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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第5章 事実
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5-8.直面

〈“スレッジ・アルファ”は私に付いてこい。“ブラヴォ”は敵を発見したら背後へ回れ〉

 ハドソン少佐が分隊へ指示を飛ばす。

〈敵は少数だが精鋭だ。気を抜くな!〉


 後衛の掩護のもと、前衛が梯子に足をかけた。各班の前衛が下層の安全を確認、残る4人が1人づつ、ただし速やかに続いていく。


〈“ハンマ・ヘッド”へ、こちら“アルファ1”! トラップを発見!〉

  “アルファ1”こと、“アルファ”班の前衛が告げた――梯子の上端に、細いワイアと手榴弾。

〈無力化します〉


 前衛が粘着テープでトラップの作動を封じにかかる。


〈“アルファ1”へ、こちら“ハンマ・ヘッド”〉

 ハドソン少佐の高速言語がデータ・リンクを駆ける。

〈処置を待つ〉


 ◇


 銃声――。


〈敵発見!〉

 “アルファ2”から声が飛ぶ。

〈エレヴェータ・シャフト南側、1層下!〉


 “アルファ2”の視線の先には、奪った突撃銃を手にしたエリック。エレヴェータ・シャフト外壁を盾に、前衛を狙って一連射。

 “アルファ1”の肩に1発が当たる。バランスを崩しかけた“アルファ1”は、しかし梯子の裏に回り込んだ。残りの弾丸は梯子をかすめて虚しく過ぎる。


 上層に残る後衛が、一斉に応射した。エリックへ両面から銃撃が襲いかかる。

 さらに下層、やはりエレヴェータ・シャフトを盾にジャックが掩護する。エリックは、今度は単発で一撃。ただし狙いを据えたのは――トラップの手榴弾。


 ◇


 手榴弾への一撃――。梯子ごと“アルファ1”が、直上の“アルファ2”を巻き込んで吹き飛んだ。


〈“アルファ1”がやられました!〉〈“アルファ2”、応答なし!〉


 エリックの影が後退する。手摺からワイアを降ろして懸垂降下。掩護するジャックの後ろを過ぎ、さらに下層を目指して滑り降りる。


〈私がやる、掩護しろ!〉


 ジャックの掩護射撃をかいくぐり、少佐が一撃。


 ◇


 弾丸が手摺を直撃した。ワイアの根本が断ち切られる。エリックは支えを失った――転落。


〈くそッ!〉


 ジャックが反撃。そこへ上層、2箇所から少佐たちが応射する。ジャックを釘付けにしておいて、“ブラヴォ”班の前衛“ブラヴォ1”が前進した。

 “ブラヴォ1”が銃口をジャックに向けかけ――しかしその頭をジャックが撃ち抜く。


〈数で押せ!〉


 その頭上、さらに“ブラヴォ2”がワイアで降下。ジャックを挟んで反対側、“アルファ3”もそれに続く。


 ◇


 ジャックは眼前、降り立った“ブラヴォ2”の肩へ一撃。“ブラヴォ2”は弾き飛ばされた――が、手摺を掴んで踏み留まる。射角が浅い。

 舌打ち一つ、ジャックは背後の“アルファ3”へ手榴弾を放り出した。それを蹴飛ばす“アルファ3”には眼もくれず、ジャックは“ブラヴォ2”の眼前、梯子を下層へ滑り降りる。


 空中で爆発。


 爆煙に紛れて、ジャックは1段下層へ足をつく。その上方、床板を撃ち抜いて、盲撃ちの銃撃がジャックの後を追いかけた。ジャックの軽装甲ヘルメットが跳弾を弾く。ヴァイザが割れ、ジャックは平衡を崩しかける。

