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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第7章 断絶
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7-3.乱戦

 弾幕が薄くなったのを幸い、敵は眼に見えて丘へ後退し始めた。ニーソン兵長がそこを狙撃、1人、2人――そこまで。


 一直線には追えない。ブラヴォ班が東側から牽制する間に、アルファ班はブラヴォ班を追って移動する。


 その眼前、照明弾が撃ち上がる。頭上から、嘲笑うようにロータ音が降ってくる。次第に大きく――、

 上空、照明弾の白い光を浴びて、暗緑色のUV-88アルバトロスが通過した。ややあって旋回、両側面スライド・ハッチを開放した機体が機首を巡らせ、照明弾へ接近する。


 敵からの弾幕が勢いづく。再び榴弾が爆発した。


〈くそったれ!〉


 アルバトロスは翼端、ターボシャフト・エンジンを上へと向けて速度を落とす。ロータの下降気流で地上を薙ぎながら、信号弾のすぐ横へ垂直降下。見る間に機体は接地した。


〈くそ、エンジンを狙え! 撃て、撃て!〉


 ヒル中尉の声を遮り、さらに追い討ちの榴弾が炸裂した。


 ◇


〈行け! 行け! 行け!〉


 分隊長の声が人工の暴風を裂く。弾幕を張りつつ、“テセウス解放戦線”の面々はアルバトロスへひた走る。

 機体右側面のハッチから、最初に副長が乗り込んだ。突撃銃を敵へ向けて掩護の弾幕。

 続いて2人目が、マリィを機内へ連れ込んだ。貨物室を縦断して機体後部、2列シートにマリィを座らせる。説明の手間さえ惜しんで腰部、安全ベルトを締めてやる。

 3人目。両手を拘束したシンシアを引き入れ、マリィの隣りに座らせる。

 1人はハッチ脇へつき、機体へは入らず軽機関銃LMG156グラインダで掩護の弾幕。

 4人目、5人目、6人目――。


〈機長?〉

 周囲を警戒していた副操縦士が、機長の様子に気付いた。


〈ありゃ何だ?〉

 機体左側に動き。機長が疑問を口に出す、その間に左側面ハッチから踊り込んだ影がある。


 体当たり――1人が吹っ飛んだ。ハッチに手をかけた7人目を巻き込んで、機外へ転がり落ちる。


「頭下げてろ!」


 マリィとシンシアが眼を向けた。

「ジャック!?」

 

 ジャックが突撃銃AR113ストライカを逆手に、銃床でもう一人を突き飛ばした。

 マリィが頭を抱え込む。機内で銃声――侵入したスカーフェイスの一連射。SMG595短機関銃で1人を薙ぎ倒したところだった。

 さらに一連射、もう一人を機外へ撃ち落とす。


 応射。ライフル弾がハッチを貫いた。


〈撃つな! 撃つな!!〉


 副長が声を上げた。言う間にコンバット・ナイフを抜き、スカーフェイスへ突きかかる。

 さらにロジャーが踊り込む。操縦室へ踏み入るや、左手を機長席の襟元へ。ヘッド・レストへ押し付け、機長の首を締めにかかる。


〈飛ばせ! すぐ飛ばせ!〉


 右手で短機関銃を副操縦士に擬す。副操縦士は両手を上げた。機長は抵抗、両の手でロジャーの腕を引き剥がしにかかる。


〈このやろ、さっさと飛ばせってんだ!〉


 ◇


 短機関銃で、スカーフェイスがナイフを弾いた。

〈操縦室を!〉


 さらに斬りつけつつ、副長が叫ぶ。1人が声に従った。操縦室入り口へ。


 ◇


 ジャックは突撃銃を持ち直し、ハッチの外へ3点連射。

 機内へ戻りかけた1人が血を吹いて倒れた。さらに連射。もう1人。

 横から1人が掴みかかる。かわして、ジャックは横薙ぎに銃床を叩き付けた。相手が肘でそれを受ける――と、音を立てて銃床が割れた。


〈くそったれ!〉

 罵りつつ、ジャックはさらに銃を振るった。

〈これだから官給品は!〉


 ◇


 背後――操縦室の外から、ロジャーの右腕へごつい手が伸びる。咄嗟に銃を引く――と、それを追うように兵が踏み込む。近い。

 ロジャーは足元、相手の左足を踏みつけた。怯んだ隙、その顔面へ銃把を振るう。入った――が、敵はその腕を掴んで引いた。ロジャーの上体が傾き、左腕が機長の首を締め上げる。


