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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第9章 対決
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9-10.死線

〈“ハンマ・ヘッド”へ、こちら“エコー1”!〉

 作戦司令室で管制卓に就くギャラガー軍曹の聴覚へ、旅客ターミナル・ビルからの声が届いた。

〈旅客到着ロビィへ進出! 指示を請う!〉


〈こちら“ハンマ・タップ”!〉

 ギャラガー軍曹が応じる。

〈“ハンマ・ヘッド”より応答なし! 司令室近傍で戦闘中! 状況不明!! 繰り返す、状況不明!!〉


〈了解した、“ハンマ・タップ”! 掩護に向かう!!〉


 ◇


 組み付いた“アルファ4”の後頭部へ、ジャックは転がりざま右肘を打ち込んだ。続けて肘。さらに肘。そして体重を乗せて、顎へ膝。動きが鈍ったところで、ヘルメットを抱える。頸骨をねじ切るように力を加え――、

 そこへ、左から突進。ハドソン少佐――ジャックは手を離した。頭部めがけて爪先が飛んでくる。紙一重でかわし、脚を振り上げる。これは少佐の胴をかすめた。勢いを利して、ジャックは“アルファ4”の隣へ跳ね起きる。

 返す動作で、ハドソン少佐が銃口を振り向ける。その下をくぐって、ジャックは頭から突っ込んだ。

 フェイントだった。下からハドソン少佐が蹴りを放つ。


 ◇


 壁に跳弾の火花が散る。

 ロジャーはその向こう、突撃銃を撃ち散らしながら迫る“アルファ1”の足元に牽制の弾幕を張った。もうおいそれとは引き鉄が絞れない――その向こう、乱闘に入ったジャック達へ弾が流れてしまう。

 それを察してか、“アルファ1”の足取りには迷いがない。互いに狙点を定める隙を掴めないまま間が詰まる。

 ロジャーは腰のベルトから手榴弾を抜いた。安全ピンを抜き放ち、軽く放り出すなり床へ伏せる。“アルファ1”がたたらを踏んだ。一拍遅れて身を投げ出す。


 手榴弾が炸裂した。


 ◇


 衝撃波と、破片の嵐。それが壁へ、床へ、軽装甲スーツへと押し寄せた。

 スカーフェイスの眼前にコマンドー、その銃身がわずかにぶれた。すかさず頭を打ち付ける。

 コマンドーが吠えた。衝撃――軽装甲ヘルメットを銃弾が抉る。ただし右耳、センサ部分。ヴァイザが割れた。視界が塞がれる。

 スカーフェイスは構わず頭を突き上げた。ジダーノフ少尉の顎を捉える。よろめいた隙を衝いて肩を捉えるや、ライフルを手放して、右の掌底を額へ衝き込む。ジダーノフ少尉の頸骨が折れた、その感触。


 そこへ右から“アルファ3”。ライフルを捨て、腋を狙ってコンバット・ナイフを突き込む――その姿がスカーフェイスの眼に映った。間に合わない――。


 ◇


 ハドソン少佐の蹴りがぶれた。

 肩口に衝撃――だが弱い。ジャックは足首を掴み、渾身の力でひねり上げる。ハドソン少佐の身体が浮いた。

 左手からボルゾフ曹長、銃床の突き。のけぞってジャックがかわす。と、右の足元に違和感。叩き伏せた“アルファ4”が、ジャックの右足首を掴んでいた。上へと加わって力。ジャックの体勢が崩れた。

