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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第6章 奪取
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6-9.争奪

「休息!」


 ヒル中尉が宣言した。


 日暮れまでに、追跡隊はジャックたちの足跡をさらに辿っていた。

 確認した休息跡はさらに2つ。目標との差は大きく縮んだ――その確信がヒル中尉にはある。


「中尉」

 ペイトン軍曹が中尉へ声をかけた。

「具申します」


「何か」

「目標との距離は至近と考えます。休息しつつ斥候を出し、距離によっては、未明に仕掛けるのが得策かと考えます」

「根拠は?」

「戦闘食のパックが埋めてありました――まだ余熱があります」

「よし、シャベス! 小休止後、マッケンジィを連れて索敵に出ろ。他は休息、目標は近いぞ!」


 ヒル中尉は赤ら顔の通信兵を手招きした。その背の衛星レーザ通信機へ手を伸ばす。


「“コレクタ”へ、こちら“チェイサ1”。定時連絡1800。引き続き目標を追跡中。近く接触できるものと信ず。現在位置データを合わせて送信する。以上」


 ◇


 ヒル中尉の報告はレーザに乗り、静止衛星軌道上の軍用通信衛星を介して、“ラッセル・シティ”郊外の“ラッセル”陸軍駐屯地――その中央指揮所へ飛んだ。


 中央指揮所の通信士が、傍らの少佐と目配せを交わす。


「“チェイサ1”、こちら“コレクタ”。了解した。任務を続行せよ。以上」


 少佐が振り返る。基地司令が壁面、“ルイーダ”川流域を映した地図を眺めながら頷いた。当番兵が運び入れたマグ・カップを受け取り、コーヒーをすする。


 その姿を横目に、情報担当士官がわずかに指を動かした。そのナヴィゲータが指の動きを読み取り、ヒル中尉の報告を暗号に変換した上で、別の回線へと送り出す。


 その場で気付いた者は、もちろん誰もいなかった。


 ◇


〈座標、来ました!〉

 “ルイーダ”川流域、着陸待機しているVTOL機UV-88アルバトロス。その機体に付されたシリアル・ナンバは“ラッセル”陸軍駐屯地のものではない。

 その操縦席、汎用ディスプレイに、“ラッセル”陸軍駐屯地からリークされた座標が映る。

〈よし、離陸準備!〉

 操縦室から貨物室へ通じるドア横、野戦装備の分隊長が指示を出した。貨物室に詰めていた分隊が機外へ駆け出し、アルバトロスのカムフラージュ・シートを外しにかかる。

〈戦闘準備! 連邦の眼の前から獲物をかっさらうぞ!〉


 ◇◇◇


 銃声――。


 通信兵が左足をやられた。


〈敵襲ッ!〉〈北北西より銃撃!〉


 ヒル中尉以下、休息中の全員が突撃銃を構える。


〈シャベスとマッケンジィは!?〉


 伏せ撃ちの姿勢を取りつつ、ヒル中尉が問いを投げる。


〈まだです!〉


 答えたのはペイトン軍曹――その肩に命中弾。さらに銃声。また通信兵の足に命中。


〈くそったれ! 敵は狙撃兵2! 1時半方向、400メートル!〉

 銃火を見たヒル中尉が叫ぶ。

〈ブラヴォ班応射! アルファ班前進用意!〉


 敵へ向けて、分隊が連射を放った。弾幕の陰で、分隊の半分が敵の側面へ向けて前進する。


〈手榴弾ッ!〉


 前進中のアルファ班から声が上がる。次いで爆発。


〈弾幕どうした!〉


 ヒル中尉が声を張り上げる。その声に味方の銃声が重なった。

 分隊が前進する。


〈敵、後退しています!〉


 アルファ班から声。ヒル中尉の目にも敵の銃火が映った。先刻より位置は後退している。


〈アルファ班掩護! ブラヴォ班前進!〉


 前進したアルファ班が掩護役に転じた。その銃火に隠れて、今度はブラヴォ班が前に出る。ヒル中尉も腰を上げ、アルファ班を追う。


 ◇


「生きてるか!?」


 ペイトン軍曹が、通信兵を助け起こす。


「はい」

 痛みに顔をしかめつつも、通信兵は答えた。

「軍曹殿こそ」


 分隊は負傷した2人を置いて前進している。


「よし、傷は浅……」


 そこで軍曹の声は途絶えた。そのまま横に倒れ伏す。


 背後にジャックの姿があった。


 その姿を目にした通信兵が、声を上げかける――が、声は出なかった。みぞおちにジャックの爪先を食らい、呻きともつかぬ声を上げて通信兵は悶絶する。

 ジャックは通信兵の背、衛星レーザ通信機のベルトに手をかけた。力を失った身体からベルトを外し、通信機を引き剥がす。


 ◇


 背後で遠く、銃声が響いた。

 マリィは息を切らしながら振り返る。


「始まったな」


 前方、シンシアが呟いた。


「さあこっちだ。今は時間を稼がないとな」

 シンシアがマリィを手招きする。

「ジャックのヤツが連中から通信機をかっぱらってきたら、そん時こそあんたの出番だ。いいとこ見せてやんな」


 マリィがシンシアへ向き直る。シンシアは頷きを一つ返した。

 ジャックたちの持つ携帯端末では、回線を維持できる距離が極めて短い。だが、軍用の衛星レーザ通信機を介するなら話が違う――それがジャックの目論見だった。軍の回線を通じてネットワークに接続できさえすれば、目的は達せられる。


