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SS:みさきの夏祭り!

 みさきが夏祭り会場に来て最初に思った事は、ひといっぱい。

 そして足を止めたりょーくんの隣で、おまつりってなんだろうと思っていると、突然体が宙に浮いたから驚いた。


 おちる! こわい!


 手足をバタバタさせて、なんとか何かにしがみついた後、りょーくんの姿を探した。


「……どこ?」


 心細くなって呟くと、下からりょーくんの声がした。

 ふと冷静に自分がつかまっている物を見て、みさきはある可能性に思い至る。

 肩車である。とすると、自分が掴んでいるチクチクしたものはりょーくんの髪で、脚でギュッと締め付けている物はりょーくんの首だ。


 くんくん……やっぱり、りょーくんの匂いがする。


 安心したみさきは暴れるのを止めて、代わりにさっきよりも強く脚でギュッとした。


「よし、行くか」

「……ん」


 やっぱり肩車だ。そう確信したみさきは、嬉しくなって頬が緩んだ。あまりにも緩んでしまっているから、ちょっと恥ずかしくて見せられない。


「どうだみさき、面白そうな屋台あるか?」


 肩車、肩車。みさきの頭の中で魅惑のフレーズが反響する。

 どうしようかな、もっとくっついてみようかな。でもりょーくんが嫌がったらどうしよう。


 みさきはくねくねと体を揺らした。

 それが龍誠には、みさきが周りの屋台をきょろきょろ見ているように感じられたようだ。


「……ひひ」

「わりぃ、なんか言ったか?」


 みさきは、いつか読んだ漫画について思い出す。

 父親に肩車してもらった子が「お父さん号、発進!」と何処かを指さして、その方向に向かって父親が進むという内容。


「……ん」


 ピッと適当な所を指差すみさき。


「……」


 あれ、りょーくん動かない。

 もしかして見えてないのかな?


 トントンと龍誠の頭を叩いて、存在をアピールしてみた。

 すると動き出すりょーくん。


 もうみさきのテンションはマックスである。

 おまつり、たのしい!


「みさき、降ろすぞ」


 ご機嫌だったみさき、突然りょーくんが脇に手を入れるから驚いた。

 なんで驚いたって、くすぐったかったからだ。


 ギュッと口を一の字にして笑いを堪えていると、目の高さが低くなった。りょーくんが屈んだのだ。みさきは降りて欲しいのかなと思い、断腸の思いで肩から降りる。


「みさき、これは金魚すくいだ」

「きんぎょ?」

「ああ。このポイを使って、金魚をすくう遊びだ。見てみろ」

「……ん」


 みさきが頷くよりも早く、龍誠は真剣な目で金魚を見た。

 何が始まるんだろうとワクワクするみさき。


 果たして金魚の下にポイを忍ばせた龍誠は、さっと金魚をすくってみせた。


「ま、ざっとこんなもんだ」

「……ん」


 りょーくんのマネをして、みさきはポイを構えてみる。その時、りょーくんが持っているポイが破れて金魚が水に落ちた。なるほど、金魚さんを水に戻すまでが金魚すくいなのか。


 りょーくんがやったのと同じように、金魚をすくって、水の下に落とすみさき。

 

「……」


 これでいいの? と龍誠の方を見るみさき。

 そんなみさきを見て、ちょっと困ったように笑う龍誠。


 りょーくんが笑った!


 みさきは嬉しくなって、破れたポイで金魚すくいに再チャレンジする。

 金魚の下にポイを忍ばせて……えい! 金魚は見事に穴を通り抜けた!


「……」


 しょんぼりして龍誠の方を見るみさき。

 龍誠は笑って、屋台の人から新たなポイを受け取った。




「お、今度はあっちか?」

「……ん」


 大満足。りょーくんとたっぷり遊んだみさきは、目を輝かせていた。でもでも未だ行ってない屋台が沢山ある。こうなったら全部回ってしまおう。りょーくん、はっしん!


