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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第8章 衝突
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8-2.交差

「ふむ、」

 カレル・ハドソン少佐は小さく頷いた。

「予想通りだな」


 軌道エレヴェータ“クライトン”基部、中央管制室横に設けられた臨時作戦司令室。入り口から壁一面のモニタ群を見上げれば、軌道エレヴェータ高々度からの観測データ――それを元にした“惑星連邦”軍の展開状況が眼に入る。


 “クライトン・シティ”と南郊外の“クライトン”陸軍駐屯地、それを陸と海から囲み、蟻の一匹も逃すまいとする包囲網。海側にはフリゲート戦隊。陸側には前衛の機動戦車と攻撃戦車からなる戦車大隊、後ろに砲兵大隊と機甲歩兵連隊が控え、上空には対地戦闘VTOLと偵察機が遊弋する。さらに上空には戦闘機と早期警戒機が、シティ外縁をかすめて飛ぶ。


「自信満々、正面から押し込むつもりか」


「でしょうな。まさかこっちの“眼”を――」

 言ってアラン・オオシマ中尉は上へ指を向けた。

「軌道エレヴェータごと潰すわけにはいかんでしょう。眼潰しが効かないとなれば、まあ力押しでしょうな」


「まあ、こう騒がれては、」

 ハドソン少佐は顎をなでる。

「さぞ焦っているだろうな」


 軌道上、連絡船襲撃の失態が招いた批判は、時を経るにつれてその勢いを増しつつある。当の“惑星連邦”としては痛恨事もいいところ、事態の収拾を急ぎたくなること、傍から見ていてさえよく解る。


「でしょうな。連中、挑発の大胆なこと」


 無人偵察機の異常接近、攻撃機からのアクティヴ・サーチ、果ては信号弾の応酬――実弾こそ飛ばないものの、“惑星連邦”側の挑発行為はその過激さを増しつつある。攻撃の口実を欲していること、いかなる言葉より雄弁なものがあった。


