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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第9章 対決
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9-7.急行

 装甲兵員輸送車AT-12シャイアン、生き残った1輌の上部機関銃座から火線が伸びてくる。スカーフェイスはフロート・バイクFSX989を大きく回り込ませた。こうなれば、空港ターミナルへの接近を阻まれることもない。


 ターミナル・ビル2階、壁一面の可視光シールドを撃ち砕いて新たな火線。スカーフェイスは重心移動、FSX989の舵を切りつつ、左手一本で最後のロケット砲RL-29を構えた。狙いは正面、シャイアン最後の1輌。動き出した鼻先へ食らわせる。


 命中――。


 使い切りの砲を棄て、ターミナル・ビルへ向かって転進。弧を描いてビル壁面へ。


 ◇


〈“ブーツ6”、反応途絶!〉

 “ドロシィ”の声が車内スピーカ越しに届いた。これで、空港へ向かった“ブーツ”こと装甲兵員輸送車AT-12は全滅したことになる。ハドソン少佐は内心に舌打ち一つ、通信士へ眼を向ける。


〈“クロー・ハンマ”からの報告、ありません〉

 視線を受けて通信士が応じる。


 先刻オオシマ中尉が送ってきた報告によれば、“シーフ”はすでに空港ターミナル・ビルへ侵入している。“クロー・ハンマ”小隊も後を追ってビルへ突入、頃合いからすれば交戦があっても不思議ではない。


 が――ビル外へ仕掛けてきたところから察するに、予想外の闖入者があったことになる。


〈救援に向かいますか?〉

 傍ら、“ウォー・ハンマ”小隊長ジダーノフ少尉が問いを向ける。


〈構っている暇はない〉

 ハドソン少佐が腕を組む。

〈AT-12がやられただけのことだ〉


〈ですが、放置しておいても……?〉

 ジダーノフ少尉の隣、副小隊長のボルゾフ曹長が問いを重ねる。後背を衝いた、その勢力が不明とあっては、心配も無理からぬところではある。


〈“クロー・ハンマ”がどうにかなるような相手なら、今ごろ行ったところで遅い〉

 ハドソン少佐は一言の下に斬って捨てた。

〈むしろ恐れるべきは、肩透かしを食らう可能性だ〉


〈肩透かし、ですか?〉

 ジダーノフ少尉が眉をひそめる。


〈“シーフ”の居場所を忘れたか? 足はいくらでも転がっているぞ〉


 すなわち、空港の航空機。“クロー・ハンマ”小隊を壊滅させずとも、頭上を飛び越えるとしたら――ジダーノフ少尉とボルゾフ曹長、2人の眼に兆して理解。


〈では……!〉

〈それこそ軌道エレヴェータへ急がねばならん〉

〈は!〉


 ◇


 FSX989を植樹の隙間へ。

 スカーフェイスは植え込みを突き抜けて、さらに透明壁材を突き破る。可視光シールドを施した壁材が、煌きを残して砕け散った。

 フル・ブレーキ。旅客到着ロビィの標識の下、スペースを奥まで使い切って勢いを殺す。突撃銃AR113を左手に持ち替え、銃身下の擲弾銃GL11へ手を添える。


 再びスロットルを全開。通路を抜けて正面ロビィへ飛び出した。


 中央階段、踊り場に銃火の閃き。跳弾の火花がフロート・バイクの後を追う。

 広いロビィを一杯まで使ってカーヴ。火線の下をかいくぐり、奥の中央階段へ。擲弾銃の狙いを踊り場に定める。


 ◇


「音を立てるなよ」

 言い含めて、ロジャーが先に立った。


 爆風で煤け、いたる所がささくれ立った中央階段。

 踊り場まで下り、銃声の響く階下を伺いつつ、手招きをくれる。イリーナに軽く肩を押されて、アンナが後を追った。後ろに警戒の眼を配りつつ、イリーナが続く。追い付いたところで再びロジャーが下へ先行していく。

 6階から5階、さらに下へ。


 ◇


 擲弾銃を向けたその先――引き鉄を絞る、その前に爆発。

 弾幕が止んだ。訝しみつつスロットルそのまま、スカーフェイスはFSX989に中央階段を駆け上がらせた。ライフル弾を連射しつつ、爆煙の残る踊り場へ。

 そこへ発砲――上階から。踊り場に着弾の火花が散った。


〈生きてたか!〉


 聞き覚えた声が降ってきた――ジャック・マーフィ。


〈お前か!〉


 側面、伏せていた銃口が上がる。ジャックから銃弾、敵兵に当たった。


〈急げ!〉


 スカーフェイスはFSX989の鼻先を転じた。上階へ駆け上がる。


〈敵が来る、上からだ!〉

 タンデム・シートの後ろにジャックがまたがった。

〈ずらかれ!〉


 その場でアクセル・ターン。下階へ鼻先を向け直す。そこへ上階から火線が伸びた。

 背後でジャックが撃ち返す。階段を駆け下り、踊り場へ。立ち直りかけた敵兵を蹴散らし、地上へ向かってスロットルを開ける。


 スカーフェイスが訊いた。

〈どこ行く気だ!?〉


〈駐機場の方へ抜けろ〉

 ジャックから即答。

〈かっぱらう!〉


 階段を下り切るやさらにターン、旅客到着ロビィの奥へと向かう。


〈彼女は!?〉

 スカーフェイスが短く訊いた。


 ジャックも一言だけを答える。

〈軌道エレヴェータだ!〉


 火線が後を追ってきた。弾倉を入れ替えるや、ジャックが狙いもそこそこに応射する。

 カウンタの群れをすり抜けた。その傍ら、跳弾の火花が爆ぜた。FSX989が手荷物受取所へ侵入する。

 コンベアの伸びる横、観音開きのスタッフ用出入り口――打ち破るように中へ踊り込む。

 高度を上げて、仕分け用に分岐したコンベアの上へ。


〈頭下げてろ!〉

〈右だ!〉


 コンベアを辿って外、荷下ろし場。突き当りにあった輸送カートを右へ避けて、地面へ降りる。

 急減速、テイルを前方へ投げ出してターン。スカーフェイスはカート出入り口から飛び出した――外へ。


 ◇


 爆音と爆風に続いて、銃声が連なって届いた。アンナは息を詰めた――。耳を塞いだ掌越し、銃声が心なしか遠くなった。と思う間に、ロジャーが歩を進めている。手招きを待って、アンナは続いた。中央階段を下る。


