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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第5章 事実
39/221

5-5.空中

〈目標発見〉

 マングースの操縦席、後席の操縦士がビルの狭間にジャックを認めた。

〈方位102〉


〈視認〉

 前席の砲手が確認、照準ヘルメットを地下街からの出口へ向ける。連動して、機首の30ミリ機関砲が首をもたげた。


 ◇


 マングースの軸線がジャックを向きつつある。悪寒を感じて、ジャックは“ヒューイ”のスロットルを開けた。わずかの差、地下街への入り口が機関砲弾を浴びて崩れ落ちる。


 ジャックは路地へ跳び込んだ。ビルの狭間、狭い空の下を駆ける。

 上空、並走するようにVTOLのロータ音。


〈来るわ〉


 ビルの狭間、上空にVTOLの細い影。ジャックは“ヒューイ”の機首を転じた。行き過ぎた敵機の旋回するさまが、音から判る。

 と、眼と鼻の先に着弾の煙。路地を縫い、機関砲が撃ち込まれたのだと判る。ジャックは急ターン、手近なビルへ“ヒューイ”を乗り入れた。


 ◇


〈外した!〉

 マングースの砲手が舌を打った。


〈いや、追い込んだ〉

 操縦士が冷静に指摘する。マングースは機首を転じ、ジャックの逃げ込んだビルを中心に旋回にかかる。


〈熱源反応――探知!〉

 砲手が舌なめずり一つ、

〈屋上へ出てくるか〉


〈出てきたらちゃんと“扉を閉めて”やれ。袋のネズミだ〉


 ◇


 ジャックは“ヒューイ”を駆って非常階段を駆け上がった。勢いそのまま、屋上へと飛び出す。


 視界が拡がったその背後、階下からの出口が吹き飛んだ。


 屋上いっぱいの距離を使って制動をかけ、方向転換。敵機の後尾方向、隣のビルへ最大加速。その後を機関砲弾の雨が追う。


 “ヒューイ”が跳んだ。


 ◇


〈無茶しやがる!〉

 砲手に舌打ち。


 “ヒューイ”はマングース後方、機関砲の可動範囲を超えて跳んでいた。


〈慌てるな、同じことだ〉


 操縦士が翼端のターボシャフト・エンジンを上へと向けた。機体を急減速させ、尻を振る。機体がスライド、進行方向に対して横を向く。


 ◇


 マングースの射界を外れて、向かいのビルへ着地する――。


 そのすぐ横、階下への階段が吹き飛んだ。


 次のビルを物色しつつ、ジャックは突撃銃を構えた。マングースの細長い胴体――その操縦席を狙って、3点連射。

 外れた――狙いを修正して、さらに一連射。

 操縦席、その風防に火花が散った――弾丸は虚しく弾かれる。


 ◇


〈うお!〉

 砲手が肝を抜いた。


 ライフル弾が風防、砲手の眼前に弾痕を残して弾かれる。


〈野郎、ビルごと吹っ飛ばしてやる!〉

〈了解、外すなよ〉


 ◇


 マングースの旋回軌道が眼に見えて変わった。


〈来たわ、アクティヴ・サーチ!〉

 “キャス”の声に緊迫が乗る。

〈ミサイル来るわよ!〉


 VTOLがジャックの正面、正対する軌道へ迫る。ジャックは“ヒューイ”を停め、すかさず携行ロケット砲RL29を構えた。


 ――狙いは敵機の真正面。照準の間さえ惜しんで引き鉄を絞る。

 ロケット弾が翔んだ。相手が狙いを定めるより早く操縦席、その後席を捉える。


 爆発――。

 成形炸薬弾がマングースの風防を灼き抜き、その中に満たして灼熱の炎。


 マングースがつんのめる。そのまま正面、ビルの先端に鼻先をぶつけ、大きく宙に引っくり返る。

 ロータが床面を切り刻む、その軌跡がジャックへ迫る。

 ジャックはスピン・ターンをくれて、スロットル全開。


 間一髪、ロータの断片が首筋をかすめた。


 VTOLがその背を屋上に打ち付け、なお勢い余って前へ転じた。ジャックは勢いそのまま、向かいのビルへ向かって跳んだ。


 爆発――。


 マングースの爆炎が屋上を呑み込む。

 爆風で姿勢を崩しかけ、ジャックは危うく着地した。止まり切れず、手摺にぶつかって踏み留まる。


 先刻までの居場所に一瞥。航空燃料がビル屋上、一面を焼き払っていた。さすがにジャックは息をついた。

 

