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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第9章 対決
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9-3.墜落

 後方に銃火。


〈くそ、後ろだ!〉

 副操縦席からロジャーが振り向く。


 斜め上方、暗灰色のアルバトロスが、のしかかるように間を詰めてくる。


〈構うか!〉

 地面ギリギリの低空飛行、両側面を塞いでビルの列――それが途切れた。


 眼前には連絡橋。橋上から弾幕が上がる。ジャックは機体を左へロール、機体を撃ち抜く着弾音を聞きながら、橋の入り口を封鎖した部隊をかわす。機首を上げつつ、海へ。


〈食い付いてくるぞ!〉

 “ネイ”をコンソールに繋ぎ、後方視界を受け取ったロジャーが叫ぶ。


〈すぐには落ちん!〉

 ジャックは機体を右ロール。直進に転じたアルバトロスが、連絡橋を横目に人工島へ。


〈左前方!〉

 こちらもコンソールに繋いだ“キャス”から、機内スピーカを通じて警告。

 ヘッド・アップ・ディスプレイ、海面を描くワイア・フレームの上に、小さな隆起。


〈フリゲート!?〉


 隆起の上にマーカが立つ。表示には連邦海軍所属フリゲート“U.P.S.コックス”の艦名。


〈後ろ、離れるぞ!〉

 ロジャーが告げる――その意味を考えるより早く警告。アクティヴ・サーチ。


〈まずい!〉


 咄嗟に機首を下げ、機体を右にひねって転進。その鼻先へ対空砲弾。曳光弾が眼前に光跡を重ねる。

 衝撃。左エンジンに命中弾。毎秒100発の密度で押し寄せた砲弾が、翼端のターボシャフト・エンジンを跡形もなく抉り取った。

 推力を失った左翼に引きずられて、進路がぶれる。高度が下がる。


 ジャックが右エンジンの出力を上げた。海面のワイア・フレームを直下に見て、操縦桿を引き起こす。右下には連絡橋、その側面。

 間近に海面――が後方に流れていく。予想した衝撃はない。


〈生きてる……?〉

 息を詰めて、ロジャーが呟く。


 海面すれすれを頼りなくアルバトロスが飛ぶ。間近に流れて連絡橋。砲撃が止んだ。


〈効いたか……〉


〈連絡橋か?〉

 親指を右へ向けてロジャーが訊く。


〈ああ、傷付けるわけにはいかんらしい〉

〈上は?〉

〈これからさ〉


 視覚にまたも警告。アルバトロス“フック3”が再び接近しつつある。


〈保つのか?〉

〈訊くなよ〉


 機体は舐めるように低空を滑って連絡橋の終端、人工島へ。

 正面右、視界を縦に貫いて軌道エレヴェータのイルミネーション。荒れる気流をやっとの思いで受け流しつつ、機体をひねる。迂回して走る高架道路上に機体を沿わせる。


 “フック3”が距離を詰めた。やはり後方上面から攻めてくる――こちらが片肺なのを見越してか、余裕すら滲ませて。


〈ロジャー、口閉じてろ!〉

 言うが早いか、ジャックはエア・ブレーキを開いた。


 フラップ全開、揚力を稼ぎつつ急減速。H字型を成す尾翼が相手の機首に急接近、引き起こす暇さえ与えず接触した。

 アルバトロス2機の姿勢が崩れる。もつれるように進路がぶれる。“フック1”右側の垂直尾翼が“フック3”のコクピットに食い込んだ。

 衝撃が突き上げた。機尾が跳ね上がる。ジャックは操縦桿を引き起こす。が、間に合わない。眼下を流れる高架道路に、左翼端が――触れた。


 派手な火花。摩擦に機体が引きずられる。機尾が相手にめり込んだ。つんのめり、機首がひしぐ。


