表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第7章 断絶
57/221

7-6.暁闇

『“ワールズ・ニュース・ネットワーク”、ローラ・キャヴェンディッシュです。混乱の続く惑星“テセウス”情勢についてお送りします。地球人ジャーナリストが独立派ゲリラに拘束されている件で、ゲリラ側はジャーナリスト8名を解放すると宣言しています。期日まであと3日、事態の推移に注目が……』

『“惑星連邦”政府は、惑星“テセウス”の主要3都市を対象に避難命令を発令しました。対象となるのは、“クライトン・シティ”、“ハミルトン・シティ”、“サイモン・シティ”です。該当地域の市民の皆さんは、落ち着いて、防災シェルタへ避難して下さい。繰り返します……』


 ◇◇◇


〈逃げられたァ!?〉


 レナード・ヒル中尉は声を上げた。データ・リンク越し、“ハウンド2”からの声に萎縮の色。


 航法系統と操縦補佐系統にクラッシャを食らった“ハウンド2”は、上空へ退避せざるを得なくなった。機載スキャナを使って“ハウンド1”を捜索したものの、思わしい結果は出ていない。


 “ラッセル”陸軍駐屯地からは空軍に要請が飛んでいるはずだった。“クライトン・シティ”西方面を哨戒中だった早期警戒機P-48Aアルテミスがこちらに向けて進路を変えつつあるところ、それでも到着までに1時間はかかるという。


 ヒル中尉は通信機のマイクを握りしめた。

〈了解。“リトル・キャット”と“ハウンド1”の捜索は空軍に任せる。“ハウンド2”は合流地点へ〉

 告げて、ヒル中尉は回線を切り替えた。


〈“コレクタ”へ、こちら“チェイサ1”〉


 衛星レーザ回線で“ラッセル”陸軍駐屯地へ声を送る。


〈こちら“コレクタ”、送れ〉

〈こちら“チェイサ1”、“リトル・キャット”と接触なるも、妨害分子により確保ならず。繰り返す。確保ならず〉

〈こちら“コレクタ”、“妨害分子”とは何か〉

〈こちら“チェイサ1”、妨害分子は2勢力、1つには“リトル・キャット”強奪犯と思われる一団、2つにはゲリラと思われる一団〉

〈こちら“コレクタ”、妨害分子の情報はないか〉

〈こちら“チェイサ1”、これより送信する。しばらく待たれたい〉


 ヒル中尉は背後、ニーソン兵長を手招いた。

 ニーソン兵長が端末を通信機へ接続する。ナヴィゲータがデータを送り出した。――ジャックら3人の外観データ、所持していたクリスタルのデータ・コピィ。ゲリラとの戦闘情報に、戦死者の視覚情報。