〈やったか……〉


 ジャックはハンドルの上に突っ伏した。


〈一息ついたとこで悪いんだけど〉

 悪びれもなく“キャス”の言。

〈さっきのビルで情報が拾えたわ〉


〈で?〉

〈軌道エレヴェータの手前、橋のとこ。守備隊は相変わらずよ〉

〈畜生……!〉


 左手に地上への階段。ジャックは“ヒューイ”の鼻先を巡らせた。


 ◇


 暗がりの中、マリィは手探りで歩廊を進んだ。中央部、それぞれ直径15メートルは下らないエレヴェータ・シャフトの連なりを目指す。

 思った通り、情報端末がエレヴェータ・シャフト外周に見付かった。携帯端末からのケーブルを伸ばして、繋ぐ。


「“アレックス”、ここの状況は読める?」


 マリィは、ナヴィゲータに囁きかけた。“アレックス”は骨振動スピーカ越しに答えを返す。


『はい。ですが、状況はあまり良くありません、マリィ』

 “アレックス”の声は明るくない。

『軌道エレヴェータは全面的に運行を停止しています。リフタもエレヴェータの途中で停まっている有り様です。軌道エレヴェータはゲリラに掌握されたようです』


「ここから外には出られない?」

『ターミナル・ビルのロビィは閉鎖されています』

「他にルートは?」

『メンテナンス用のハッチが何箇所か。これで外には出られます。ただし、ターミナル・ビルの外にはゲリラらしい部隊が展開しています』

「連邦軍は何してるのよ?」

『戦闘の状況については、ここからでは掴めません。ニュースも――』“アレックス”が検索するだけの間が空く。『めぼしい情報は流してません』

「ああ、もう!」

『いえ、今メンテナンス用の補助エレヴェータが動きました。ロックが解除されたようで……』

「どこ?」


『シャフトD-4、この近くです』

 “アレックス”がマリィへ告げる。

『――いま停まりました。気を付けてください、頭上……』


 暗い頭上に、矩形の光が現れた。


 マリィは思わず眼を向けた。3メートルばかり上方、人の成す影が光に重なる。

 感付かれた――その思考が頭をよぎる。

 マリィは慌てて壁からケーブルを抜いた。勢い余った手が、手摺に当たる。


 乾いた音が、はっきりと空気を震わせた。


 ◇


〈軌道エレヴェータの手前で動きがあるわ〉

 “キャス”が告げた。

〈守備隊が移動してく――だいたい半数ってとこかな〉


〈連中、シティをほぼ制圧したな〉

 非常階段、地上へ向けて“ヒューイ”を駆るジャックが呟く。

〈連邦軍の残党を掃討する気か――今のうちだな〉


〈何が?〉

 うさん臭げに“キャス”が問う。


〈移動――そう、鉄道だ〉

 ジャックは思い至ったように答えた。

〈“キャス”、操車場の守備隊はどうなってる?〉


〈注目されてないみたいね〉


 “キャス”は操車場の監視カメラ映像を盗ってきた。さらに各種センサのデータを上書き、自らの言葉を裏付ける。


〈好都合だ〉

 ジャックはビルの外、歩道へ“ヒューイ”を乗り出した。軌道エレヴェータではなく、鉄道の操車場へ機首を巡らせる。


〈ふーん、〉

 キャス”の声が踊った。

〈いいじゃない、派手になりそうで〉


〈まあ、そんなとこだ〉

 ジャックの声が心なし苦い。

〈列車で橋を突破する。やれるか?〉


〈ポイントの切り替えはどうすんの?〉

 楽しげに訊いて“キャス”の声。

〈管制所はさすがに押さえてられてるわよ〉


〈ごまかせ〉

 ジャックに断言。

〈全部とは言わん、軌道エレヴェータまで突っ込めればいい〉


〈妨害波止めてよ〉

 “キャス”に口を尖らす気配。


〈電力線があるだろ〉

 ジャックが思い付く。

〈何とかしろ〉


〈本ッ当に人使いが荒いわね〉

 言いつつ、“キャス”の声は軽い。

〈いいじゃない、繋いでみて〉


 ジャックは橋のほど近く、操車場へ“ヒューイ”を乗り入れた。一通り物色し、12輌編成の貨物列車に眼をつける。


 ◇


 残響――。


 軌道エレヴェータ・シャフトの周囲からその響きが消えるまで、マリィには無限にも等しい時間。

 頭上に人語。補助エレヴェータの出口近くから、確認と指示と思しき対話。その集団は足音を隠そうともせず、下層――マリィの方へ向かってくる。

 マリィは手探りで端末から離れた。


 明転――。


 照明が点灯した。闇に慣れた眼が眩む。

 明かりの意味を悟るのに、わずかに時間がかかった――歩廊の只中では、かえって眼についてしまう。マリィはすぐさま取って返し、エレヴェータ・シャフト内壁へ張り付いた。頭上も足下も、入ってきた集団の姿は判別できない。

 張り付いたままシャフト沿い、歩廊へ慎重に歩を刻む。うまく裏側へ回り込めば、あるいはやり過ごせるかもしれない――小さな期待を胸に抱いて。


 下層に物音――何かを取り落としたような、一連の衝突音。エリックの仕業、という可能性――マリィの脳裏を期待がよぎる。ただ、下層にも間違いなく反応があった。一連の足音とやりとりが、マリィの耳に伝わる。

 同時に、梯子を伝う音が降ってきた。マリィの触れていた端末へ、足音が駆け寄る。


「端末発見、作動中!」


 シャフトの陰、マリィがまだ見えるかどうかというその位置から、兵士の声が聞こえた。

 マリィはその場へ崩れ落ちた。


「動くな!」


 兵士が銃口をマリィへ据えた。


 ◇


 声は、エリックにも届いた。

 歯噛み一つ、エリックは伏せたまま歩廊の縁へと眼を投げる。敵兵の姿がそこにあった。

 動きたくない時期ではあった。が、彼はそのままの姿勢でエレヴェータ・シャフトの裏側へ這い進む。





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

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