 “フック3”は、文字通り機首を蹴り上げられて直立した。回転を続けるエンジンの推力でやや上昇、コクピットをさらに引き裂きながら“フック1”の尾翼を引きちぎる。


 機尾の拘束を失った“フック1”はさらに前転、背面を高架道路へ叩きつけた。ロータ・ブレイドを四散させて、アルバトロスが路上を滑る。


 その直上、“フック3”は完全に制御を失った。勢い余って後転しつつ、さらに上昇。上へ腹を、尾部を進行方向へと振り出すと、そのまま描いて放物線。


 高架道路上、滑る“フック1”が尾部を側壁へ打ち付けた。もぎ取られた尾翼ごと形を失い、さらに左翼をぶつけて潰す。なお勢い余って機首をぶつけ――そこで停まる。


 “フック3”は高架道路を外れてなお飛んだ――が、そこまで。揚力を失い、高度を落とし、高架下へ落下する。尾部から地面に突っ込み、紙のように尾翼を崩すと、勢いの残る胴体を前のめりに倒していく。左主翼を押しひしぎ、根本からねじ曲げると、胴体部を地に衝き当てる。機首を押し潰しながらさらに前転、道路脇に背面を激突。胴体が中央から折れ、破片をばら撒きながら滑り――止まった。


〈……生きてるか?〉

 天地の引っくり返った“フック1”の操縦室、シート・ベルトに重力を感じながらジャックが問いを発した。


〈……すげェ、まだ命があるぜ〉

 副操縦席から呻くような返事。


〈軽口が叩けるんなら大丈夫だな〉

 バックルへ手をかけながらジャックが言い放つ。

〈急げ、脱出するぞ〉


 ◇


〈“フック3”反応消失!?〉

 張り詰めた声で告げて通信士。

〈“フック1”も消えました!〉


 ハドソン少佐は作戦指揮モニタを睨んでいた。

 奪われた“フック1”に、“フック3”が接近したところまでは確認できている。空中接触、結果として共倒れ――そんなシナリオが頭をよぎった。

〈“スレッジ・チャーリィ”は?〉


〈“フック2”で帰投中!〉


〈現地へ直行させろ! 総員後退!〉

 ハドソン少佐は号令を発した。

〈目標は“フック3”を撃墜したものと想定する。“クロー・ハンマ”は空港ターミナル・ビルへ急行! “ウォー・ハンマ”は本部に続け、軌道エレヴェータの防衛に回る!〉

 そこでハドソン少佐はオオシマ中尉へ声を向けた。

〈中尉、“クロー・ハンマ”を指揮しろ〉


〈は!〉

 オオシマ中尉は今度こそ軽装甲ヘルメットを手に取った。中隊本部指揮車を離れ、“クロー・ハンマ”の装甲兵員輸送車AT-12シャイアン、その先頭車へ。


 ◇


〈く……〉


 頭を下へ向けたまま、重力に逆らって、シート・ベルトのバックルを外す。まず肩、次に腰――落ちかかる身体を左腕一本で吊り下げ、足を天井へ下ろす。砕け散った風防から這い出し、外へ。


〈よく生きてたな〉

 機体の惨状に、ロジャーが呟く。


 隣、遅れて這い出したジャックは振り返りもせずに身体を起こした。

〈敵が来るぞ〉


 身体を伸ばし、異常がないのを確かめると、ジャックは走り出した。ロジャーが続く。言う端からロータ音が響いてきた。


〈逃げるんなら下だろ〉

 右手に軌道エレヴェータを望んで高架道路。緩くカーヴを描く行き先に、出口への分岐点が見えている。上には旅客ターミナルの標識。その先に空港ターミナル・ビルが顔を覗かせていた。


〈そうだな〉


 追い立てられるように、前へと進む。


〈見られてると思うか?〉


〈見えてりゃ追ってくるさ〉

 ジャックは振り返る暇さえ惜しんで返す。


〈そりゃそうだ〉


 下り斜面に差しかかる。背後、ひときわ大きくロータ音。





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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