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SS:結衣と祭りの後の夜

 ゆいが眠った後、戸崎結衣はいくつかの書類を取り出して机の上に置いた。


 今年もゆいと一緒に夏祭りを楽しめたことを喜ぶ半面、その余韻が消えないうちから仕事を再開する自分に苦笑する。


 だけど仕方ない。これはゆいの為なのだから。


「……ゆいの、ため」


 呟いて、結衣はパンと自分の頬を叩いた。

 今日はいろいろあって疲れているだけだ。


 相変わらずミスをする後輩をフォローして、なんとか祭りが終わる前に帰宅して、やっとの思いで祭りに行ったら、そこでみさきちゃんの父親と出会って、それがまさかのあの人で……。


 結衣は感情を表に出すことはほとんど無い。それどころか、ゆいと一緒に居るとき以外は、仕事の事しか考えていない。言葉は道具でしかないし、浮かべる笑顔は精巧な仮面でしかない。まるで作り物のように合理的な存在、それが戸崎結衣だ。


 だけど、どうしてかあの男性の前では心が動く。


 これは決して恋とかそういう類のものでは無い。それは断言できる。結衣には心に決めた人が居る。それなのに彼に何かを感じてしまうのは、きっとあの人と似たような色をしているからだ。


「……雑念が多い」


 結衣はもう一度頬を叩いて、目の前の書類に集中した。

 だけど、集中力は一向に上がらない。


 あの男性だけではない、みさきちゃんもまた、あの人と似たような色をしていた。結衣の目には、あの二人は酷く歪な関係に見えた。だけどそれは、どうしてか理想的な関係にも思えた。


 親子なのに、お互い何処か遠慮している。でもそれは、決して悪いものではない。


 自分達はどうか。

 ゆいも自分も、決して遠慮はしていない。そう思っている。

 だけどそれが自分の勘違いだったら?


 ゆいの運動会やイベント事、それに参加出来ない事でゆいに悲しい思いをさせていることなんて、自分が一番良く分かっている。だけど、それは仕方の無いことだ。


 ゆいの将来の為に、少しでも多くのお金を残したい。

 ゆいが何かをしたいと思った時、その全てを叶えてあげたい。


 お金が無いことは残酷だ。

 それは何もかもを奪っていく。


 だから私は、ゆいの為に働く。

 たとえ寂しい思いをさせようと、今よりずっと楽しい未来の為に、働き続ける――


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