 ジャックはさらに下層へ逃げた。今度は着地し、ヘルメットを脱ぎ捨てる。


 ◇


〈追え! そう何箇所にも罠は張れん!〉


 少佐の命令一下、分隊が梯子を滑り降りる。掩護の弾幕がジャックの周囲を覆う。


 ◇


 眼前に着地した“ブラヴォ3”へ1発、背後に立った“アルファ3”へ2発――そこまで。ジャックの右肩、装甲に弾丸が当たった――衝撃。

 ジャックの上体が傾き――踏ん張りきれずに手摺を越えた。


 突撃銃が落ちていく――。


 すんでのところ、ジャックは左手で手摺を掴む。そこへ、残り4人の銃口が向いた。


〈待て!〉

 少佐の号令。


 銃撃が止まった。


〈貴様か、ヘイワード〉

 ハドソン少佐が、ワイアを伝って降りてきた。ジャックのすぐ脇、歩廊に足をつく。


 ジャックの顔に怒りが兆す。


〈よくやった〉

 対する少佐の声には険がない。

〈お前は見事に役目を果たした。どうだ、味方に付く気はないか?〉


 ジャックは片眉を跳ね上げた。

〈――役目?〉


〈そう、役目だ。お前は我々の中の裏切り者を始末してくれた〉

 ハドソン少佐は指を折る。

〈ルイ・ジェンセン、ヘンリィ・バーナード、……〉


 少佐が挙げたのは、“横流し組織”の構成員――ジャックが殺してきた者たちの名。ジャックの顔色が失われていく。


〈貴様、まさか……〉


 つまり、ジャックに目標の情報を与えていたのは、ハドソン少佐その人ということになる。


〈人を動かすのに必要なのは、何も鎖や鞭だけではないということだ〉


 少佐の言葉に、ジャックはただ歯を軋らせた。


〈2年前は残念なことになった〉

 ジャックを睨み据えて少佐が続ける。

〈今回はそうしたくない〉


〈――ほざくな、裏切り者が!〉

 剥いた歯の間から、ジャックは声を絞り出す。


 ハドソン少佐は静かに応じた。

〈ミス・ホワイトを連れているそうだな。我々の手で保護しよう〉


〈この!〉

 ジャックは腰のケルベロスを抜いた。

 ハドソン少佐も突撃銃を向ける。


 射線が交錯した。


 少佐の弾丸が早かった。ジャックの左肩装甲へ食い込み、その身体を手摺からもぎ離す。ジャックの銃弾は、ハドソン少佐の頬を虚しくかすめて過ぎる。


 落下しつつ、ジャックは下層の手摺に足を伸ばす――引っ掛けた。身体が回転する――が、止まらない。

 また下層、今度は左手。手摺に触れる――が、止まれない。

 さらに下層、今度こそジャックは手摺にしがみついた。すぐ下層、歩廊にはマリィの姿。


「逃げろ……逃げろ!」


 その左肩に、また1発が命中した。

 耐えられるはずもなく、ジャックは転落した。


 ◇


「ジャック!」


 落ちたジャックを見て、マリィが手摺から身を乗り出す。


 マリィが手を伸ばす。ジャックがその手を掴みにかかる――が、届かない。


 ジャックはマリィの下層、右手一本を手摺へ引っ掛けた――止まらない。

 もう一度――1層下、右手指先を手摺へ引っかける。が、指先だけでは落下の衝撃に耐えかねた。

 さらに一度――痺れかけた左腕も使って、もう1層下の手摺へしがみつく。力が抜けた。

 最下層。硬い床へ、ジャックはしたたか身体を打ち付けた。息が詰まる。身動きもとれず、ジャックはただのたうった。


 上層から、ハドソン少佐たちが降下する。逃げるように、マリィは梯子を降りた。


 逃げ切れない――。


 彼我の速度差から、それはすぐ知れた。マリィは下層、梯子を降りて壁の端末へ“アレックス”を繋ぐ。


「“アレックス”、アンナへコール!」


 アンナに連絡を入れれば、少なくとも軌道エレヴェータからのコールと判れば、ゲリラに捕まっていることが知れる。

 回線が繋がらない。重い数秒。

 呼び出し音――それが1回。そこで、マリィは兵士に囲まれていた。


「抵抗するな!」


 並ぶ銃口に睨まれる。兵士を睨み返しつつ、マリィは両手を上げた。


