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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第9章 対決
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9-1.伏兵

『“ジェネラル・ニュース・アーカイヴ”、ジョゼフィン・クレメンズです。“テセウス開放戦線”を巡る情勢に変化がありました。星都“クライトン・シティ”郊外において、目下戦闘が進行している模様です。お届けしているのは、衛星軌道の当社連絡船が撮影に成功した映像で……』


『現在展開されている戦闘について、“惑星連邦”軍はコメントを発表していません。ですが、間近に迫ったジャーナリスト解放については、何らかの影響が避けられないとの見方が……』


 ◇◇◇


〈静かすぎるな〉


 ハンドルを握るロジャーに声。ヘッド・ライトを消したストライダの鼻先、非常灯の赤い光が照らす中には、人一人いない地下街が続く。


〈何か言ったか?〉


 助手席のジャックが訊き返す。フロント・ウィンドウを失い車内を吹き抜ける風の中、声の通りは冗談にもいいとは言い難い。


〈静かすぎやしないか!?〉


〈ああ、〉

 応じるジャックの声も心もち大きい。

〈連中、待ち構えてるだろうな〉


 行き止まった角を折れて、ロジャーが訊く。

〈どの辺りだと思う?〉


〈連絡橋だろうな、多分〉


 マリィからの連絡にあった“空港”こと“クライトン・エアポート”は、軌道エレヴェータ基部と同じ人工島の上にある。シティから人工島を結ぶ連絡橋は、避けて通れない関門と言っていい。


