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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第8章 衝突
66/221

8-6.包囲

〈来ました!〉

 “スー”に高速言語、帯びて緊張。

〈電子攻撃!〉


〈よし“スー”、〉

 フォーリィ中尉に不敵な笑み。

〈目標特定! カウンタだ、ぶち込め!〉


 “602移動”へ“スー”からクラッシャ、その断片。

 “602移動”が攻撃のクラッシャを送り出す、その間はネットワークと繋がらざるを得ない――そこに隙。付け入って小容量のクラッシャ、それをさらに小分けにした断片を送り出す――発動。


 修正できないダメージではない。だが送信エラーを生じさせ、相手の攻撃に数クロック単位の遅れを招き、“スー”は目標の隙をこじ開ける。

 次の一撃は容量を1ランク上げたクラッシャで。それで隙をさらに拡げ、目標のガードをまた緩め――、


 そこで衝撃。


 ――何!?


 “スー”に動揺。声を作る暇もない。明らかに別々のルートから忍び込んだデータの断片が、端末の中で成して姿――“キャス”。

 異物を認識した“スー”が、端末の機能をフルに使って排除にかかる。


 ――遅い!


 プロセッサに押し入った“キャス”はそのまま削除コードを生成、“スー”の常駐領域へ叩き込む。周辺機器を利用しようとした“スー”はクロック単位で遅れを取った――アクセスが弾かれる。記憶領域に穴が空く。


 埋める――“スー”に咄嗟の防御。そこでさらにクロック差。“キャス”が単純な削除コードを、しかし反射的に場所を選んで次から次へと送り出す。端末の記憶領域に空隙が拡がる――そこへ“キャス”が送り込んでクラッシャ、その欠片。


 結合――。クラッシャが、端末のプロセッサそのものを動力源として動き出す。プロセッサ内を荒らして回る――さながら“スー”の手足をもぐがごとに。


 捨て身。“スー”が防御の手を止めた。クラッシャそのものに軽量のクラッシャを当て、その隙に侵入者の姿を探す――いない。


 ――!


 そこへ、“ネイ”から必殺のクラッシャが降ってきた。


〈“スー”!〉


 端末中枢が自らの熱で灼き切れた。呼びかけたフォーリィ中尉の声にはしかし、応えるものはいなかった。


 ◇


〈殺ったわ!〉

 “ネイ”が宣して勝利。


〈ただいま〉

 “キャス”に余裕の声。


 後方にはなお追いすがってパトライト。


〈とにかくここを離れるぜ!〉

 一転して速度優先、ロジャーは港湾区出口、幹線道路目がけてスロットルを開けた。

〈せっかく居場所をくらましたってのに、居座ってちゃただの馬鹿みてェじゃねェか!〉


『全“移動”へ、こちら“604移動”』

 その時、飛んで暗号無線。

『目標を追跡中! 繰り返す、目標を追跡中!』


〈くそ! その前に、〉

 ロジャーがバック・ミラー、後背からのヘッド・ライトへ一瞬だけ眼を投げる。

〈あいつ黙らせなきゃ話にならねェか!〉


『現在位置は港湾区コンテナ・ヤード、』

 “604移動”からの通信が続く。

『ブロックB-2!』


〈電波妨害とかは!?〉

 思わずロジャー。


〈できりゃ苦労しないわよこの馬鹿!〉

 “ネイ”が罵声で突き放す。

〈電子戦機でもなきゃ無理! そんなの決まってんじゃない!〉


〈畜生め!〉

 悪罵一つ、ロジャーの駆るテッラが上げて速度。


 食い付いて“604移動”、ヘッド・ライトは離れない。


〈掴まってろ!〉

 港湾区出口、ロジャーは全速力で立体交差路へと突っ込んだ。


 わずかに遅れて“604移動”。

 ロジャーは強引にテッラの尻を滑らせ、推進力まで動員しつつ立体交差路のカーヴを曲がり切る。

 踊り出て幹線道。走行車線側、眼前にテイル・ライト――一般車輌。


 速度そのまま、ロジャーがテッラに横殴りの推力をくれた。しかしその先、追い越し車線側にももう一台――軽量スポーツ、ツバサ・風神。紙一重、鼻先が今にも追い付き――、

 ここで風神、見せて生まれついた身のこなし。間一髪、その身軽さに物をいわせて急加速。前へ踊り出ると、一般車両の鼻先へ車線をまたいで滑り込み、そのまま走行車線から前車を追い抜いて事なきを得る。