〈こちら“コレクタ”、データを受領した〉

 “ラッセル”陸軍駐屯地から回答が返る。

〈こちらで調査する〉


 ◇


 フォーリィ中尉は鼻を鳴らした。


 “ラッセル”陸軍駐屯地、情報分析室。中央指揮所から回されてきたデータを、情報分析担当の中尉はディスプレイに呼び出していた。


 まず1件目、“ジャック・マーフィ、自称賞金稼ぎ”――とある。


「賞金稼ぎの申告ごとき、」


『期待にも値しませんか』

 ナヴィゲータ“スー”が語尾を継ぐ。


「ま、そういうこった」

 データ・ベースに照会をかける。賞金稼ぎの登録データにヒット。経歴未記入――案の定。

「これからが本番ってこと、だ」


 さらに照会。氏名は無視して、外観の特徴から力技でデータを漁らせる。しばらく間。

 席を立ち、空いたマグ・カップにポットのコーヒーを注ぐ。席に戻って画面を眺めると、なお検索中。


 その横で2件目、“ロジャー・エドワーズ、自称賞金稼ぎ”を照会する。結果同じ。同様に、力技でデータを検索。


 さらに横、3件目。“エリック・ヘイワード、所属なし”のデータを出す。


「何だこいつ?」

 中尉は眉をひそめた。隣の隣、ジャック・マーフィと瓜二つ。思わず見比べて首を傾げ、それから照会。今度は即座にヒットがあった――軍籍情報、ただし死亡。日付は2年前。


 興が乗ってきた。


『楽しんでますね?』

「やっと乗ってきた」


 今度は“ジャック・マーフィ”が所持していたというクリスタルのデータを当たる――暗号化されていた。


「“スー”、“エルキュール”を使え」


 日頃から鍛えてきた暗号解読ツールを投入する。最初の結果はすぐに出た。


「ほォ、」

 フォーリィ中尉が舌なめずりをひとつ、

「臭うね」


 “テセウス”駐屯部隊、陸軍第3軍第2連隊の一部からなるリスト。物資の流れを表す図。そこに上がっている名を照会すると、一部は“死亡”、大多数は“消息不明”と出た。


「“消息不明”か」

 フォーリィ中尉が眼を細める。数日前ならいざ知らず、現時点での“消息不明”はまず“ゲリラに加担”または“ゲリラに排除された”のいずれかと言い換えてまず間違いない。


 中尉はインタフォンへ手を伸ばした。


「こちら情報分析室、」

 フォーリィ中尉の声に昂りが混じる。

「速報です。“チェイサ1”のデータですが……」


 ◇◇◇


 機体が速度を落としつつある――それが体感できた。


 マリィ・ホワイトは所在なげに横、壁面を眺めていた。


 UV-88アルバトロスの貨物室、窓といえばスライド・ハッチにしか付いていない。

 周囲はしかめ面の兵士たち。満ちているのは殺気立った沈黙。眼のやり場がなかった。

 振動が大きくなる。機体が揺れた。操縦室から分隊長が声を上げる。兵士が左ハッチへ走り寄り、ノブに手をかけて開け放つ。


「降りるぜ」


 眼を上げると、傍らにシンシア・マクミランが立っていた。ヘッド・レストに手をかけて、前方を示す。マリィは腰を上げた。


 導かれて外へ降り立つ。眼の前には小さな山と、側を通る田舎道、そして軍用トラック。

 下降気流にあおられ、亜麻色の長い髪を押さえながら、トラックへ。ろくに外を見る暇もなく、マリィは幌で覆われた荷台へ上がった。簡易座席に腰を下ろす。


「どこへ行くの?」


 乱れた髪をまとめながら、マリィは傍らのシンシアに訊いてみた。


「もうすぐ自由の身になれる」

 シンシアは肩をすくめた。

「あんまり心配しなくていいぜ」


 幌の向こうに、再び離陸するアルバトロスのロータ音。トラックが走り出した。


 ◇◇◇


 夜が明ける――。

 薄れ行く闇に、この夜いくつ目かの街の灯が滲む。


「降りるぞ」

 ジャック・マーフィが宣した。網膜に映した地図と地形を睨みながら、アルバトロスを減速させる。


「まだいけるんじゃねェのか?」

 後ろから計器を覗き込んだロジャー・エドワーズが問うた。燃料計には若干ながら余裕がある。


「夜が明けたら下からも上からも丸見えだ」

 応じるジャックの声に疲労の色が濃い。

「こいつじゃ目立って仕方ない」


「マリィはどうする?」

 スカーフェイスが疑問を挟む。


 正面を向いたままジャックが答えた。

「こっちも隠れんぼの最中だ。相手を見つけるのは――まあ贅沢ってもんか」


 夜通しアルバトロスを飛ばしたが、マリィを乗せた機体の痕跡は見当たらない――それも無理からぬことと得心はいった。

 なにせ自分も隠れに隠れ、サーチ網を避けて匍匐飛行、さらに識別信号その他一切の電波発信を絶ってきている。自分が隠れているなら他機が隠れられない道理はない。


「行き先は判ってんだ」

 ジャックは唇を噛みつつも、

「別の足を手に入れるさ」





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

No reproduction or republication without written permission.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