 ボルゾフ曹長が、突き出した銃床を横へ薙ぐ。逃げられない――自ら横へ倒れ込み、ジャックは衝撃を逃がした。左足で“アルファ4”の手を蹴り剥がし、床を蹴り上げる。

 ボルゾフ曹長の顎へ突き上げて左踵――避けられたと見るや、その胴を蹴って後ろへ転がり、身を起こす。


 その眼前、追いすがる“アルファ4”がいた。繰り出される掌底が正面に迫る。


 ◇


 破片の嵐が吹き荒れたのも一瞬、ロジャーは伏せていた頭を起こした。至近に伏せて“アルファ1”――眼が合った。伏せた拍子に銃口は横を向いている。

 同時に動いた。ロジャーは左へ転がり、銃口を斜め上へ。“アルファ1”は突撃銃を捨て、身を起こしざま飛びかかる。

 狙う間さえ惜しんで、引き鉄を絞る。AR113が吠える――“アルファ1”の右腕が、しかし銃身を逸らしていた。


 “アルファ1”がライフルを絡め取る。


 ◇


 再び頭上を衝撃波が駆け抜けた。

 耳をふさいだマリィが、シンシアの下から顔を上げる。会議室入り口、その向こうに次々と銃声が弾けた。


「頭上げるな!」

 シンシアがマリィの頭を押さえ付けた。

「下手に手榴弾とか飛んできてみろ、首から上がなくなるぞ!」


 脅すだけ脅して、シンシアはマリィの上から這い進む。


「どこへ行くの!?」

「どこへも行かねェよ、心配すんな!」


 言いつつ腰のホルスタから拳銃を抜いた。バッカスP108センティ・ハンマ。


 ◇


 左腋、装甲の隙間を目がけてコンバット・ナイフが突き込まれる。スカーフェイスは左手を突き出した。耐弾繊維のグローヴを貫き、掌を刃が突き通す。

 文字通り身を切って受け止め、切っ先を逸らす。スカーフェイスは“アルファ3”の腕を絡め取った。膝に打ち付け、コンバット・ナイフをもぎ取り、掌からナイフを抜きざま斬りつける。痛覚が熱となって左手を灼いた。

 “アルファ2”が視界を外れた。スカーフェイスはすかさず横跳び、右へ。“アルファ2”のコンバット・ナイフが空を斬り――なおも追いすがる。左前腕、スカーフェイスはスーツの軽装甲でナイフを受け流す――掌に熱く痛覚、反応が遅れた。

 隙と見て右手、“アルファ3”から飛んで掌底。よけ切れない――。


 ◇


 ジャックは眼前、迫った掌底を右手で弾き上げた。

 ヘルメットをかすめて“アルファ4”の腕が伸びる。カウンタを取って右肘。怯んだ“アルファ4”の腕を取る。ねじり上げ、相手の勢いを利して投げ飛ばす。


 追い討ちをかける間もなく右前、ボルゾフ曹長の振り下ろす銃床が迫る。踏み込んでかいくぐり、右前腕の装甲をかざしつつ左の貫き手を喉へ繰り出す。手応えを左手に受け止めて、右手をヘルメットの前へ滑らせる。左手を首沿い、ヘルメットの後ろへ。両の手に力を込めて、ねじり切る――直前に、ボルゾフ曹長の身体が突き倒された。

 不自然な、恐らくは背後からの力――ハドソン少佐。

 ボルゾフ曹長の身体がのしかかる。それを担ぎ上げ、盾に取ってジャックは突進した。ハドソン少佐へ。

 ――いなされる。見越したジャックは勢いそのまま少佐へボルゾフ曹長を投げ出した。

 左に避けた少佐の体勢に、わずかな乱れ。そこを衝いてジャックの一撃。左の掌底を衝き込み、少佐のライフルを叩き落とす。


 感触に違和感。軽すぎる――握力分の抵抗がない。罠と解った時には、ジャックの胸を衝撃が衝いていた。


 ◇


 ロジャーの手からAR113がもぎ取られた。

 してやられた、と見せて腰から拳銃。シュレイダーP200セイバーを相手の胴へ向けて、引き鉄に力を込める。レーザ・サイトが胴に描いて輝点。

 “アルファ1”が返す手でロジャーの腕を振り払いに来る。寸前に撃発。9ミリ拳銃弾が装甲にめり込む。ロジャーの手を振り払いつつ、敵の上体がのけぞった。

 振り払われた腕を戻して、また撃つ。さらに撃つ。“アルファ1”が仰向けに倒れた。ロジャーは転がりざま跳ね起きた。敵の手が腰のホルスタへ動いていた。すかさず撃つ。続けざまに弾丸を叩きこむ。5発、6発――まだ動く。

 レーザ・サイトの焦点を胴から胸へ、7発、8発。さらに頭へ、9発。ヴァイザが割れた。10発――。


 動きが止まった、それだけを確かめる。


 残弾6。眼を上げると、ジャック達は乱戦の最中にあった。セイバーをホルスタへ収め、転がったAR113を拾い上げると、構えてロジャーは前へ。敵味方入り乱れての乱戦が眼に入る。

 見れば格闘が2箇所で繰り広げられている。少数側が味方と見当はついた。


 1人が横ざまに弾かれた。追って2人が飛びかかる。ロジャーは咄嗟に照星を向けた。その先に“アルファ3”――引き鉄を絞る。

著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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