「――!」


 機長の、声にならない悲鳴が感触として腕へ伝わる。

 敵がさらにもう一方、ごつい手をロジャーの顔へと伸ばす。さすがにロジャーは腕を離した。

 掴み合いになった。操縦室からロジャーが引き出される。


 ◇


〈!?〉

 ヒル中尉の感覚が察して異常。弾幕が薄くなった――だけでなく、ゲリラの動きが鈍ったようにも見える。

 賭けに出た。号令を発する。


〈ブラヴォ班突入! 懐へ飛び込め!〉


 ◇


 アルバトロスの機体へ着弾。気絶した仲間を担いで、左側ハッチへ回り込んだゲリラがハッチをくぐる。その背後、もう1人を担ぎ込みながら分隊長が続いた。


〈敵が来るぞ! 上がれ! 上がれ! 上がれ!〉


 言う間にも着弾の音が弾ける。機長は荒い息をつきながら、スロットルを開けた。


 ◇


 追い付かない――ヒル中尉は歯を軋らせた。

〈撃て! 撃て!!〉


 ◇


 アルバトロスが離陸する――浮遊感。

 ナイフの切っ先がわずかに狂った。スカーフェイスは短機関銃ごと受け流すや、副長の喉笛へ貫手をくれた。手応え――痙攣。

 相手の身体が力を失う。その右手から1人――先ほど左ハッチから入った男。ホルスタからコンバット・ナイフを抜きざまに斬りかかる。


〈よくも!〉


 手を引き抜くや、スカーフェイスは深く踏み込んだ。相手の肘が肩に当たる。

 右手を添えて、左肘を相手の腹へ衝き込む。相手はたまらずよろめいた。

 追いすがる間もなく、今度は左手から分隊長。貫手が首を狙ってくる。


〈!〉


 左腕でいなす――と、すかさず胴へ掌底が来た。跳び退る、が間に合わない。体勢が崩れる。

 そこへ先ほどの男が加わった。ナイフの突き。

 防戦になった。


 ◇


 ロジャーは相手の足を引っかけた。勢いを乗せ、体重を預けて床へと倒れ込む。

 相手はロジャーの左手を離さない。ロジャーも相手の左手を離さない。

 ロジャーは上から頭突きをくれた。加えて頭突き、さらに頭突き。


〈調子に……〉

 鼻声の相手がしゃにむにロジャーを押し返す。

〈……乗りやがって!〉


 体勢が引っくり返った。ロジャーが下になる。さらにロジャーが転がろうとして――途中で止まった。力が拮抗、二人が膝を立てる。


 ◇


 機体の揺れに乗じて、ジャックは銃床の割れた突撃銃を投げつけた。束の間、相手の注意が逸れる。


 すかさず踏み込む。喉元へ右の貫手。


 すんでのところでいなされた。右手が首筋を弾く。

 さらに左の掌底を突き上げた。相手は右腕でこれを阻む。


〈この!〉


 相手から拳。ジャックは避け――たと思ったら襟首を掴まれた。

 頭突きが来る。左手で阻む。ジャックは相手の顔に爪を立てた。


〈があッ!〉


 相手が力任せに襟首を引く。足払い。それをかわして、ジャックはさらに踏み込んだ。逆に相手の軸足を払う。

 横倒しになった。ジャックが上を取る。


 ◇


 スカーフェイスは突き込まれたナイフをいなした。柄元を手首ごと押さえ込む。

 そこへ、分隊長の掌底。よけ切れない――肩で受ける。

 スカーフェイスが平衡を崩した。床へ倒れかかり――下から足を振り上げる。


〈ロール、右だ!〉

 すんでのところでその足をかわし、分隊長が叫んだ。

〈右ロール! ロール!〉


 ◇


 機長は操縦桿を右へ倒した。地形に沿って匍匐飛行中のアルバトロス、その機体が右へと傾斜する。


 ◇


 スカーフェイスが跳ね起きる。その懐、分隊長が飛び込んだ。足を刈り、投げ放つ。


〈!〉


 スカーフェイスが背から床へ――操縦室前、ロジャーの足元へ。


〈うわ!〉


