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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第8章 衝突
72/221

8-12.先手

〈アクティヴ・サーチ!?〉

 驚きの表情を乗せて“キャス”の声が聴覚に跳ねる。


 “クライトン・シティ”北東部、開発中の居住エリア。戦術マップに眼をやれば、付近に両陣営とも戦力は展開していない――はずだった。


〈方位055!〉


 “キャス”が告げたのは、向かって右後方。ロジャーとスカーフェイスが眼を交わした。ストライダとFSX989が左右に分かれる。ジャックはストライダのルーフ・ウィンドウから上体を乗り出し、対物ライフルAMR612シュライクを抱え上げて後方へ向けた。その視界、やや上方に、“キャス”が示したマーカが映る――センサ・ユニットらしき発信源。


 ストライダが加速する。


〈撃ってきた!〉


 後方にミサイルの噴射炎。住宅群の屋根越し、上空に向かって光の柱が伸び上がる。


〈ちょっと待て、〉

 ジャックが指摘する。

〈戦術マップはゲリラ側から盗んで来てるんだよな、てことは――〉


 言い終わるより早く戦術マップが視界から消えた。“キャス”からの反応がしばし途絶える。


〈やられたわ!〉

 “キャス”から地団駄を踏まんばかりの声。

〈ダミィかまされてて今まで気付かなかったなんて!!〉


 “キャス”は生きていた――そこに小さく安堵しつつジャックが問う。

〈被害は?〉


〈ゲリラ側のルートが全部パァ! 今クラッシャかまされたわ! 身代わりで何とかしのいだけど……〉

〈ミサイルは? どっちへ向かってる!?〉


 言いつつ光源を見据える。センサの捉えた情報が視界に重なった――地対地ミサイルSSM-144アルバレスト。上空に駆け上がったミサイルが首をもたげ――、


〈――こっち!〉


 ジャックは左肩、ロケット砲RL29の安全装置を外した。

〈そこの角、右!〉

 ロジャーへ声を投げつける。


〈オーライ!〉


 アルバレストが上空から襲いかかる。盾に取れる建物はなかった。ジャックは進行方向、ロケット砲を地面へ向ける。

 絞って引き鉄――正面に爆発。吹き上がる爆煙に、ストライダが突っ込む。


〈あらよ!〉


 ロジャーがフル・ブレーキ。ジャックとAMR612を振り落とさんばかりに、ストライダがドリフトする。束の間だけ爆煙の中に留まると、今度はアクセル全開。宙に飛んだ破片と火薬の熱でアルバレストのセンサを撹乱しつつ、進行方向を直角にねじ曲げてストライダが飛び出した。


