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文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
教会を出ると、カーレルが翡翠の様子を気にしてか明るく言った。
「外の空気を吸いに少し散歩でもしよう」
「そうですね、気分転換になりそうですしね」
嬉しそうにそう答えると、カーレルは少しほっとしたような表情を見せた。
やはり、翡翠のことを心配してくれていたのだろう。そう思っていると、ラファエロが翡翠を見つめて言った。
「本当にお前、健気すぎ。まぁ、前からそうだったけどな」
そう言うと、カーレルに向き直る。
「誰かさんはそれに気づいてなかったみたいだが」
それに対し、カーレルは不満げに答える。
「お前の知らないところで色々動いていたが、それをお前に理解して欲しいとは思っていない」
「そうかよ。だけどそうだとしても相手も気づいてないんじゃな、意味がない」
翡翠は二人の会話を聞いて何のことだかわからず尋ねる。
「あの、なんの話でしょうか?」
するとカーレルはバツが悪そうに言った。
「なんでもない」
答えてくれないということは、翡翠には話せない内容なのだろう。これ以上訊くことをあきらめ、特に気にしていないふうを装うと言った。
「そうなんですか? ならいいんですけど。それより、もうお昼なんですね」
それに素早くラファエロが反応した。
「そうだな、昼飯にしよう」
ラファエロのその提案を受けて翡翠たちは街中でお店を探して歩き、適当な食堂を見つけそこで昼食を取った。
そのあとは、ゆっくり散歩してから宿泊先へもどった。
こんなにゆっくりしていてもよいものなのか不思議に思ったが、考えてみるとこの先行く街はジェイドと強く敵対していることが考えられる街や、ここまでゆっくりできる施設のない町ばかりである。
だからこそここで休養を取るのだろう。
そうして翌日は午後から街中を歩いて回った。ジェイドはこの街をただ通り過ぎただけだったので、観光のようでとても楽しかった。
ホークドライ区域はガラス産業が盛んで、職人が多く住んでおり工房が並んでいる。
そのせいか建物のほとんどにステンドグラスが使われており、ランプなども細工の凝ったものが多く飾られていて、全体的にとても幻想的な街並みを呈していた。
「本当に素敵ですね、とても感動します」
「あとで土産にランプを買うといい」
そうしてランプやガラス細工などが並べられている軒先を覗きながら歩いていると、吹きガラスの工房に行きついた。
その工房では青年が額に汗を浮かべて頬を膨らませ、ガラスに空気を送り込んでいる。
その横で中年の男性がなにやら指導していた。あの青年は見習いなのだろう。
「ちゃんとタイミングをみろ! もう炉から出してすぐに形を整えるんだ」
そう言われた青年は、真剣な眼差しで炉から出したガラスをクルクルと回転させながら形を整えている。
「大変な仕事なのですね」
そうつぶやく翡翠に、カーレルが尋ねる。
「そうだな。ところであの青年の顔に見覚えはないか?」
そう言われて翡翠はその青年を見つめ、どこで会ったか考えたが記憶になかった。
「すみません。思い出せそうになくて」
「そうか。彼はね、昔工房を継ぐのが嫌で親と喧嘩して家を飛び出したことがあったそうだ」
それがジェイドとなんの関係があるのかわからず、翡翠はカーレルの顔を見つめた。カーレルは翡翠を見つめ返し微笑むと話を続ける。
「そうして彼はホークドライ区域の壁を抜けて森へ出た。親から絶対に壁の外に行くなと言われていたこともあって、反抗心からそんなことをしたらしい。そしてモンスターに囲まれた」
そこまで聞いて翡翠はあることを思い出し、視線を青年に戻す。
ジェイドはホークドライ区域の『スタビライズ』を停止した後、ミデノフィールド区域に向かう途中でモンスターに囲まれている青年を見つけた。
慌てて駆け寄ると、彼を助け出しホークドライ区域の町まで送り届けたのだ。
だが、ホークドライ区域に戻ると指名手配されていたジェイドは騎士団に見つかり、罵声を浴びせられ追われるようにここを後にしたのだった。
カーレルは驚いている翡翠の様子を見て言った。
「思い出したか? 彼が君に助けられた青年だ」
翡翠はあらためてその青年を見つめる。ジェイドが助けてから数ヶ月しかたっていないが、雰囲気がだいぶ違っていて大人びた印象を受ける。
助けてよかったと思いながら、カーレルがこんなことまで調べていたことに驚いた。
「どうやってそのことを調べたのですか?」
そう尋ねたとき、青年が父親からの指導を終えて翡翠たちの方へ駆け寄った。
「あの、すみません」
突然声をかけられ翡翠は驚いてフードの縁をつかんだ。そんな翡翠に青年は微笑みかけ、手を取るとその手のひらにグラスを乗せた。
「これ、俺が初めて作ったグラスなんですけど、賢人様に受け取って欲しくて」
そのグラスは少しだけ歪だが、細かい気泡が入ったとても美しいブルーのグラスだった。
「そんな大切なもの、いただけません」
そう言って返そうとするが、横からラファエロが言った。
「こういうときは、受け取ってやるのがマナーってもんだろ?」
確かにそれは一理ある。そう思った翡翠は、少し悩んだがそのグラスを受け取ることにした。
「こんな素敵なものを、ありがとうございます」
ぺこりと頭をさげると、青年はそれを制した。
「とんでもない、渡せてよかったです。こちらこそ、受け取ってくださってありがとうございます」
青年はそう言って嬉しそうに微笑むと白い歯を見せ工房へ戻っていった。翡翠は手の中にある、その美しいグラスをまじまじと見つめた。
「よかったな」
ラファエロにそう言われ、翡翠は少し照れながらうなずいた。
ホークドライ区域にあまりよい思い出がなかった翡翠も、あの青年が無事に工房を継いでいることを嬉しく思った。
こうしてゆっくりホークドライ区域で数日過ごした翡翠は、十分体を休めることができた。
そうして、しっかり準備を整えるとミデノフィールド区域に向け出発した。
だが、ホークドライ区域に来た時とは違っていたことが一つあった、それは馬車にラファエロが同乗していることだった。
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