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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第9章 対決
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9-2.反応

〈“スローイング・エコー”、通信途絶!〉

 副操縦士が告げた。


 ビルの合間を駆け上るUV-88アルバトロスの操縦室。

 キャビンから顔を出した小隊長スコルプコ少尉はデータ・リンクに指示を乗せた。

〈“スレッジ・ハンマ”各分隊へ、こちら“スレッジ・リーダ”。目標を挟撃する!〉

 視覚情報に狙撃チーム“スローイング・エコー”のマーカが消えたことを確かめながら、

〈目標は“レオーネ・アドバタイズ・ビルディング”、配置は予定通り! “アルファ”、“ブラヴォ”は屋上から、“チャーリィ”、“デルタ”は地上から突入! 各員奮闘せよ、以上!〉


 ◇


 手摺を伝って非常階段を滑り降り、最上階。ロジャーは床を蹴って階段室から飛び出した。ジャックが続く。

 とっつきのトイレを通り越し、もう一つ奥の会議室へ。壁面の端末を探して、“ネイ”を繋ぐ。


〈“ネイ”、警備ホストに潜り込め。敵はどこから来る?〉

〈ここの警備システム、外覗けるようになってないわ。見えるのは出入口の近辺だけ〉

〈まあ、それでこっちも近付けたわけだけどな〉


 ロジャーが呟いた。確かに文句が言えた立場ではない。音からすると、敵は上と下から来るように窺える。その視界の端、ジャックも“キャス”を端末へ。


〈“キャス”、空調ダクトのマップを取れ〉


〈逃げないのか?〉

 ロジャーが顔を向けた。


〈逃がしてくれるような相手か〉

 ジャックが眼だけを返す。


〈肚のくくりどころってか〉

 ヘルメットの下で、ロジャーは小さく唇を舐めた。


 ◇


〈降機!〉


 小隊長の号令一下、アルバトロスから兵士達が屋上へ一斉に懸垂降下。軽機関銃LMG156グラインダが睨みを利かせる中、先鋒2人が階段口脇へ取り付いた。


〈確保!〉


 周囲に射界を確保しつつ、“スレッジ・アルファ”と“スレッジ・ブラヴォ”の2班が展開する。うち1人が階段口前の狙撃兵へ走り寄る。


〈クリア!〉〈クリア!〉


 分隊長と副長が宣言する。


〈どうだ?〉

 小隊長が、横たわる狙撃兵へ足を向ける。


〈駄目です〉

 脈を取っていた兵が首を振る。

〈端末も盗られてます〉


〈こっちもです!〉

 階段室の上からも声。

〈やられてます〉


〈警備ホスト確保!〉

 階段口の端末に張り付いた副小隊長“スレッジ・マザー”から声。


〈敵の位置は?〉

〈見えません。敵が介入しているものと〉


〈よし、“スレッジ・マザー”はここを確保、索敵を継続〉

 小隊長が立ち上がる。

〈“アルファ”、“ブラヴォ”突入用意!〉


 階段口に2班が張り付く。


〈地上側、突入用意よし!〉

 副小隊長が声を上げる。

〈“チャーリィ”、“デルタ”各班用意よし!〉


〈“アルファ”は奇数階、“ブラヴォ”は偶数階を制圧!〉

 “スレッジ・リーダ”が指示を飛ばす。

〈敵にトラップを張る暇はないはずだ。順次有線で状況確認! 質問は?〉


 頷きが帰ってきた。


〈よし、各班突入!〉


 “スレッジ・アルファ”班が先に立って非常階段へ。

 先頭の2人が互いの射界を確保しながら前進、最上階に達する。その横、“スレッジ・ブラヴォ”はその下、24階へ。

 “アルファ”班は階段口の扉を蹴り開けた。発煙弾を投げ込む――銃撃なし。廊下へ滑り込む――敵影なし。廊下を確保しつつ、手近のトイレを捜索――敵影なし。


〈クリア!〉


 一つ奥の会議室へ向かう――そこで火災報知機が作動した。戻る間もなく隔壁が降りる。


〈くそ、警備ホスト確保!〉


 先鋒が壁の端末へ繋いでナヴィゲータ。警備ホストへ侵入したところで、“スレッジ・マザー”とコンタクト。そこで“スレッジ・リーダ”も回線を繋ぐ。


〈状況を!〉


〈状況不明! 警備ホストから火災警報が――ちょっと待って下さい!〉

 “スレッジ・マザー”に一拍の間。

〈反応を検知! “スローイング・エコー”です!?〉


〈いかん、〉

 罠だ――“スレッジ・リーダ”が言い終える前に、回線が警備ホストごと自壊した。


 ◇


〈作動確認!〉

 “ネイ”の声を聴覚に確認して、ロジャーは端末からケーブルを引き抜いた。


 警備ホストに敵の潜入をあえて許し、火災警報を発すると同時に奪ったナヴィゲータを接続、仕組まれた自滅型トラップを発動させてホストごと敵のネットワークを遮断する――ことは思惑通りに運んだ。