 爆発――背後で成型炸薬が宙を灼き抜いた。

 爆風にあおられた車体の左側面が街灯にぶち当たる。右へ跳ね返された車体が、今度は向かい側のポストを弾き飛ばす。


〈この!〉

 車体がスピンする。カウンタを当てて、ロジャーは暴れるストライダをねじ伏せた。車体が停まる。

〈敵は!?〉


 ロジャーが問いを飛ばした。“ネイ”と“キャス”が声を重ねる。


〈反応ないわ!〉〈あん畜生、陰に隠れてやがるわよ!〉


〈定石通りなら、〉

 そこへジャックが声を挟む。

〈次は戦果を確かめに来るはずだ〉

 ジャックは身を屈めて後部座席、次のロケット砲RL29へ手を伸ばす。


〈隠れるぜ〉


 ロジャーはストライダを動かした。すぐの角を右に折れ、アパートメントの陰へ隠れる。ジャックがストライダを降りて、爆心地を窺った。


〈あいつは?〉


 スカーフェイスの安否をジャックが問う。そこへ“キャス”が噛み付いた。


〈データ・リンクぶっ飛ばされて、どうしろってのよ!? テレパスじゃあるまいし〉

〈向こうも地下に潜ってくれりゃ、連絡もつきそうなもんだが〉


 ロジャーが呟いたところへ、車内スピーカから“ネイ”が割り込んだ。


〈来た!〉


 ミサイルの着弾点越し、余熱に揺らぐ空気の向こうに敵影。街灯に浮かび上がったそのシルエットは――機動戦車MT-3ダリウス。


〈まずいな……〉

 RL29の安全装置を外しながらジャックが唇を噛む。

〈あいつの正面装甲は抜けん〉


〈回り込むか?〉

 心持ち声を潜めてロジャーが問う。


〈逃げた方が早いな〉

 ジャックはダリウスから眼を離さない。

〈“キャス”、地下への入り口は?〉


 “キャス”が視界に付近の地図を重ねた――地下鉄駅が西にある。


〈ここから500メートルってとこね〉


 “キャス”が付け足した――ところでジャックが声を上げる。


〈こっちへ来る!〉


 傾いた街灯にしろポストの残骸にしろ、観察すれば逃げた方向が判るのは道理。ロジャーが手招く。


〈乗れ!〉

〈ヤツの眼を眩ませる!〉


 ジャックはRL29の銃把を握りしめた。追いかけられれば、いずれまたミサイルが飛んでくる。


〈無理すんな!〉

 ロジャーが急かす。


〈あと少しだ!〉

 呪文よろしくジャックが自らへ言い聞かせる。

〈あと少し……!〉


 彼我の距離は50メートルそこそこ。ダリウスが加速する。陰から身を乗り出しざま、ジャックが構えてRL29。狙いはダリウスの側面装甲。


 瞬間、ダリウスが勘付いた。急減速しつつ上部、機関砲塔を動かして、ジャックへ25ミリの砲口を巡らせる。


 ジャックがRL29の照準を修正、引き鉄を絞る。炎を曳いてロケット弾――ダリウス側面、ミサイル・ランチャに弾頭が突き立った。


 成型炸薬が灼いてミサイルの推進剤。誘爆に閃光、続いて足元を揺るがす衝撃波。


 わずかに遅れて25ミリ機関砲が吠えた。狙いが逸れて、アパートメントの2階を抉る。

 ロケット砲を棄て、ジャックはストライダの助手席へ飛び乗った。それを視界の隅に確かめて、ロジャーがアクセルを踏み込む。ドアを閉めかける身体をシートへ押し付けて、ストライダが飛び出した。


 眼前の角を左へ折れる。閉じ切らないドアを遠心力で振り回し、ジャックの身体さえ投げ出さんばかりに、ロジャーがストライダの舵を切る。

 息もつかせずアクセル全開、フロート・エンジンに悲鳴を上げさせて、ストライダが西へと逃げを打つ。


〈やったか!?〉

 問うロジャー。


〈無茶言うな!〉

 ジャックがドアを閉じながら断じた。

〈ミサイルの推進剤をやっただけだ。やるならもう一発要る!〉


〈アクティヴ・サーチ!〉

 “ネイ”に悲鳴。

〈あいつまだ生きてる!〉


 ストライダのフロント・ウィンドウにデータを投影。爆心地の上空から、超音波と電磁波の投射。ダリウスがセンサ・ユニットを打ち上げたと見える。


〈来るわよ!〉


 “ネイ”の語尾へかぶせんばかりに、背後から光――振り返るまでもない、アルバレストの噴射炎。それが居住エリアの姿をあぶり出す。


 一散に西へ。遮るものひとつない生活道路の光景が、最大加速で背後へと流れ去る。


 光源が駆け上がるにつれ、家並の陰が短くなり――そして光に翳り。ミサイルの弾道が頂点を越える、その兆し。


 視界の端、地下鉄駅の表示が迫る。つんのめるようなフル・ブレーキで交差点へ突入するや、尻を流しかけた車体にカウンタをくれ、ロジャーは車体を右手の歩道へ乗り上げる。


 家並の影が、今度は伸びた――ミサイルが降ってくる。眼前、地下鉄への下り階段。ロジャーが再びアクセルを踏み込んだ。


 頭上に灼熱の閃光。衝撃と轟音が全身を打つ。身体が浮く――。


 下り階段の屋根が抜けた。瓦礫と化して崩れ果て、ストライダへと落ちかかる。ルーフがひしぐ。眼前には向かい側の上り階段、それが壁となって立ち塞がる。ロジャーは全力でブレーキ。尻が右へ流れる。


 ストライダは右前面を上り階段へと打ち付けた。フロント・ウィンドウがひび割れ、エア・バッグが2人をシートへ押し付ける。さらに尻が回って右側面、ドアをひしぐほどぶつけた後、横転し――かけたところで動きが止まった。ゆり戻し、底部を踊り場へぶつけて、そこで停まる。


 ロジャーの口から、長い嘆息。

〈生きてる……〉


〈エンジンは?〉

 ひび割れたドアのウィンドウを肘で砕きながらジャックが訊く。


〈……何とか〉

 出力計に見えて手応え。


〈今のうちにずらかるぞ〉

 ジャックは車体前方の階段下、地下鉄駅を顎で示した。肩から突撃銃AR110A2ヴァリアンスを外すと、銃床でフロント・ウィンドウ、残った欠片を取り除く。


〈異議なし〉

 ロジャーはストライダの出力を上げた。車体が浮力を取り戻し、動き出す。


〈スカーフェイスはどうなった?〉

〈ちょっと待て、“キャス”?〉


『今やってる』

 車内スピーカに歪んだ声。

『何よ、もうほとんどスピーカ死んでるじゃない』


 程なく視界に地下鉄の路線図。現在位置のマーカがそこに重なる。


〈応答なし〉


 車載スピーカに見切りをつけた“キャス”が、骨振動スピーカへ送って高速言語。ジャックはロジャーへ向けて、一つ首を振ってみせた。


〈無事だといいがな〉

 言いつつロジャーがストライダを階段下へ滑らせる。


 下り切った先には人影のない地下道。ところどころ欠けた発光パネルの連なりの下、落書きと洗浄剤が格闘を重ねた壁が続く。その先に無人の改札口。


 ジャックが歪んだドア、割れたウィンドウから上体を出し、次いで腰、さらに足を引き出して床へ。

〈いいぞ、高度上げろ〉


 ロジャーがエンジンの出力を上げた。煙草の吸い殻や紙くずを吹き散らして、ストライダが高度を上げる。

 改札機の高さを越えたところで、ジャックが両の掌をロジャーに向けた。


〈OK〉


 ストライダを前進させ、改札機を乗り越える。ジャックはウィンドウから乗り込み、


〈環状線に乗った方がいいだろう〉

〈どっちにしろ軌道エレヴェータ方面だな〉


 ロジャーがストライダの鼻先を巡らせる。階段を下ってプラットフォーム、さらに線路へ。





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

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