 トントンと存在をアピールしてから、適当な方向を指差す。すると龍誠はその方向へ進んで、辿り着いた屋台で食べ物を買ってみさきに渡す。


 みさきが最初に受け取ったのは、たこ焼きだった。

 初めて見るたこ焼きに、みさきは興味しんしん。


 指で突いたり、においを嗅いでみたり……それが食べ物だと分かるまでに、みさきは一分くらいかかった。


 どうやって食べるんだろう?

 観察すると、右端のたこ焼きにつまようじが刺さっている。

 みさきはそれを持ち上げて、わくわくしながら口に運ぶ。


 あつい!

 

 口からはなして、ふーと息を吹きかける。

 そろそろ大丈夫かな? ぱくり。


 あつい!


 でも、美味しいような気がする。

 みさきはめげずにたこ焼きを冷まして、やっとの思いで口に入れた。


 おいしい!


 みさきの小さな口ではたこ焼きを一度に食べる事は出来ない。

 ひとつのたこ焼きを四口くらいで食べるみさき。


 本当に美味しい。りょーくんにも食べさせてあげよう。


 トントンと存在をアピールして、たこ焼きを差し出す。


「もういいのか?」

「……たべて」


 声が届いたのか否か、龍誠はたこ焼きを受け取って、ぱくりと口に入れる。前のめりになって龍誠の口元を見ていたみさきは、たこ焼きを一口で飲み込む龍誠を見て驚いた。


 あつくないのかな?


 そういえば、牛丼を食べる時もりょーくんは熱いのなんてヘッチャラだ。

 みさきもいつか熱い物をパクッと食べられるようになりたいと思った。


「みさき、花火見に行くか?」


 はなび? きょとんとするみさき。

 見るという言葉から察するに、お花の仲間なのかな?


 良く分からないまま、みさきはトンと龍誠の頭を叩いた。見てみるという意思表示である。

 それはバッチリ龍誠に伝わって、龍誠はどこかに向かって歩き始めた。


 りょーくんは、速かった。

 いつもはみさきに合わせてゆっくり歩いてくれているけど、みさきが肩の上に乗っている今は、普段の四倍くらいの速さだった。


 風を感じながら、次々と後ろに流れていく風景に、みさきはおーと口を開く。


 やがて森の中に入った。

 暗くて、少し怖い。

 みさきはギュッと足でりょーくんにくっついて、それだけで安心してしまう。


 りょーくんは大きくて、優しい。

 いつもみさきのことを見ていてくれる。


 もっと甘えたい。

 今日みたいに、ベッタリくっつきたい。


 でもそれは少し恥ずかしいし……少し怖い。


 みさきは、誰かに甘えるのが怖い――




「みさき、着いたぞ」

「はなび?」

「まだ始まってないみたいだな」

「はじまる?」

「ああ、いつ始まるか分かんねぇけど」

「……ん?」


 始まるってなんだろう。お花じゃないのかな?


「花火ってのは……こう、バーンって感じなんだよ」

「ばーん?」

「ああ、デカくて、キラキラしてる」


 バーンで、キラキラ?

 ちょっと想像していたものと違うぞ、とみさきは思う。


 どんなものだろうと思っていたら、目線の高さが低くなった。りょーくんが地面に座ったらしい。ちょっと疲れたのかな?


「みさき、そろそろ降りるか?」

「……」


 肩車の事かな?

 やだ。


「みさき?」

「……ん」


 遺憾の意を示すみさき。

 それが龍誠に伝わったのか否か、みさきはポジションの死守に成功した。


「みさき、祭り、どうだった?」

「おいしい」

「ははは、そうか」


 あと、りょーくんが楽しそうで嬉しい。


「満腹か?」

「……ん」


 満腹も満腹。ちょっとお腹が重たいくらいである。


「……きれい」


 りょーくんが上を向いているような気がして、みさきも一緒に空を見上げた。

 満天の星空に、思わず声が出る。


 キラキラしてるから、これが花火なのだろうか?


「いや、あれはただの星空だ」

「……ん?」


 違ったみたいだ。

 でもやっぱり綺麗で、みさきは星空に見惚れていた。

 すると、ふいにキラーンと何かが光る。


「流星じゃねぇか。運がいいな、みさき」

「ながれぼし?」

「おう、あれが落ちるまでに願い事を三回言うと、その願いが叶うらしいぞ」


 ねがいごと?

