表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第8章 衝突
63/221

8-3.発覚

「厳戒態勢だ」

 バレージは簡潔に答えを返した。

「潜り込むどころの話か」


 “クライトン・シティ”潜入の可能性を尋ねられた、その返答。現地は挑発行為が飛び交う一触即発の臨戦態勢、すり抜けようにも紛れる物流そのものが断たれている。


「そうか」

 ジャックが鼻の頭に指をやる。

「じゃ戦闘のどさくさに紛れて突っ込むことになるな」


 背後、ジャックは中古のフロート・バイク――FSX989に腰を預けた。


「肝っ玉が太いのは結構だがな」

 バレージは鼻息一つ、

「そのまま討ち死にされては面白くも何ともない」


「他にいい考えがあったら教えてくれ」

 ジャックは小さく手を振る。

「こちとら別に派手な花火上げたいわけじゃない」


「なあ、」

 ロジャーが腕を組んで訊く。

「お前さんは、ジャーナリスト解放がお流れになるって踏んでるわけだよな?」


「当たり前だ」

 ジャックは片手をひらつかせ、

「連中がそんな素直なタマか」


「ゲリラが?」

「連邦がだ。これだけ追い詰められて、何もしないって方がどうかしてる――そう思わないか?」


「なるほど――でもまァ、問題はそこじゃねェ」

 ロジャーは指を一本立てた。

「連邦もこのカードは欲しいだろ。仕掛けるとすりゃ、解放の後じゃねェのか」


 ジャックは顔をしかめて天を仰いだ。額に手をつき、舌を打つ。


「そう、」

 ロジャーが頷きかける。

「ドンパチ始まる頃にゃ、お姫様は向こうへ渡っちまってる。鍵があっても開ける手がなきゃ、宝箱は開かねェぜ」


「くそったれ!」

 コンテナの天井を睨んで悪態一つ、

「勝てる目はないか、勝ち目は……」


「確認だが、」

 もう1台のFSX989に体重を預けて、スカーフェイス。

「彼女はただじゃすまないと踏んでるんだな」


「“惑星連邦”は口実を欲しがってる」

 ジャックの眼がスカーフェイスへ。

「実際に確かめる気はないな」


「火付けの口実に使われるってわけだな」

 スカーフェイスは、細めた両眼に火種を宿す。

「じゃ、その前にこっちで火を付けてやるまでだ」


「――それしかないな」

 考えを一巡りさせてから、ジャックが頷く。


「結局は花火じゃねェか」

 ロジャーはむしろ楽しそうに身を乗り出した。

「いいねェ、こういう展開」


「お前ら、人の話を聞いてるのか?」

 バレージが訊く声に不機嫌を隠さない。

「その火事場をどうやって突破するつもりだ」


「経験済みだ」

 ジャックがバレージに向き直る。

「ゲリラは連邦軍を引っくり返す。連邦軍は俺達どころじゃなくなる」


「どうやって?」

 バレージが眉をひそめる。


「“ハミルトン・シティ”じゃ連邦軍の同士討ちが始まった。今回も仕掛けてあるはずだ」


「よりにもよって当てにするのが敵方かい」

 苦い声でロジャーが舌を出す。


「だとして、」

 バレージが腰に手を当てる。

「ゲリラはどうする?」


 ジャックは指を立て、指先を回した。

「引っくり返った連邦軍を始末するのに奔走するさ。その間に、」

 データをそれぞれの端末へ送る。“クライトン・シティ”のほぼ全域に拡がる地下街――その構造図。

「地下街へ潜り込む。ガタイのでかい戦闘車輌は入ってこれない」


「どこまでおめでたく出来てるんだ」

 バレージが首を振りつつ、

「とても正気とは思えん。第一どうやって軌道エレヴェータへ潜り込むつもりだ?」


「決まったのか?」

 ジャックが訊いた。ジャーナリスト解放の場所は公開されていない。


 バレージはこともなげに答える。

「宇宙港“クライトン”、B-4ターミナル」


「あっちゃー……」

 今度はロジャーが額に手を当てた。

「静止衛星軌道かよ」


「まだだ」

 スカーフェイスが腕を組む。

「まだ彼女が軌道に上がったと決まったわけじゃない」


「調べる価値はある」

 ジャックがバレージへ声を向けた。

「端末を貸してくれ。パワーのあるヤツを」


「そもそも今の居所は掴めるはずだな? “ハミルトン・シティ”で使った手がある」

 スカーフェイスが組んだ腕から指を立てた。


 マリィの端末に仕込んだ追跡プログラムのことだと悟って、ジャックが問いを向けた。

〈“キャス”?〉


〈残念だけど、〉

 “キャス”から即答。

〈追跡プログラムなんてとっくに削除されちゃってるわ。第一、向こうにはシンシアがいるんでしょ? こっちの手は筒抜けよ〉


 スカーフェイスへ向けて、ジャックは首を振った。


「どうせお前のこった、コンタクトの手は残してあるんだろ?」

 ロジャーが訊いた。


 ジャックが指を立てて応じた。

「――試してみる」


 ◇


『マリィ、』

 “アレックス”がマリィの聴覚へ呼びかけた。

『“ティップス”の掲示板に書き込みが出ました』


 マリィの眼前にはアンナとシンシア。応じるわけにはいかないのを承知してか、“アレックス”は文字情報を網膜に流した。

 ――タイトルは“プレシジョンAM-35の傷”、内容は“いまコリンズ家の上階か?”


