14
文章が稚拙なのでちょいちょい改稿します。
そのせいか、翡翠として生まれ変わってからは本を読みふけり、さらには趣味で少し小説を書くこともあった。
サイデュームに戻ってからは、使命を果たすという目的があるためそんなことも忘れていた。
「そうですね、本に興味を持ったのは翡翠になってからなのかもしれません」
「そうか、ならば王宮の図書室を拡充しよう」
なぜ王宮の図書室の拡充を?
そう思ったが、王立図書館が大きくなればその国の知見を広げることにもつながる。それは決して悪いことではない。
「素晴らしいことだと思います」
そう言って微笑んで返した。
カーレルもラファエロも、根本的にジェイドと翡翠は別人格だと理解してくれているようで、監視下に置いているにも関わらず翡翠に気を使ってくれているのがわかった。
そのお陰で、とても心地よい一日を過ごすことができた。
翌日はホークドライの『スタビライズ』を見に行くことになった。
「はぐれないように」
それだけ言うと、カーレルは翡翠の手を引いて街の中心部へ向かっていく。ラファエロは眉根にしわを寄せ周囲を警戒しながら翡翠の後ろに続いた。
そうして『スタビライズ』を管理しているスペランツァ教の教会へ入った。
ジェイドがスペランツァ教と敵対関係にあったので、教会に入ることには抵抗がありフードを深くかぶり直した。
だが、司祭たちは翡翠たちの姿を見つけても静かに頭を下げるのみで干渉してくることはなく、彼らを気にせず教会内を歩くことができた。
もしかしたら、先に話がとおっているのかもしれない。そう思いながら、それでも翡翠は外套のフードの縁をつかんでめくれないように注意した。
教会内部を見ながら、以前と変わりないことに驚きつつ翡翠にとっては十六年ぶりでも、この世界ではジェイドが亡くなってから数ヶ月しかたっていないのだとあらためて実感する。
「この先の渡り廊下をまっすぐ進めば『スタビライズ』がある」
カーレルはそう言って迷いなくまっすぐ進んでいき、翡翠もそれに続いた。
ここにある『スタビライズ』は稼働を停止しているものの、現在も厳重に管理されているようで、渡り廊下の先には門番のような司祭が二人立っており、入ってくるものを検閲していた。
翡翠たちはなんのチェックもなく通され『スタビライズ』の目の前まで来た。
「これが『スタビライズ』なのですね」
翡翠はそう言いながら『スタビライズ』に触れる。そして当時のことを思い出していた。
ここはジェイドが『スタビライズ』を停止しているということをカーレルたちに知られてしまった場所で、翡翠はそのときのことをいまだに鮮明に覚えていた。
ホークドライ区域への侵入は力が覚醒したジェイドにとって、とてもたやすいことだった。
警戒も緩く、教会に入ると管理区域までは誰にも気づかれずに侵入することができた。
そうして、『スタビライズ』を停止した直後に聞きなれた声を聞くことになる。
「ジェイド、まさか『スタビライズ』を停止したわけじゃないだろうな?」
声のする方へ向き直ると、そこにはカーレルが立っていた。
なんてタイミングが悪いんだろう。
そう思いながら、どう言い訳をしたところで信じてもらえず、きっと罵声を浴びるに違いないと思ったジェイドは、諦めて開き直ることにした。
「止めたからってどうなの? なにか問題が? なんにせよ、あなたたちに許可をもらって行動をとる必要はない」
そう吐き捨てるように言った。
カーレルは驚き幻滅したような顔をし、翡翠はそれに少なからずショックを受けたが、それを顔に表さないよう笑うとその場をあとにした。
あのときから、カーレルはジェイドを憎んでいるに違いない。
そんなことを思い出し、そっとフードの下から見上げるとカーレルの優しい眼差しとぶつかり、慌てて視線を逸らした。
あんな裏切りをしたジェイドにどうしてそんなに優しく微笑みかけられるのか?
それは翡翠という人格に対して同情しているとしか考えられなかった。そう考えると、翡翠に対して気を使わせてしまっていることもつらかった。
「ジェイドがこの『スタビライズ』を停止したんですね」
翡翠がそう呟くと、ラファエロがそれに答える。
「そうだな」
「では、みなさんに迷惑をかけたのでは?」
恐る恐るそう尋ねると、カーレルが悲しそうに答えた。
「それがどうだったのか、旅していけばわかるだろう」
この返答を不思議に思いカーレルを見つめていると、ラファエロが翡翠の肩に手を置いて言った。
「俺はお前のことを信頼してた。だから、お前がなにをしていてもそんなことはどうでもいいことだったけどな」
フードで顔を隠し感情を読み取られないようにしながら、明るい声で答える。
「そうなのですね、ありがとうございます」
するとカーレルがなにごとか呟く。
「生きてくれてさえいれば……」
その先はなんと言ったのか聞き取れなかった。翡翠は慌ててカーレルの方を向いて聞き返した。
「殿下? すみません、聞こえませんでした。なんでしょうか?」
「いや、なんでもない」
そうは言ったが、とんでもないことをやらかしたうえに黙って消えてしまったジェイドに思うところがあるのだろう。
だが、今ジェイドに対する気持ちを自分にぶつけられたらそれに耐えられそうになかった。なのでこうして我慢してくれているカーレルには感謝しかなかった。
「じゃあ、次に行きましょうか」
翡翠が明るくそう言うと、カーレルは翡翠を見つめ繋いでいた手をさらに力強く握りしめた。
誤字脱字報告ありがとうございます。
書籍化希望される方は、高評価・ブックマークをよろしくお願いいたします。
※この作品フィクションであり、架空の世界のお話です。実在の人物や団体などとは関係ありません。また、階級などの詳細な点について、実際の歴史とは異なることがありますのでご了承下さい。
私の作品を読んでいただいて、本当にありがとうございます。