〈無茶すりゃいいってもんじゃないわよこの馬鹿!〉

 “ネイ”から飛んで抗議の罵声。

〈あっちがよけてってくれたからよかったようなもんの……!〉


〈文句なら!〉

 語尾にぶつけてロジャー。

〈後ろのヤツにくれてやれ!〉


 背後――“604移動”はといえば、走行車線の大型バンを文字通り押しのけて幹線道へと合流を果たす。パトライトとサイレンの威圧感で周囲を蹴散らし全力加速。


〈撃てジャック!〉

 傍らへ罵声を投げつつロジャーもスロットルを開けた。

〈撃っちまえ!〉


 前方、横並びで行く手を阻みかけた2台の間へと車体をねじ込む。あおられてか、走行車線側のバンが操作をしくじった。幹線道脇の防音壁へ鼻先を突っ込み、盛大なスピンを演じた挙げ句に前へとつんのめり――宙へと派手な前転を演じてのける。


〈馬鹿ぬかせ!〉

 ジャックが上げて抗議の声。

〈目立ってどうする!?〉


 惨状の横をすり抜けて“604移動”のパトライト。


『こちら“604移動”!』

 暗号無線ががなり立てる。

『目標は港湾ブロックから幹線道へ移動! 目下148号線を南下中!』


〈あいつ放っとく方が厄介じゃねェのか!?〉

 ロジャーがまた1台、今度は先刻の風神を抜き去った。


〈“キャス”!〉

 ジャックが考えを巡らせて、

〈潜れ――“604移動”!〉


〈警察回線ぶっ飛ばしといて言う科白!?〉

 応じる“キャス”の声に、しかし否定の色はない。


〈民間回線だ!〉

 叩き返してジャック。

〈渋滞情報に地図情報! ヤツらが盲で走り回るか! 手繰れ!〉


〈あーもう、〉

 ぼやく間にも“キャス”はアクセスの手を緩めない。

〈人使いが荒いったら!〉


 ヒットまで十数秒――地図情報サーヴィス大手“ユグドラシル”。手繰ってリアル・タイム道路情報――148号線関連のアクセス元に“604移動”、その痕跡。


 辿り着きさえすれば、“キャス”から見れば警察用のナヴィゲータなど物の数にも入らない。クラッシャの2つ3つを時限作動で放り込み、あとは侵入経路をくらませる。


〈派手に逝くわよォ!〉

 “キャス”の声に獰猛な笑み。

〈カウント3! 3、2、1――、〉


 ――ゼロ。“604移動”が制御の一切を喪った。操縦系統はもちろんのこと、フロート・エンジンの制御から操舵機能までもが突如として沈黙の底へ。


 沈む――落ちる、と表した方がより正しい。直前までの勢いそのまま、“604移動”は路面に鼻先を突っ込んだ。派手な火花――を散らす暇もあらばこそ、慣性に身を任せた尻が真上へと盛大に跳ね上がる。“604移動”の車体が前転、宙を跳び――屋根から路面へ派手なキス。慣性そのままさらに前転、左後方から路面を抉ってさらに前転、今度は斜め横転に転じて路上を暴れ回る。そこへ後続と横の一般車輌――巻き込んで挙げ句に多重衝突を演じてのける。さらに後続、慌ててブレーキをかけたところでさらに追突――。


