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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第5章 事実
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5-7.接近

 轟音は、軌道エレヴェータ・シャフトにも届いた。腹に響く振動を伴って、貨物列車の断末魔がシャフト周辺に響き渡る。

 これを好機と、エリックはシャフト裏へ駆け込んだ。敵からの死角へ入り、梯子を登る。上へ――マリィのいる場所へ。


 ◇


〈陽動の可能性がある!〉

 カレル・ハドソン少佐は断じた。

〈軌道エレヴェータと周辺、警戒レヴェルをAに変更! 周辺に不審な動きは!?〉


 ハドソン少佐の問いに、オペレータが応える。


〈軌道エレヴェータ・シャフト内に侵入者が……〉〈問題の列車は操車場から盗まれています〉


〈対応の人員は?〉

 少佐が訊く。


 オオシマ中尉がこれに答えた。

〈各1個分隊を対応に出しています〉


〈操車場の人員は呼び戻して構わん〉

 ハドソン少佐が判断を下す。

〈帰還の道中、ポイントを手動でロックさせろ。軌道エレヴェータ側へ列車を入れるな。連絡橋の守備と侵入者の対応に増援――各1個分隊〉


 指示を下した少佐は踵を返した。


〈少佐、どちらへ?〉


〈エレヴェータ・シャフトへ侵入というのが臭い。現場をこの眼で確かめてくる〉

 ハドソン少佐はオオシマ中尉の肩を叩いた。

〈何かあったら呼び出せ〉


 ◇◇◇


〈マリィの反応、近いわね〉“キャス”がジャックの視覚へ描いて戦術マップ。〈斜め上方――軌道エレヴェータの動力部エリア、というよりエレヴェータ・シャフトのすぐ側よ


 軌道エレヴェータ基部、ターミナルからエレヴェータ本体へ伸びる、連絡通路エリア。その整備用通路を、“ヒューイ”を乗り捨ててジャックが駆けていた。配線、配管が這う狭い通路の真正面、動力部エリアへのハッチが見える。


 ハッチ横、情報端末にジャックは“キャス”を繋いだ。

〈中はどうなってる?〉


〈“侵入者2名。1個分隊が追跡中”“うち1名を“保護””――多分マリィのことね。もう1人は……〉

 “キャス”の声が緊張をはらんだ。

〈増援が接近中、さらに1個分隊。20人も相手にして、あなた彼女を取り返せる?〉


〈今のうちだな〉

 歯噛み一つ、ジャックは問いを付け加えた。

〈もう一人は?〉


〈今も潜伏中みたい。例の男じゃないかしら〉


 ジャックの脳裏に、エリック――傷痕を刻んだその顔が浮かぶ。

〈かもな。ゲリラの展開は?〉


〈連絡通路から5名、20mほど上から5名――二手に分かれて挟み撃ち、狩り出そうって肚かしら〉

〈よし、ハッチのデータを乗っ取れ。連中が合流する前に片を付けたい〉

〈OK、いいわよ〉


 “キャス”の合図を得て、ジャックはハッチを引き開けた。


 忍び入る――空間を縦横に走る歩廊。直径にして15メートルはあるエレヴェータ・シャフトを回り込んで裏側、連絡通路側から眼につかない梯子を選んで手をかける。梯子の裏側を伝って上へ。

 連絡通路、屋上への出口に見張りが1人。ジャックは短機関銃SMG404に消音器をねじ込んだ。頭を狙って1発、相手は壁にもたれかかり、ずり落ちるようにしてくずおれた。


 歩廊へ這い上がり、見張りの死体から取り出して手榴弾、罠を仕込む。ジャックはエレヴェータ・シャフトを回り込んで裏まで下がり、見張りの銃を投げ付けた。歩廊、梯子と銃はぶつかり、乾いた音を立てて落ちていく。

 気配を殺して待つことしばし、上から仲間と思しき人間が4人。梯子を降りて、死体へ近付く。隠れたジャックの見守る中、1人が死体に手をかけた。


 罠が作動する――爆発。ジャックはそこを狙って銃弾を撃ち込む。動く者がなくなった。


 ◇


 再び爆音。今度は近い。


 マリィは両手をエレヴェータ・シャフトへつき、両脚を広げて立たされていた。背後には見張りの兵、そして銃口。

 背後で囁き声が交わされる。周辺にいた兵のうち、マリィを見張る1人を残して4人が動いた。梯子へ歩み寄り、下を目指す。

 足許で、再び爆音と銃声。しかしそれも数秒のこと、残響の後には再び沈黙が訪れた。

 兵士がマリィに注意を向けつつ、骨振動マイクに何事か囁く。だが返事がないのか、兵士は顔色を失い始めた。


「――何があったの?」

 しばし間を置いて、マリィは言葉を投げてみた。


「関係ない。動くな」

 兵士がマリィの背中を銃口で小突く。


「いいじゃない。私は何もできないわ」

 マリィは肩をすくめてみせた。


「何もするな」

 兵士の答えには取り付く島がない。


 溜め息一つ、沈黙したマリィの背後へ姿を現した者がある。覚えのある姿ではない――ものの、直感的にマリィは口を開いた。


「でも暇じゃないかしら」

「こっちは慣れてる」

「私は慣れてないのよ。静まり返ってると……」


 その時、背後から兵士が襲われた。脛骨をねじ切られ、兵士がその場に崩れ落ちる。マリィが息を呑んだ。

 兵士を殺した相手は、すかさず掌をかざした。軽装甲ヘルメットを外すと、見知った顔がそこにあった。


「……ジャック?」


 相手――ジャックは声を制するように手を上げた。マリィの問いには頷いてみせる。


「例の男は?」


 説明しようとして、マリィは口を開いた。


「取り込み中よ。その――」

 そこでマリィはあきらめた。肩をすくめる。

「お察しの通り」


「いいだろう。逃げるぞ」

 ヘルメットをかぶり直したジャックが、マリィを指で招く。


「ちょっと待って。彼も一緒に……」


 焦茶色の瞳に、無言の問い。


「彼、記憶が戻らないの。何とか……」

「戻らないか。だろうな」


 小さくジャックが頷く。今度はマリィの瞳が問いを投げた。焦茶色の瞳が向かい合う。


「エリック・ヘイワードはヤツじゃない」


 マリィは言葉を詰まらせた。


「じゃあ、貴様が教えてくれるのか?」

 ジャックの背後からエリックが顔を出した。

「俺が一体何者か」


「待って!」

 マリィが2人の間へ割って入る。

「ここで争ってる場合じゃないでしょ!?」


「彼女の言う通りだ」

 ジャックは静かに頷いた。

「敵の増援が来るぞ」


「逃げましょ」


〈補助エレヴェータが動いたわ〉

 ジャックの聴覚へ“キャス”の声。

〈D号機――上から来るわね〉


「間に合わないな」

 ジャックがエリックへ眼をやった。





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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