「丁重に扱え」


 別に降下してきたハドソン少佐がそう命じる――その声に、マリィは眉をひそめた。相手の顔は軽装甲ヘルメットに隠れている。

 察したか、少佐がヘルメットを外した。マリィの前に、見覚えのある顔が現れる。


「あ……」


 2年前、エリックの死を告げに訪れた“ハドソン大尉”の顔があった。


「あなたは……」

 マリィに絶句。


「大人しくしていれば、危害は加えない」

 ハドソン少佐は頷いた。ヘルメットをかぶり直す。

〈“ブラヴォ5”は彼女を保護。あとは私に付いてこい〉


 少佐が最下層へ降下する。と、兵士2名の転落死体がある――だけだった。エリックも、ジャックも、その姿を消していた。


〈“カウンタ”、こちら“ハンマ・ヘッド”〉

 少佐から司令部へ、妨害波の隙間を縫って暗号通信。

〈侵入者2名を撃退、人質1名を保護。損害3、負傷3。増援を求む〉

 ハドソン少佐は、連絡通路へ抜けるハッチへ眼をやった。

〈……逃げた、か……〉


 ◇


〈大佐、〉

 ハドソン少佐は、“サイモン・シティ”で指揮を執るヘンダーソン大佐との暗号回線を開いた。

〈こちらの首尾はまずまずです。そちらは?〉


〈順調だ。ことはシナリオ通りに運んでいる〉


〈ただ、気になることが一点〉

 ハドソン少佐が声を低める。

〈そちらの“駒”が、こちらの手駒と共闘しています。潰し合わせたものと思っていましたが?〉


〈それは、想定外の事態だな〉

 大佐の声が険しさを帯びる。

〈そちらで追跡できるか? 妙なところと接触されても面倒だ〉


〈連中に引っかき回されましたからね〉

 応える少佐の声が苦い。

〈こちらも兵員が不足しております。連邦の反攻にも備えねば〉


〈悪いが増援は回せん〉

 断じる大佐の声も苦味を隠さない。

〈捕捉しろ。大事な時期だ、混乱は避けたい〉


 ◇


 エリックはジャックを担いでいた。

 ジャックと大同小異、“強行着陸”を演じた身が軋む。ベルトにはジャックが手放さなかったケルベロス。


 連絡通路エリア、整備用通路。配線、配管が這う狭い通路を、二人が進む。


〈右……だ〉


 分岐点でジャックが言葉を絞り出す。エリックが問いを投げる。


〈何だって?〉

〈右、だ……外へ、出る〉


 アテがあったわけではない。エリックはジャックに従った。

 ハッチを開けると、“ヒューイ”がそこで待機していた。


〈こいつ……だ……〉


 ジャックを“ヒューイ”の上に下ろす。そのままジャックは後部バケットを漁り出した。予備の武器――短機関銃SMG404へ手を伸ばす。


〈……行く、ぞ……〉

〈どこへ?〉


 半ば呆れてエリックが訊いた。


〈決まってる……〉ジャックの瞳に固い決意が燃えていた。〈……マリィを、取り戻す……〉


〈無茶言うな〉

 エリックが、ジャックの肩へ手をかける。

〈このザマでか?〉


〈関係、あるか……〉

 ジャックは取り合わない。

〈……約束、したんだ……〉


 エリックは、ジャックを殴り倒した。

〈もの解りの悪い野郎だ〉


〈……〉

 ジャックが、もがくように起き上がる。


〈その調子で出てって、連中に勝てるのか?〉


 ジャックは答えない。ただ、“ヒューイ”のハンドルへ手を伸ばす。

 エリックは溜め息をついた。そのまま一拍、次いでジャックに当て身を食らわせる。ジャックは抵抗もできずに悶絶した。


〈世話の焼ける……〉


 エリックは、“ヒューイ”のハンドルを取った。


 ◇


 この日、“テセウス解放戦線”は声明を発した――惑星“テセウス”の主要3都市、および軌道エレヴェータを制圧した、と。







著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

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