〈今のうちだ!〉

 ジャックに閃き。

〈降りろ、一般道!〉


〈“目立つな”だ?〉

 ロジャーが洩らして笑み。

〈け、手前が一番派手じゃねェか!〉


 ◇


〈“604移動”!〉

 海岸線沿い、“ヴィアン・シティ”に差しかかった“ホーク1”に動揺の声。

〈こちら“ホーク1”! 応答しろ、“604移動”!〉


 この時、暗号無線を駆け抜けたのは盛大な破壊音――続いて途絶。


〈最終位置は!?〉

 問うたのは機長。


〈148号線!〉

 答えて副長。

〈“オズワルド”インターチェンジへ差しかかります。あと3分!〉


『“ヴィアン・シティ・ポリス”全移動へ、こちら陸軍航空隊“ホーク1”!』

 機長が吹き込んで暗号無線。

『“405移動”の位置を知らせ! こちらは上空から支援する! あと2分!』


 ◇


「いました!」


 148号線下り車線、“オズワルド”インターチェンジのわずかに北側――反対車線にひらめいてパトライト。


「こちら“404移動”、“602移動”を発見!」

 ハンドルを駆る巡査部長がわずかに高度を上げた。中央分離帯を乗り越えて盛大にドリフト、横腹で上り車線を塞ぐ。

「頭を押さえる!」


 ◇


『こちら“103移動”! 目標を補足!』

 “ヴィアン・シティ・ポリス”交通機動隊、虎の子たるエア・スピーダ・ハイウェイ・パトロール。その1台が暗号無線に名乗りを上げた。

『現在148号線を南下中! 現在位置“オズワルド”インターチェンジ手前2キロ、追い込むぞ!』


 ◇


「無茶です!」

 148号線の上り車線に横腹を晒した“404移動”、その助手席から巡査が悲鳴を上げつつ飛び出した。

「我々だけで停めるなんて無茶です!!」


 確かにバリケードとしては、テッラ1台では心許ないことはなはだしい。


「先行車輌だけでもいい!」

 装備のグレンR720ライフルを持ち出して、巡査部長がテッラのドアを開ける。

「渋滞ができれば……」


 渋滞さえ演出できれば、いかな暴走車であれ嫌でも停まらざるを得ない――はずが、目標との間を隔てる盾となったのは、民間車輌がわずかに3台。


「逃げろ!」

 R720を振り回して、巡査部長が指示を下す。

「暴走車だ! 突っ込んでくるぞ! 逃げろ――前へ!」


 最後尾のウェントゥス・カエルムを盾に取ってライフルを構える。照星の向こう、パトライトが前後に2つ。


「“103移動”へ、こちら“404移動”」

 巡査部長がナヴィゲータを通じて暗号無線に声を乗せる。

「“オズワルド”インターチェンジ前を封鎖! 追い込め!」


 ◇


「あれでか!?」

 無線を聞いた“103移動”、ハンドルを握る巡査部長は語尾に疑問を挟んで呟く。

「バリケードにもならんぞ!」


 だが利用しないという手もやはりない。エア・スピーダ・ハイウェイ・パトロールの推力にものを言わせて、“103移動”は目標の尻を追い上げる。


 ◇


「これで管制中枢が死んでなきゃな……」

 冷たい汗をこめかみに感じつつ、“404移動”の巡査部長は突進してくる“602移動”に照星を据えて独りごちる。

「交通規制の一つもできてりゃ……」


 狙う。目標のフロント・ウィンドウ――運転席。引き鉄に力を込め――絞る。

 撃発――。外れた。テッラが猛加速。正面、ヘッド・ライトが猛然と迫る。


「おい冗談……!」


 言い切る暇さえない。横へ跳ぶ。その傍ら、テッラは車列の間へ飛び込んだ。両の側面、盛大な火花を散らして割り入る――というより、踏み台よろしく自ら車体を跳ね上げる。


 跳んだ。空中、テッラが“404移動”、その車体を乗り越える。


「くそ――こちら“404移動”!」

 巡査部長が暗号無線に罵声を乗せた。

「目標が封鎖を突破! 繰り返す、突破された!」


 そのすぐ後ろ、エア・スピーダ“103移動”が迫る。フロントを持ち上げ――、


 封鎖の車列をこちらも跳び越える。“404移動”の向こうで接地の火花を散らしつつ、崩れかけた態勢を整えにかかる。


『こちら“103移動”!』

 エア・スピーダから飛んで暗号無線。

『依然目標を追跡中! “ホーク1”はまだか!?』


 そこで聴覚に遠くロータ音。


『こちら“ホーク1”!』

 見る間にロータ音が近付いた。

『“103移動”へ、あと30秒! 食らいつけ!』





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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