 ロジャーが体勢を崩した。その鼻面を頭突きが襲う。怯んだところを突き飛ばされて、ロジャーは下――右ハッチの際へ。馬乗りになったジャックの上体へぶつかる。


 バランスが崩れる。


〈おおッ!〉


 ジャックの下から、兵が渾身の力を絞り出した。ジャックの身体を跳ね上げる。

 さらに傾斜。ジャックの身体は床へ転がり、さらに滑り、ハッチの外へ。


 すんでのところでハッチ際、左手一本でぶら下がる。


 その横を、ロジャーの身体が落ちていく。ジャックは手を伸ばした。ロジャーも手を伸ばす。


 その手が――空を切った。ロジャーが眼下、流れる樹々の流れに消えた。


〈くそ!〉


 見上げたところに敵の右足。


 ◇


 起き上がりざま、横から足が飛んできた。

 スカーフェイスはその足首を掴むや、全身の力で持ち上げる。右ハッチへ転がるその敵も見届けず、分隊長へ向き合う――なり、貫手が飛んできた。

 左手で逸らして踏み込み、返して掌底――その背中に組み付いて来る敵があった。


〈!〉


 反射的に背後へ肘。振りほどくと今度は眼の前に分隊長――ともう1人。

 さらに背後、今度は腰に組みかかる。左へ避け――かけたところへ、斜め前からすがりつく。


〈出せ! 放り出せ!〉


 分隊長が叫びを上げる。寄ってたかってスカーフェイスを担ぎ上げ、3人がかりで左ハッチへ。


〈やれ! 放り出せ!〉


 振りほどこうと、スカーフェイスがもがく。


 ◇


 敵がジャックの左手をハッチ際から蹴り剥がそうと構える咄嗟に右手、ジャックは敵の左足首を掴み取った。

 わずかに怯み。さらに左手を敵の足首へ。ジャックの全体重を受けて、敵の体が滑り出す。すかさず右手をハッチ際へ。力を込めて左手、敵の身体を引きずり出す。

 敵の足がハッチ外の宙を掻く。焦ったように、敵は腰の拳銃を抜いた。その腰に左手をかけると、ジャックは自身を引き上げた。その勢いを利して機内へ転がり込む。


〈この――!〉


 振り返りかける相手の上体へ、低い姿勢から後ろ蹴り。悲鳴を後に引いて、相手の姿が闇へと消えた。

 前へ向けば敵が3人。その頭上にスカーフェイス。もがくその身体を、今まさに放り出さんとするところだった。


〈このォ!〉


 雄叫び。全員の注意が、わずかに逸れた。手前の一人、腰へ組み付く。

 スカーフェイスが宙に浮いた――が、敵の腕にしがみつき、引きずり込まんばかりに手繰る。


 一瞬、力が均衡する。それが崩れた――外へ。


 スカーフェイスが、それに引きずられてゲリラが、さらに支えるジャックの上体が気流の中へ。

 踏ん張り切れない――そう思う間に持っていかれた。


 あっという間。2人の姿は闇の中へ。


 反射的に身を沈める。その頭上、肘打ちが宙を切った。

 伸び上がりざま体当たり。もろともに機体の中へ倒れ込む。背後からその足を分隊長が掴みにかかった。両の脚を大きく振り回し、その手を跳ねのける。勢いで起き上がり、分隊長へ打ちかかる――。


 そこへ衝撃――横合いからの掌底。


〈!?〉


 上体が乱れた。勢いが崩れた。その手首を分隊長が取った。懐へ滑り込み、体を持ち上げ、放り投げる――。


 宙に浮いたジャックの眼に、掌底の主が映った――シンシア。


〈な……!〉

「ジャック!」


 マリィの悲鳴――眼前の光景がかき消えた。ジャックの視界に、昏い宙空が拡がった。



著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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