〈この状況で待ち伏せするなら、あそこ以上の場所はない〉


〈待ち伏せ、か〉

 ロジャーが言葉を舌の上で転がした。

〈またぞろ戦車かVTOLか? こうなりゃ何が出ても驚かねェぞ〉


〈偵察機とか狙撃兵とかな。迂闊に顔を出したら――〉

 ジャックが左手を持ち上げ、指先をこめかみへ突き立てる。

〈ズドン――案外、馬鹿にならんぜ〉


〈心当たりがありそうだな、おい〉

 ロジャーがうそ寒げに舌を出す。


〈……まあ、な〉

 ジャックはハドソン少佐の顔を頭に描いていた。

〈外れてくれてりゃいいが〉


〈すぐ“ジョーンズ・ストリート”――100メートル先で左〉

 ロジャーの聴覚に“ネイ”の声。


 連絡橋へ通じるメイン・ストリート下、地下街の幅も目に見えて広がる。


〈待った〉

 ジャックが左手をかざす。

〈入るな。手前で曲がれ〉


 ロジャーは反射的に従った。進路を変え、脇道へ入る。

〈――いるのか?〉


〈多分な〉

 ジャックがロジャーの肩を叩く。


〈地下も見張られてるってか〉

 ロジャーがうそ寒い声を出す。連絡橋側に狙撃兵がいるなら、地下街でも見通しが良ければ狙われかねない。

〈そりゃいいとして、どこから出る?〉


〈そこ、角地で寄せて停めてくれ。当たりを付ける〉

 ジャックは意識を視覚の隅、“キャス”が描いた地上図へ。摩天楼が立ち並ぶ中、狙撃に向きそうな地点は掃いて捨てるほどにある。


〈手当たり次第か?〉

 ストライダを交差点近くのビルに寄せて、ロジャーが訊いた。


〈連中、張り込み場所の監視システムは立ち上げ直してるはずだ〉

 突撃銃を片手にストライダを降りたジャックが、端末へケーブルを伸ばす。

〈他にいい方法があったら今のうちに言ってくれ――“キャス”?〉


〈気が乗らないわ、こんな手。まだるっこしいったらありゃしない〉


 ジャックが足を向けた先には“ドナー・トレード・ビル”のプレート。その脇、路地を入って裏手へ回る。


〈他にいい手があったらな〉

 言い置いて、ジャックが“キャス”を裏口の端末に繋ぐ。


〈うっわ、重ッ!〉

 “キャス”が悲鳴に似た声を上げる。

〈駄ッ目ダメ、バリバリに感染してるわ〉


〈次だ〉

 ケーブルを抜いて、ジャックが路地から走り出た。街路の向かい、“シルヴァ・ロジスティクス・カンパニィ”の入り口へ。


 ストライダを前進させたロジャーが、降りてジャックの後に続く。

〈敵が張ってないんなら、そこから上に出られるってことじゃないか?〉


〈上から狙われる心配がなきゃな〉

 裏口、ケーブルを繋ぎながらジャックが応じる。


〈探し出してどうするよ?〉


〈決まってる〉

 さも当然とばかりにジャックが答えた。

〈襲うのさ〉


 その聴覚に“キャス”のうんざりした声が乗る。

〈ここも駄目! あーもううっとうしいったら〉


〈自業自得だ。それで俺も付き合ってる〉


〈そりゃ自分で作ったんだけどさ。もう勘弁してよ〉

 ケーブルを引き抜き、さらに次――“レオーネ・アドバタイズメント・ビルディング”。


〈襲うとしてだ、〉

 突撃銃片手に周囲へ警戒の眼を配りつつ、ロジャーがジャックの後を追った。

〈相手が1人とは限らんだろ〉


〈少なくとも本隊じゃない〉

 小走りに裏口へ回りながら、

〈どっちにしろタダじゃ通してくれんさ〉

 裏口、警備用端末に“キャス”を繋ぐ。


〈ビンゴ!〉

 “キャス”が喜色さえ浮かべて告げた。


 その語尾を待たずにジャックが命じる。

〈警備ホストを押さえろ〉


〈今やってる〉


 今この瞬間にも、ジャック達の姿は警備システムに捉えられている。見分けられたら、ビルに潜む狙撃兵はおろか、ゲリラ全体に自分の位置を報せることにもなりかねない。


〈間に合った!〉

 “キャス”がジャックの視界へ警備ホストのモニタ映像を転送する。

〈警報はまだ出てないわ〉


〈罠か?〉


〈かもね〉

 “キャス”に否定の声はない。警備ホストの稼働ログを遡る、そのさまが視界の隅を流れた。

〈でもログには残ってないわ〉


〈どうだ?〉

 ロジャーが訊いた。


 ジャックは裏口のドアへ顎を向ける。

〈やるぞ〉


 “キャス”がロックを外した。ジャックがドアを開ける。ドアの両側、2人が視線に重ねた銃口を巡らせる――クリア。“キャス”が監視カメラの映像をすり替える。合わせて前進。非常階段室へ。


〈何階あるんだこれ?〉

 ロジャーが訊いた。


 “ネイ”が地図と照合して答えを出す。

〈25階。よかったわね、低い方よ〉


〈……訊かなきゃよかったぜ〉


 警備システムをだましながら、1階づつ上へ。繰り返すこと27回、屋上へのドアへ辿り着く。


〈“キャス”、屋上のセンサに反応は?〉

 ドア脇に張り付きながらジャックが訊いた。


〈反応なし。向こうも警備をだましてる――んでしょうね。当たり。屋上の端末に繋いでる奴がいるわ〉

〈侵入できるか?〉


〈手間かかりそうね〉

 “キャス”が侵入を試みる。

〈あー……軍用の匂いがプンプン、ちょっと面倒ね。ぶっ潰しちゃっていい?〉


〈駄目だ〉

 “キャス”を抑え、ジャックはロジャーへ眼を向けた。

〈やるぞ〉


〈相手の数と場所は? ――あー、判んねェか〉

 こちらも“ネイ”に状況を聞いたか、合点の行った顔でロジャーが小首を傾げる。


 ジャックが付け足した。

〈ああ、出口が狙われてる可能性もある。出たとこ勝負で飛び出すぞ〉


〈上から狙われてる可能性も……あるわな、やっぱり〉


〈足を止めるなよ――カウント3〉


 ジャックが指を3本立てる。ロジャーが頷きを返した。ジャックが身構え、指を順に折る。


〈3、2、1、ゴー!〉


 ジャックがドアを蹴り開けた。ロジャーが先に飛び出した。

 ドア脇、壁沿いを右へ動きながら視線を巡らせる。ジャックが続く。こちらは左側へ。

 ジャックは視線を左右へ投げた――人影はない。ヘルメットのセンサにも反応なし。


〈どこだ!?〉


 ロジャーから声。ジャックが振り返る前に銃声が連なった。ほぼ直上にセンサの反応。


〈上!〉


 跳弾の火花が床に閃く。ジャックは床を蹴り、振り向きざまに横へと跳ぶ。銃口を向ける。相手は2人。


〈待ち伏せだ!〉


 声を上げる間に、硬い音が足元に弾けた――手榴弾。とっさに伏せた、その先で爆発。軽装甲スーツが、雨と叩きつける破片を弾く。爆音の余波が耳にこびり着く。


 爆煙の中、生きている――それだけを確かめた。振り向きざまに銃口を上げ、引き鉄を絞る。弾幕を張って起き上がり、階段口を目がけて床を蹴る。

 腰のベルトから手榴弾を引き抜く。手にピンの抜ける感触。身体が覚えている距離感を頼りに、上へ。

 眼前に壁。階段口、ドア横へ張り付く。


〈伏せろロジャー!〉


 声を上げた、直後に爆発。


 壁を伝って回り込み、上へ続く梯子を見つける。伝って上がり、顔半分で爆煙の中を確かめる――いた。

 親指で突撃銃のセレクタを単発へ。銃口を覗かせ、引き鉄を絞る。1発、立ち上がりかけた敵をもう1発で薙ぎ倒し、さらに1発をその隣へ――こちらは先に飛び降りた。弾丸が跳ね、虚しく火花を散らす。


〈ロジャー、行ったぞ!〉

 声を上げると同時に飛び降りる。


 階段口の向こうに銃声、それが重なる。


〈クリア!〉

 ロジャーから声。


 聞いたジャックは、再び梯子に取り付いた。上へ出て、倒した敵へと駆け寄る。

 軽装甲スーツの胸当てを引き剥がす。中から端末を探り出し、“キャス”からのケーブルを繋ぐ。

〈“キャス”、やれ!〉


〈――ちょっとこれ自滅型トラップ!?〉


 瞬間、“キャス”の声が途切れる。


〈どうした、おい!〉


 さらに沈黙。


〈――もう! “身代わり”がやられたわ〉


 “キャス”の罵声を聞いた聴覚にロータ音。それが複数、遠くない。これだけ派手にやり合えば、嫌でもこちらの場所は知れる。その道理に舌を打ちつつ、ジャックは声を上げた。


〈ロジャー、無事か!?〉

〈生きてる!〉


 ロジャーの声が耳に入った。声の方向へ手を、次いで顔を出す。ロジャーの無事な姿を確かめる。

 聞く合間に、ロジャーはもう1人の懐を漁っていた。端末を奪い、ロジャーが振り返る。


〈敵が来る。ずらかるぞ!〉

 ジャックは飛び降りた。


 ロジャーが先に立って階段室へ。ロータ音が近付いてくる。





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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