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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第9章 対決
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9-4.捜索

 高架道路上空、“フック2”が機体を空中に静止させた。サーチライトで地上を照らす。下降気流にあおられる中、墜落したアルバトロスの機体が浮かび上がった。


〈“ハンマ・ヘッド”へ、こちら“フック2”!〉

 副操縦士が報告の声をレーザ通信越しにデータ・リンクへ。

〈墜落機を発見! “フック1”と“フック3”と思われます!〉


 無残の一語が、地上を観察する副操縦士の頭をよぎる。1機は高架道路上で腹を見せ、もう1機にいたっては機首を潰され、胴体を分断された姿を地上にさらしている。


〈機体番号は?〉

〈ちょっと待って下さい……〉


 機長の問いに、副操縦士が眼をすがめつつ応じた。高架道路上の機体――後部側面に、かろうじて読み取れる部分がある。


〈“フック1”です!〉


〈てことはあっちが“フック3”か〉

 機長が高架下の機体に眼を投げる。


〈“フック1”につけてくれ〉

 貨物室から“スレッジ・チャーリィ”分隊長が顔を覗かせた。


〈救助は?〉

 副操縦士が“フック3”へ顎を向けた。


〈敵を押さえるのが先だ〉


〈了解〉

 機長が機体を傾ける。わずかにスライド、高架道路直上へ。


〈降機用意! 敵を押さえるぞ!〉


 分隊長の号令を聞きながら、機長がロータのピッチを緩めた。機体が下降する、その感触を受け止めながら、背後に戦闘前の緊張を感じる。


 着地の直前に2人が先行して飛び出した。周囲を警戒、動くものがないのを確かめる。次いで“フック1”――その残骸――に銃口と注意を向けた。

 着地。残った3人が飛び出す。2手に分かれ、掩護と前進を交互に繰り返しながら、アルバトロスへ接近。先鋒がコクピットを覗き込む――。


〈いません!〉

 先鋒が声を上げた。


 分隊長が“フック2”へ取って返した。機長に伝える。

〈“ハンマ・ヘッド”へ報告! ““フック1”に敵影なし”、急げ!〉


 ◇


〈コミュータか何かないのかよ〉

 高架から降りたところで、ロジャーが視線を巡らせた。ターミナル・ビルまでは広大な駐車スペースが続く。

〈これじゃ丸見えだぜ――あれだ!〉


 ロジャーが思わず指差した。その先、駐車スペースの片隅に、パーク・アンド・ライド用コミュータ発着場の案内板。その下にはシャトル・バスが3台。


〈目立つな〉


〈これでも十分目立ってるだろ〉

 ロジャーが自らの軽装甲スーツを示してみせる。

〈早く!〉


 シャトル・バスへ乗り込み、ロジャーは“ネイ”を繋いだ。操縦系統を叩き起こし、見る間に乗っ取る。

 無灯火のまま、ロジャーはバスを走らせた。行き先はターミナル・ビルの一角、旅客ゲート。


 ◇


〈“フック2”から緊急!〉

 通信士から声が上がった。


〈回せ〉

 走行中の戦闘指揮車、作戦指揮モニタ横。シートに腰を据えたハドソン少佐は、車内スピーカから“フック2”の声を聞いた。


〈“フック2”、ベッカーです! イバルリ軍曹より報告! “フック1”コクピットに敵影なし! 繰り返す――〉


〈“ハンマ・ヘッド”、ハドソンだ〉

 ハドソン少佐が声を挟む。

〈“フック2”と“スレッジ・チャーリィ”、そのまま離陸! 空港ターミナル・ビルへ急行しろ。目標はまだ近くにいる。捕捉せよ!〉


〈“フック2”より“ハンマ・ヘッド”、了解! “スレッジ・チャーリィ”を回収して空港ターミナル・ビルへ向かう!〉


 ◇


 旅客ターミナル・ビルに乗り付けたバスを降りると、ロータ音が耳についた。


〈やな予感がするぜ〉

 取って返して、“ネイ”を再びコンソールに繋ぐ。自動走行の指示を流し込んで、再び外へ。

〈お待たせ〉


 先に降りたジャックに追い着いたところで、バスが発車した。二人はターミナルの中へ駆け入る。

 だだっ広い正面ロビーに、人影はもちろん一つとしてない。


〈ちょっと待て〉

 片隅の公共端末に寄って、ジャックが“キャス”を繋ぐ。


〈やっぱりね。ここもフリーズしてる〉

 満足げな声がジャックの聴覚に乗ってくる。

〈無差別でばら撒いたもんねェ〉


 応じず、ジャックはケーブルを引き抜いた。ロジャーが窺うように声をかける。


〈ご案内は……してもらえそうにねェな〉


〈確認しただけだ〉

 ジャックはロビーの隅、非常階段へ。

〈14階だ、1408号室。彼女のメッセージにあった〉


〈上へ下へと忙しい日だぜ、全く〉


 階段室のドアを開け、一段飛ばしで駆け上がる。7階にあるというフロントは無視、そのまま14階へ。