 それはすごい、そう思ってみさきは流れ星を探す。

 でも、流れ星はとっくに姿を消してしまっていた。


「……ない」

「ははは、もっかい流れるといいな」

「……ん」


 もう一回流れたら、絶対にお願いごとを言おう。

 みさきはそう思って、真剣な目で星空を見る。


 みさきの願いは、とってもシンプルなことだ。


 この場所には、自分達以外にも人が居て、大人に思い切り甘える子供の姿がある。

 みさきも、あんな風になりたい。


 その為の、ほんのちょっとの勇気が欲しい――




「みさきちゃん、いつもゆいと遊んでくれてありがとね」


 突然声をかけられて、きょとんとするみさき。

 いつのまにかりょーくんの肩からも降ろされている。


「……だれ?」

「ゆいのママです」

「……だれ?」


 ちょっと警戒するみさき。

 と、そこへ。


「みさき! みさきもおまつりきてたんだね!」


 ゆいちゃんだ。

 ゆいのママ……。


「……ママ?」

「うん! あたしのママだよ!」


 ゆいちゃんがいつも話しているママ。

 一流のレディで、とっても優しくて、とってもかっこいい。


「みさき、よろしくします」


 とりあえず挨拶。


「はい、よろしくおねがいします。みさきちゃんは、とてもしっかりしていますね」


 と言って、ゆいちゃんのママはりょーくんの方を見た。

 どうしてだろうと思うみさき。


「ママみて! シャワーはなび!」

「はい、綺麗です。ゆいは本当にシャワー花火が好きですね」


 きょとんとしていたら、ゆいちゃんの元気な声。

 ゆいちゃんはママの手を引いて、見て見てと空を指差す。


 シャワーはなび……はなび?


 そこで、みさきはようやく空に星とは違うものがキラキラしていることに気が付いた。

 確かに、バーンで、キラキラしている。


 しばらく、みさきは花火に見惚れていた。


「ねぇみさき! ママたちいいかんじだよ!」


 みさきの腕をくいくいと引っ張って、後ろを見るゆいちゃん。みさきは何の事だろうと思って振り向いた。そこで、りょーくんとゆいちゃんのママが話をしていた。


「みさき! しまいになったら、ゆいがおねえちゃんだからね!」


 しまい……姉妹。

 ゆいちゃんは何を言っているのだろうと、みさきは思う。

 結婚という概念は、まだみさきには無かった。


 さておき、みさきは思う。


「ゆいちゃん、たのしい?」


 お楽しみ会や運動会。ゆいちゃんが寂しそうな表情を浮かべていたことに気が付いたのは、もちろん龍誠だけではなかった。


「うん! たのしい!」


 きっと質問の意図は伝わっていない。だけどゆいは、元気いっぱいに返事をした。それだけで、みさきは大満足だった。


「どうだみさき、花火、綺麗だろ?」


 りょーくんが戻って来た。


「……ん」

「そうだろそうだろ。でも、みさきの方が綺麗だぜ」


 ……。


「……ん?」


 良く分からなくて首を傾けると、りょーくんはガックリ肩を落とした。

 それを見てくすくす笑うゆいちゃん達。


「みさきちゃん、これからもゆいと仲良くしてあげてくださいね」

「だいじょうぶだよ!」


 ゆいはみさきと腕を組んで、大声で言う。


「ゆいとみさきはおともだち!」


 突然の事に、みさきはきょとんと首を傾けた。


「……ん?」

「えー!? ちがうのー!?」


 ガビーンと涙目になるゆいちゃん。

 それを見てクスクス笑うゆいちゃんのママ。

 しょんぼりしているりょーくん。


 みさきは何だか楽しくなって、小さな声で笑った。

 それから空を見上げる。


 ドーン。

 キラキラ。

 きらーん。


 流れ星、ひとつ。

 星と花火の間を走り抜けたそれを、みさきはただ見送った。

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