「今は歩くぜ」


 ◇


〈深追いするな!〉


 前進する分隊へ、ヒル中尉が警告を投げる。

 敵は明らかに後退していた――彼我の差が縮まらない。


〈警戒しつつ後退!〉

 指示しつつ、ヒル中尉は振り返る。

〈負傷者を……〉


 中尉の眼が通信兵を向き――そこで止まった。


 見覚えのない人影。


〈後方に敵ッ!〉


 ヒル中尉は声を上げた。振り返りざま、突撃銃の銃口を人影へ。

 そこへ背後から乱射。後退しているはずの敵が、今度は攻勢に出ていた。


〈くそ! ブラヴォ班、前方の敵を食い止めろ!〉

 ヒル中尉は指示を飛ばす。

〈ニーソン、ホーカー、付いてこい! 後方の敵を追跡する!〉


 ヒル中尉が、ジャック目がけて飛び出した。2人の兵が後に続く。

 人影――ジャックが分隊の側面へ駆け出した。その背中、装備の影に既視感。


〈通信機が!〉

 負傷兵を視界に収めたホーカー上等兵が、中尉へ告げた。


〈通信機だ!?〉

 思わず、ヒル中尉は訊き返した。ジャックの背中、膨らんだかのような影に目を向ける。

〈くそ、ヤツの狙いはそっちか!〉


 ヒル中尉が膝をついた。ジャックの背に狙いをつけ、引き鉄を絞る。

 弾丸は木立に阻まれた。その向こうをジャックが駆け抜ける。


 舌打ち一つ、中尉は再び地面を蹴った。

 ジャックが振り返る――手榴弾が飛んできた。

 たたらを踏んで中尉が止まる。兵2人は地面に身を投げ出した。


 爆発――。


 吹き上がる土くれに紛れてジャックが逃げる。

 その背へ、ヒル中尉がもう一度突撃銃を構え――引き鉄を絞った。


 ◇


 衝撃が背を衝いた。

 ジャックは斜め前へつんのめり、頭から転倒した。


 金属音が耳に障る。嫌な予感――。


 地面に這い、突撃銃を構える。構えながら、五体の感覚を確かめた――まだ無事。

 銃弾の来た方向へライフル弾を盲撃ち。それで相手を牽制し、手近な樹の陰へ踊り込む。

 着弾の痕がそれを追いかけ――樹の表皮に阻まれた。

 再び牽制の一撃をくれて、ジャックは肩のベルトを外してみる。


 通信機がやられていた。


 一縷の望みを託して、電源スイッチを入れてみる――反応しない。

〈くそ!〉


 ジャックは通信機――その残骸――を殴りつけた。


〈考えろ、くそ、考えろ――!〉


 まずは逃げなければならない。

 ジャックは通信機を放り出した。残骸に銃撃が集中する。反対側へジャックは飛び出した。


 眼前に敵――回り込まれていたのだと遅れて気付く。


 懐へ飛び込んだ。銃を跳ねのけ、襟首を引っ掴むや足を払って馬乗りに。


「動くな!」


 銃口が2つ、ジャックを冷たく睨んでいた。

 至近に1人、離れて1人。ジャックを追いかけてきていた顔ぶれと知れた。


 反射的に身体が動いた。


 組み敷いた相手と体を入れ替える。腕を後ろ手に取ると、上体を起こして盾にする。

 その脇を、銃弾が2発すり抜けた。威嚇――の声を聞く前に、至近の敵へと向けて銃口。

 と、“盾”が足を絡めに来た。ジャックは受け流す。が、射線が狂った。

 “盾”が勢いそのままに、全体重でのしかかる。バランスが狂う。

 ――隙を衝かれた。至近の敵が突き出して銃床。首筋をしたたかに打たれて、ジャックは転倒した。“盾”が身体を引き剥がす。残りの2人が、今度こそジャックへ銃口を突き付ける。その背後からも、“盾”の銃口がジャックを睨んだ。

 ゆっくりと、ジャックは両手を上げた。


 ◇


〈“キャス”からバースト通信!〉

 “ネイ”がロジャーへ告げた。

〈ジャックが捕まったわ〉


〈くそったれ!〉

 ロジャーがスカーフェイスへ声を向ける。

〈あのバカ、捕まりやがった!〉


〈蹴散らすぞ!〉

 弾幕を張りながら、スカーフェイスが腰の手榴弾へ手を伸ばす。

〈掩護しろ!〉


〈待てよ、手前まで捕まるつもりか!?〉


〈クリスタルはジャックのヤツが持ってる〉

 スカーフェイスが手榴弾を投げる。敵陣に警戒の声が上がった。


 爆発――。スカーフェイスが突入する。ロジャーは敵陣へ向かって乱射を浴びせた。


〈どいつもこいつも世話焼かせやがって!〉

 ロジャーが喚く。

〈そいつァ俺の役だ!〉


 と、首筋に冷たい感触――。


「動くな」


 ロジャーの指が、そこで止まった。


 ◇


「あンのドジ!」

 シンシアが吐き捨てた。


「そんな……」

 マリィも同時に膝をつく。


 2人のナヴィゲータが示したのは、ジャック達3人からバースト通信で伝わった緊急コードとその意味――追っ手に捕まった、その事実。


「言い出しっぺがしくじってどうすんだよ!」

 暗い天を仰ぐこと数秒、シンシアはマリィの手を取った。

「行くぜ」


 マリィがシンシアの眼を見上げる。手を伸ばし――かけて、彼女は気付いた。視線がシンシアの背後へ飛ぶ。


「何?」

 気付いたシンシアが、マリィの視線を追う。その先――樹の陰から銃口が覗いていた。

「回り込まれた?」


 疑問を抱きながら、しかしシンシアは手を上げた。この状況で、選択肢は他にない。


「動くな」


 誰何さえせず、周囲から兵が姿を現す。そのいずれもが、銃口を2人へ向けていた。







著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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