 廊下へのドア脇へ張り付く。息を整え、突撃銃をそれぞれ構えて、ドア・ノブに手をかける。


〈カウント3〉

 ジャックの声にロジャーが頷く。

〈3、2、1、ゴー!〉


 ドアを開け放ち、左右に散る。右手、廊下に人影、野戦服。ジャックが狙点を擬す。相手が身を投げた――そこへ発砲、命中。野戦服が弾かれて転がった。ジャックが駆け寄る。


〈クリア!〉


 背後からロジャーの声が飛んできた。他に敵の姿がないのを確かめて、ジャックも返す。


〈クリア!〉


 野戦服には息があった。立ち直る前に、後頭部へ銃床の一撃をくれる。


〈変だぜ〉

 ロジャーが疑問を口に乗せた。


〈ああ〉

 ジャックも頷く。


 野戦服の立ち位置は1410号室前。マリィの居室を護っていたにしては離れている。とはいえ、追求する暇はない。ジャックは親指を1408号室へ向けた。頷き、ロジャーが1408号室のドア横へ。

 ジャックが突撃銃をドア・ロックへ向ける。7ミリ口径のライフル弾でロックを丸ごと撃ち抜いて、ドアを蹴り開けた。一瞬の間をおいて、反撃がないことを確かめ、中へ。


 狙点越しの視線を室内へと巡らせる。手前にユニット・バス・ルーム、奥に伸びて廊下、その先に空間。人影は――なし。


 ロジャーがバス・ルームの扉を蹴り開ける。こちらにも人影なし。ジャックは伏せてツインのベッド下――ここも空。壁に隠れてデスクと椅子――その下にも何もなし。


〈くそ、どうなってる?〉

 ジャックが焦れた声を吐いた。


 マリィの示した手がかりは“14時08分”、何か取り違えたか――疑いながら身体を起こし、視線を巡らせる――と、引っかかるものがあった。


 インターコムの横にメモ。“1503”の文字が見て取れた。ロジャーも気付いて、問いの視線をジャックに投げる。

 眼を近づけて確かめる。


〈彼女の字だ〉

〈他には?〉


 メモ用紙を照明の光にかざし、跡を見る――収穫なし。ジャックは首を振った。


〈とにかく上だ〉

〈もう銃声が聞こえてるはずだ〉


 ロジャーが指摘する。ならば警戒されているのが自然。


〈だな〉


 部屋を出た2人は、敢えて非常階段を通らず、エレヴェータ横の階段室へ。

 15階、やはり護衛は待ち構えていた。1人。

 ジャックは背後、ロジャーへ向けて指を1本立ててみせた。


 タイミングを測り、ジャックが飛び出す。ロジャーは手前で銃口を覗かせた。相手に反応。撃たせず一撃。駆け寄って、床に伏せさせる。プラスティック・ワイアで後ろ手に拘束しつつ、耳元に問いを投げつける。


〈ジャーナリストはどうした!?〉

〈何の話だ?〉


 とぼけた答えの返礼に、ジャックは7ミリの銃口を突き付けた。


〈1408号室のジャーナリストだ〉


 息を呑む手応え。


〈知らん〉

 震えが銃口に伝わる。

〈本当だ〉


 無益と考えて、ジャックは身体を起こした。何にしても時間がない、それだけは間違いない。

 ロジャーを指で招いて、1503号室のドア横へ。


〈カウント3〉

 先刻と同じ手順を確かめて、

〈3、2、1、ゴー!〉


 ドア・ロックを撃ち抜くと、室内から応射。胸の高さでドアが撃ち抜かれる。それが3発。

 ドアを蹴り開け、ジャックが中へと跳び込んだ。追うように1発。そこへ入り口からロジャーが1発。床の上、女性兵士のシルエットが衝撃で跳ねた。ジャックが室内に狙点を巡らせ、その間にロジャーがユニット・バスの入り口を押さえる。ジャックが兵士に駆け寄った。右手の拳銃――バッカスP45コマンドーを蹴り飛ばし、床に転がって銃口を巡らせる。


 テーブル下――空。ベッド下――人影。それも2人。


「出てこい!」


 怯えたように人影が震えた。手前の1人は視線を前に向けたまま。奥の1人が、頭を抱えていた両手の下から、恐る恐るという体で顔を上げる。いずれも女、兵士の身のこなしではなかった。

 ジャックはベッド下へ銃口を向けたまま、手招きしてみせる。怯えたように、手前の1人が奥の1人へ腕を伸ばした。


「ゆっくりだ! ゆっくり出てこい!」


「撃たないで!」

 声は手前の1人から。

「民間人よ! 武器は持ってないわ!」


「だろうな」

 かと言って、ジャックの身としては警戒を解くわけにもいかない。

「大人しくしてりゃ、何もしない」


「そう願いたいもんだわ」


 奥の女を片腕で促して、手前の女が横へ動いた。バス・ルームの無人を確かめたロジャーが、ジャックの背後で掩護の態勢に入る。

 手前の1人は茶色の短髪。長身を窮屈そうにベッドの外へ押し出した。手を貸して、もう1人。ショートの赤毛に、空色の瞳――。


「ローランド!?」

 ジャックが思わず口走る。





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

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