 ロジャーは空調ダクトへ這い上がる。先を進むジャックは敵の頭上を通り越し、非常階段室のダクト・カヴァーを打ち壊した。閉じ込めた敵を尻目に階段室へ這い出る。

 やや遅れてロジャーが続く。待ち受け、2人で非常階段を駆け上がる。階段口へ張り付くと、出口横に回線復旧を図る“スレッジ・マザー”。


 反射。“スレッジ・マザー”が横へと跳んだ。ロジャーからの銃弾が遅れて床に散らして火花。その火線をくぐってジャックが前へ飛び出した。“スレッジ・マザー”はさらに跳んで、階段口へ5.6ミリ弾を流し撃つ。


〈こいつ!〉

 ロジャーが首を引っ込める。


 一方で、飛び出したジャックが7ミリ弾を流し撃ち、さらに床を蹴る。その先に、エンジンを回したまま待機するアルバトロス。


〈上がれ!〉

 気付いた“スレッジ・マザー”が声を飛ばした。

〈上がれ! 上がれ!!〉


 アルバトロスのエンジン音が一段上がる。再び顔を出したロジャーが、“スレッジ・マザー”に牽制の一連射。それを横目に、ジャックはアルバトロスへ飛び込んだ。


 突撃銃を左手に持ち替え、腰のケルベロスを抜いて操縦士に突き付ける。

〈降りろ!〉


 操縦士がシート・ベルトに手をかけた。


 確かめつつライフルの銃口を上げ、副操縦士にも恫喝の一言。

〈お前もだ!〉


 操縦士が機首ハッチを開ける――それを確かめると、ジャックは相手を突き飛ばした。

 背後、隙を狙った副操縦士へ素早く眼を戻す。拳銃を抜いた右腕へライフル弾。ハッチへ赤黒く血がしぶく。悲鳴。その頭部に突き付けて銃口。


〈次は頭をやるぞ!〉


 一喝を受けた副操縦士が、残る左手でベルトを外す。その向こう、ハッチ越しにロジャーの姿。弾丸をばら撒きつつ走り寄り、外からハッチを開くと副操縦士を引きずり出す。


 ジャックが操縦席に就いた。ハッチ越し、操縦士へ警戒の眼を投げつつ、操縦桿を握る。右から機体に着弾。“スレッジ・マザー”がエンジンを狙っていた。ロジャーが腰を落ち着けるより早く、ジャックはスロットルを開ける。浮遊感――。


 ◇


〈“フック1”、離陸しました!?〉

 困惑の声が通信士の口に上る。


 ハドソン少佐は片眉を跳ね上げた。


 “ハンマ”中隊が装甲戦闘指揮車AT-12Cシャイアン・コマンダ上に設けた司令部、作戦指揮モニタ横。

 軌道エレヴェータを介したレーザ通信が伝えるのは、“レオーネ・アドバタイズメント・ビルディング”屋上に1個分隊を降ろしたアルバトロス“フック1”が、命令もなく離陸したという事実。降機した分隊からの報告はない。


〈やられたか!〉

 さすがに舌を打ったハドソン少佐が指示を下す。

〈“フック3”離陸準備! “スレッジ・エコー”、“フォックストロット”乗機。ヤツが上から来るぞ!〉


〈私も出ます〉

 オオシマ中尉がヘルメットを手に取った。


〈その隙はない! “チャーリィ”、即時撤収!〉

 即断で却下、ハドソン少佐はさらに指示を飛ばす。

〈“デルタ”、ビルを掃討後“アルファ”と“ブラヴォ”を救出して撤収! “フック1”の進路は?〉


〈“カーツ・ストリート”を低空で東進中――レーザ通信途絶!〉


〈“フック3”へ、こちら“ハンマ・ヘッド”、〉

 ハドソン少佐がデータ・リンクに指示を乗せた。

〈“カーツ・ストリート”から来るぞ。即時離陸!〉


 ◇


 “フック3”が両翼端、ターボシャフト・エンジンの回転数を上げた。機体両側面のスライド・ハッチを開放したアルバトロスが上昇する。


〈“カーツ・ストリート”から回り込め!〉

 前進を始める機体の中、分隊長が命じる。


 ビルの側壁を視界後方に押し流して、アルバトロスが速度を上げた。中隊司令部から送られた予想邂逅地点に達して、左旋回。ブロックの中ほどで空中静止。


〈“フック1”予想位置、正面へ〉

 副操縦士が、視覚へ投影された予想図を見て声を上げる。

〈3、2、1――〉


〈ゼロ!〉


 “フック3”が前進を開始。鼻先、低空ををかすめてアルバトロス。“フック3”はその後ろ上方へと回り込み、加速。


〈捉えた!〉


 スライド・ハッチ際に兵が2人、突撃銃AR113を構えて左右から身を乗り出す。





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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