 思わずマリィは息を呑んだ。ジャックと示し合わせたキィワードがそこにある。


「ごめんなさい」

 マリィはソファから腰を浮かせた。

「お手洗い」


 トイレのドアをくぐって閉じる。奥の壁に背をもたせかけ、声を潜めて訊く。

「(“アレックス”、どういうこと?)」


『先ほどのサーチでヒットしました』

 “アレックス”が全文をマリィの網膜へ映し出す。といっても先ほどの文字情報そのまま、それ以上のものはない。


「(ジャックだわ)」

 確信を込めてマリィは頷いた。

「(でも“コリンズ家”って……)」


 ジャックと2人で世話になったコリンズ家は2階建て、その“上階”ということは――、


『あなたの居場所を探りたいのでは?』


「(そうね……)」

 マリィはこめかみに指を当てた。ジャーナリスト解放の場所に思いを巡らせる。伝え聞いたのは軌道エレヴェータ上、上空35000キロにある宇宙港“クライトン”。

「(上階、イコール、軌道エレヴェータの上、ってことかしらね)」


 ジャーナリスト解放の場所は、ニュースで流されていたか――記憶を辿った結果は否。ジャックらは、それすら掴みかねているかも知れない。


『あるいは』


 マリィは肘を抱えた。

「(いいわ、掲示板に書き込みはできそう?)」


『多分』


「(ならこうしましょ。“プレシジョンAM-35の傷(左上)より。今はコリンズ家の庭にいる”)」

 マリィの口述を“アレックス”が文章に直し、それを網膜に映していく。

「(続けて――“空が青くて綺麗なので、庭で犬と遊んでいるところ。犬が離してくれない。時計は14時08分”)」


 “庭”に軌道エレヴェータ外、“空”に空港、“犬”にシンシアの意味を込める。さらに部屋番号1408。ジャックが無事解読してくれるのを、その前に無事書き込めるのを祈りつつ、送信――。


『書き込み――できました』


 安堵の溜め息。

 時期を見計らってトイレの水を流し、手を洗って、マリィは戻る。ジャックとのコンタクトを頭の隅に置きながら。


 ◇


〈ジャック、反応よ〉


「来たか」

 “キャス”の声に、ジャックの声が小さく踊った。


 コンテナの中、バレージを含めた3人から視線が集まる。


 反応があったのは“ティップス”の掲示板。“キャス”が書き込まれた内容を視界に描く。

 いわく、“プレシジョンAM-35の傷(左上)より。今はコリンズ家の庭にいる。空が青くて綺麗なので、庭で犬と遊んでいるところ。犬が離してくれない。時計は14時08分”。


「早かったな」

 ロジャーが感心する。


 ダイレクト・コールを手はじめとして、音声・文字メッセージやニュース広告、果ては“コスモポリタン・ニュース・ダイジェスト”気付の投稿に至るまで、他にも手を尽くしている最中の手応えだった。


「ツイてた」

 ジャックが小さく手を振る。

「“ティップス”の掲示板、キィワードは“プレシジョンAM-35の傷”だ」


「またマニアックな」

 “ネイ”へ指示を出しつつロジャーが反応する。

「どういういわくだ?」


「彼女のブツだよ」

 ジャックが言い捨てる。


 ロジャーが交ぜ返そうとしたところへ、バレージが口を挟んだ。

「傷の場所がどうこうってことは、マリィとやらに間違いないんだな?」


「ああ」

 ジャックがロジャーから眼を離して、頷きを返す。


「“コリンズ家の庭”――1階じゃないのか」

 ロジャーが眉を寄せた。


「“空が青い”ってからには、軌道上じゃないな」

 ジャックが舌なめずりを一つ、

「“庭”か……軌道エレヴェータの外、か」


「“空”と引っかけて、」

 今度はスカーフェイス。

「空港ってことじゃないか」


「それだな」

 ロジャーが手を叩いて頷く。

「こいつはめっけもんだぜ。手が届きそうだ」


「が、“犬が離してくれない”、と――こりゃ見張りってことか?」


「シンシアかもな」

 スカーフェイスが小さく、しかし鋭く指摘する。


「あり得るな」

 ロジャーとジャックが同時に苦く頷いた。


「何者だ?」

 バレージから、当然の疑問。


「顔見知りさ」


 ロジャーが言いさしたところで、バレージが左手を掲げた。ナヴィゲータ“ビアンカ”の声に耳を傾ける。


 青いその眼がジャックらを射た。

「おいお前たち、黒のストライダに乗ってきたな?」


「ああ」

 ロジャーが嫌な予感を覚えつつ答えた。


 バレージが知っているとばかりに続ける。

「ナンバはKTW044326」

 バレージの眼に冷たい光。

「貴様ら、尻尾を掴まれたな」





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

No reproduction or republication without written permission.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