていたのを思い出す。
その頃はまだなにも知らず、夢見がちでいつかカーレルと一緒に訪れたいなどと思っていた。
だがそれでも今日、ラファエロやファニーといった優しい仲間と来られたのだから一つ夢が叶ったと言える。
しばらく美しい景色をじっと眺める。翡翠は感動のあまり瞳を潤ませた。
「翡翠、そんなに来たかったのか?」
「はい。私ではなくジェイドが、ですけど。でも、私も来ることができたことに感動してます」
そう答えると、ファニーが翡翠を見つめて言った。
「え~! 逆に僕はこの感度を二人と共有できたことに感動する~! ね! 純朴令息もそう思うよねぇ?!」
「はぁ? 純朴令息? お前、それ誰に言ってるんだ?」
「やだなぁ、純朴令息に決まってるじゃないか~! ほら、それよりぃ、まだ明るいしもう少し奥に行ってみようよ~!!」
ラファエロは文句を言いたそうだったが、ファニーの勢いに圧されたのか翡翠の手を引いて後ろに続いた。
奥へ進んで行くと、洞窟がありその中は全面水晶で埋め尽くされていて、それがランプで照らされ翡翠は思わず感嘆の声を漏らす。
「わぁ、こんなに素敵だなんて思いませんでした!」
「これは、翡翠が見に来たいのもうなずけるな。凄い美しさだ」
「エンジェルとこんなに素敵な物を見られるなんて~、本当に僕はついてよねぇ!! あぁ! どうしよう?! ものすごいインスピレーションが!!」
興奮するファニーの声が洞窟内に響く。
翡翠は洞窟内に入って全体を見渡す。本で読んで知っていたつもりだったが、実際に見ると想像を遥かに越えたスケールに圧倒された。
水晶の結晶は大きいもので数メートル、小さなもので数センチ。しかも一つ一つの透明度が高く、中にはアメジストやシトリン、スモーキークォーツも混じっている。
感動しながらそれらを見ていると、背後からミリナの声がした。
「もう! カーレル殿下は難しく考え過ぎです。私はそんなつもりありませんけど?!」
どうやらカーレルとなにやら言い争っているようだった。
もしかして、痴話喧嘩ってやつかしら?
そう思ってそちらを見つめていると、カーレルとミリナがこちらに姿を現した。
「よぉ、お前らも来たのか」
ラファエロが声をかけると、カーレルがすぐに返事をした。
「当然だ。黙って行かせられるものか」
そこでファニーが笑いだした。
「そこはぁ、僕がいるんだからさ~、信頼してほしかったよぉ~」
「まだ貴様をそこまで信用していない」
カーレルはそう吐き捨てると、翡翠の元へ駆け寄る。
「ここにいるということは、もう体調はよくなったのか?」
「え? あの、はい。お陰さまで」
「そうか、ならばもう私と離れている必要はないだろう」
カーレルはラファエロから奪い取るようにして翡翠の手を取った。
ラファエロは呆れたようにため息をつくと、カーレルの背後に居るミリナにチラリと視線をおくり耳打ちする。
「ミリナのことはどうする?」
「お前に任せる」
そう返し、つないでいた翡翠の手を見つめた。
「翡翠、手が冷たい。風邪をぶり返すぞ。もう戻ろう」
翡翠はどうしてよいかわからず、ラファエロに視線を送って助けを求めたが、ラファエロは小さく横に首を振っただけだった。
そうしてカーレルはミリナには見向きもせずに、そのまま村の方へ歩きだした。
「カーレル殿下、あの、ミリナ様となにかあったのですか?」
「べつに」
そう答えたが、明らかに不機嫌そうだったのでミリナと喧嘩をしたのだと確信した。
きっと明日には仲直りしているだろう。そう思った翡翠は、それ以上カーレルになにか言うことはしなかった。
だが、翌朝になっても二人は仲直りをしていないのか、ミリナはラファエロと馬車に同乗し、翡翠はカーレルと同乗することになった。
さすがに心配になった翡翠は馬車の中でカーレルに尋ねる。
「ミリナ様と同乗しなくてよろしかったのですか?」
「昨日、私とミリナだった。だから今日はラファエロの番で問題ない。それに、これ以上は無理だ」
それを聞いて、二人のケンカは少し深刻なものなのかもしれないと思った。
その日の夕刻、やっとミデノフィールドに到着した。
ミデノフィールドにはしっかりした宿泊施設もあり、少しゆっくりできるとのことでほっとした。
カーレルが先に馬車を降りると、そこへミリナが笑顔で駆け寄りカーレルを出迎えた。その後ろから呆れ顔のラファエロが歩いて来るのが見える。
「少し離れていたから寂しかったです!」
そう言って微笑むミリナは誰が見ても可愛らしく、男性なら誰でも魅了されてしまうだろう。
翡翠は後ろからそっと馬車を降りると、ラファエロの方へ歩きだした。それを見たラファエロは翡翠に微笑むと手を差し述べた。
すると、後ろからカーレルに腕をつかまれる。
「どこへ行く!」
「カーレル殿下はミリナ様をエスコートされるので、私はラファエロ様と……」
「勝手に決めるな」
その一言で、翡翠は自分がカーレルたちから監視されているという立場であることを思い出した。
「すみません」
すると、カーレルはしまったという顔をした。
「違う、すまない。今のは私が悪かった」
「いえ、あの、私が勝手に行動したのがいけませんでした。この前休憩した村でも注意されていたのに、それを失念していました」
翡翠が頭を下げると、カーレルはそれを制し申し訳なさそうに言った。
「いや、君が謝ることはなにもない。私は……」
そこまで言うとカーレルは言葉を選びながら続ける。
「君にずっとそばにいてほしい」
すると後ろに居たミリナが突然笑いだした。
「カーレル殿下、それじゃあまるでプロボーズみたいじゃない! 翡翠、カーレル殿下が誤解させるようなこと言ってごめんね、カーレル殿下はとっても口下手なの」
するとあからさまにカーレルは不機嫌そうな顔でミリナを睨みつける。
「今のは私の本心だが?」
ミリナは苦笑すると翡翠に向き直った。
「はいはい、要するにあんまりそばから離れないようにしろってことみたいよ?」
そう言うとクスクスと笑った。
「はい、大丈夫です。わかりました」
そう答えるとカーレルに微笑んだ。
王太子殿下であるカーレルにあんな口の聞き方をできるのは、恋人だからということもあるがミリナが聖女だからなのだろう。
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※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
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