 4階。展望台へ続くショッピング・フロア。開けた視界に、人の姿はない。


 足を転じる――空港ターミナルの奥へ。ロジャーは女2人をひとまず待たせて先を探る。

 シールド・グラスの出入口を抜けてターミナル沿い、展望台をさらに奥へ。銃声が、吹き抜ける風に乗って流れてきた。足を止めて耳を傾けてみれば、戦場が外へ移ったらしいことが窺える。


〈展望台で待て、か〉


 言伝てたジャックの意図を思いつつ、足を戻す。ここまで来れば、自分たちが敵の意識の外にあることはほぼ確認できる。

 ロジャーは壁越し、アンナとイリーナに手招きを送る。


 ◇


〈そこだ!〉


 スカーフェイスの背後、ジャックが声を上げた。


 右手、ターミナル・ビルの端に救急用VTOLの駐機ブース。マーズ・インダストリィ製UV-181Rスワロゥ――白い機体が横腹に赤十字を映えさせて、照明の中に佇んでいる。


 すかさずスカーフェイスがFSX989を右に傾けた。スピン・ターンで急減速、車体を機体横へと着ける。


 ジャックが機体へ取り付いた。プリ・フライト・チェックは最小限、吸気口カヴァーを外し、ロータの拘束具を解くと、操縦席のハッチを開いて乗り込む。シートに腰を落として“キャス”を接続。起動スイッチをオン。

 エンジンは即座に始動した。翼端、上方へ向いたエンジンがロータを回し始める。


〈さすが救急仕様!〉


 機内スピーカに“キャス”の声。聞き流しながら、計器に眼を走らせる。


〈自己診断プログラム、ラン――グリーン!〉

〈行ける!〉

 ジャックが機外へ声を投げた。


 応じて、スカーフェイスがフロート・バイクを後にする。機体右側、副操縦士席へ。その間にジャックが外部電源を切り離す。

 取って返して操縦席、ジャックはエンジンの推力を上げた――エンジン正常。


〈連中にも聞こえてるな〉

 スカーフェイスが確かめる。


〈狙いの内だ〉

 さらに推力を上げた――垂直離陸。空港ターミナル外壁沿いに高度を上げる。


 左手、眼下に銃火が閃く。追ってきた敵からの連射。機体に何発かが着弾、甲高い音が耳につく。

 ジャックは機体を後方へ滑らせた。ターミナル・ビル屋上に隠れつつ、左旋回――展望台へ。


 右方に強い光――機内へ影を落とし、ビル屋上を照らし出す。


〈照明弾だ〉

 光源を確かめたスカーフェイスが告げた。


〈味方を呼んだか〉

 ジャックは先刻潰したアルバトロスの戦術マップを頭に浮かべる。


 乗り逃げした機には“フック1”、追ってきた敵機には“フック3”のコードが振られていた。自然、“フック2”がいることになる。


〈急ぐぞ〉


 前方、展望台に手を振る人影がある――3人。


〈ロジャーだけじゃないのか?〉

 スカーフェイスがもっともな疑問を投げかけた。


〈客がいる〉

 それだけ答えて、ジャックはエンジンの出力を落とす。機体が降下、着陸脚が床を踏む――その感触が操縦席へ伝わった。


 ジャックはハッチを開けて声を上げた。

「急げ!」


 ロータが叩き付ける下降気流の中を、3人が駆けてくる。先頭のロジャーが機体側面、スライド・ハッチを開け放った。


「救急機!?」

 下降気流に負けじと、大声でアンナが訊いた。


 貨物室には救命士のシートが2つと、ストレッチャ用の架台が1つ、それに付き添い用の簡易シートが1つ。他は医療機器で埋められている。


「贅沢言ってる場合か! 行くぞ!」


 最後のイリーナが乗り込んだ、そのことだけを確かめる。

 ロジャーがスライド・ハッチを閉めるのも待たず、ジャックはエンジン出力を上げた――離陸。


 ◇


〈少佐、“シーフ”が救急機を奪って逃走しました!〉

 アルバトロス“フック2”が着陸するや、貨物室へ乗り込んだオオシマ中尉は通信機にかじりついた

 軌道エレヴェータを介したレーザ回線を通じて、軌道エレヴェータへ向かっているはずの“ウォー・ハンマ”小隊とハドソン少佐へ一報を飛ばす。


〈今“フック2”に“クロー・アルファ”と“ブラヴォ”を乗せて離陸するところです〉


〈こちらは軌道エレヴェータに到達するところだ〉

 機内スピーカにハドソン少佐の声が乗る。

〈損害は?〉


〈確認できただけでも死亡6、行動不能5〉

 苦い声でオオシマ中尉。

〈申し訳ありません。完全に出し抜かれました〉


〈解った〉

 言葉の合間に、ハドソン少佐が指示を飛ばしていた。

〈こちらで迎撃する。追撃して報告を上げろ〉


〈は〉





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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