 オオシマ中尉は小さく首を振る。

「これが美女の誘いだったら文句はないんですがね」


「どうせジャーナリスト解放までだ」

 言下に、ハドソン少佐は意味を込める――つまるところ要人解放、一般人は添え物にすぎない、と。

「後は一も二もなく押し寄せてくるさ」

 言って、少佐は片頬をゆがめた。


「ハドソン少佐」


 中央管制室入り口から、傍目にもいかつい警備兵が入ってきた。ハドソン少佐を見付けて歩み寄る。少佐は眼で問うた。警備兵が答える。

「少佐にお目にかかりたいという兵士が来ております。マクミラン上等兵と名乗っておりますが、お心当たりは?」


 ハドソン少佐の片眉が踊った。

「会おう」


 警備兵に付いて中央管制室入り口へ。興の乗った眼でオオシマ中尉も後に続く。


「誰です?」

「来れば判る」


 ドアをくぐったところで、細身の女性兵士が待っていた。ハドソン少佐の姿を認めると敬礼一つ、


「お久しぶりです。カレル・ハドソン大尉――今は少佐ですか」


 シンシア・マクミランがそこにいた――オオシマ中尉は思わず足を停めた。“ハミルトン・シティ”で殺しかけた女。

 そんな中尉には構わず、少佐は答礼に余裕を見せる。


「無事だったか、シンシア・マクミラン上等兵」


 少佐は相手の、記憶にある本名を口に乗せた。


「は」

 “ハミルトン・シティ”でのやり取りはおくびにも出さず、シンシアが返す。


 ハドソン少佐は小首を傾げた。

「今の今まで、同志だったとは思ってもみなかった。知らぬこととは言え、“ハミルトン・シティ”では面倒をかけたな」


「いえ」

「いや、サラディンの事件にしてからがそうだったな。しなくてもいい苦労をしたろうに」

「任務ですから」


 そこで口をつぐむ。ここからは聞かせられない――その意思が語尾に滲んでいた。


「上等兵が味方についたとは心強い」

 ハドソン少佐はシンシアの肩に手を置いた。

「さて、昔話をしに来たわけではないようだな。用件を聞こうか」


「ありがとうございます、少佐」

 頷き一つ、シンシアは続けた。

「一つ、お口添えいただきたい件があります」


 ◇


 部屋の入口、ドアにノック。


「どうぞ」


 マリィの傍らから応じて女性兵士――シンシアが監視の任を預けた相手。

 マリィの眼が入り口へ飛んだ。ドアが開く、その向こうにシンシア――そこまでは予想がついた。


「マリィ!?」


 シンシアの背後から、記憶にある声が飛んできた。


「――アンナ!?」

 声を上げてから、顔を認める。ショートの赤毛、空色の瞳――間違いない。

「ちょっと、どうしたの?」


「オレが呼んだんだ」

 答えたのはシンシア。

「心配してたろ」


「あ……ありがとう」

 マリィの口に上ったのは、意外、当惑、そして感謝。アンナに向き直り、マリィは小さく口を覆った。

「ああ、よかった……!」


「マリィね?」

 アンナがマリィに歩み寄る。

「本物ね? 間違いないのね?」


「そっちこそ」


 抱擁――互いの無事を確かめ合う。次いでアンナの右手がマリィの肩を掴んだ。顔を確かめるように頬に手を添え、慨嘆をもらす。


「ああもう、独りで男に付いてっちゃうわ、ゲリラん中に飛び込んで行っちゃうわ、いつの間にそんなアクティヴになっちゃったのよ?」


「やめてよ」

 マリィは首を振った。

「それじゃ私が跳ねっ返りみたいじゃない」


「跳ねっ返りじゃ済まないわよ!」

 アンナも右手がマリィの頬を軽くつねる。

「このおてんば! 鉄砲玉! 向こう見ず!」


「ひどいわ」

 マリィが苦笑する。


「ひどいのはどっちよ!」

 アンナはマリィの額に指を立てる。

「こっちはもうオケラもいいとこ。出せるカードもチップも出し尽くしたわよ」


「どうだい」

 シンシアが控えめに割り込んだ。

「逃げる気はなくしたかい?」


「――あなたの勝ちね」

 振り返り、マリィは両の手を掲げた。これでは人質を取られたに等しい。もっとも、安心するのはまだ早い――そうマリィは感じていた。シンシアの言う通りなら、このまま何事もなく地球に帰されるはずがない、と。


 ◇◇◇


「ええ、見ましたよ」

 中古車ディーラ“マクレー”のカウンタで、禿頭の店主が頷いた。


「3人とも?」

 問いを重ねたのは小太りの警官。横に若い相棒、こちらが手にしたペーパ・ディスプレイには、ジャックら3人の顔写真。


「いえ、この真ん中のブロンド」

 店主は太い指で右端、ロジャーを指差した。ペーパ・ディスプレイを手に取り、見入る。

「間違いないですよ。何かあったんですか?」


「凶悪犯でね」

 それだけを、警官は返した。


 うそ寒い顔で、店主は肩をそびやかした。


「登録ナンバは?」


「ええ、と。ちょっと待って下さいよ」

 店主が脇の端末を覗き込む。


 ◇


 直後、警察と軍のネットワークに情報が流れた。


『目撃情報。“リトル・キャット”強奪犯の足が判明。車種は黒のストライダ、登録ナンバKTW044326』


 次いで、幹線道路の監視システムに検索がかけられた。主要道路各所に設けられたカメラの記録映像から、登録ナンバと運転者の顔を手がかりに該当車輌が洗い出される。“トリオレ・シティ”を西へ抜けるところまでは足取りが掴めたものの、その先には該当なし。

 捜索範囲が拡大された。幹線道を避けて通ったと仮定して、街頭や農場の監視カメラ、その他アクセスできる限りの画像情報を力任せに洗っていく――。


 結果、大陸西部は“ヴィアン・シティ”に最新の“足跡”が見付かった。港湾区入り口に設けられた公共警備カメラが捉えた後ろ姿、そのナンバ・プレートに“KTW044326”。





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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