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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第5章 事実
38/221

5-4.横断

 マリィとエリックは屋上へ出た。強い海風にマリィの髪が踊る。

 正面、視界のほぼ半ばを軌道エレヴェータのイルミネーションが埋めている。その向こうには星の闇、背後には群れなす街の灯。


「エレヴェータへ通じる連絡通路があるはずだ」


 エリックが軌道エレヴェータ側、屋上の端ヘ歩み寄った。手摺の際から覗き込めば、すぐ足元に連絡通路――その屋根。ターミナルから軌道エレヴェータへ向かって伸びるその上に、保守用と思しき歩廊もある。


「行こう」


 エリックがマリィへ手を貸す。2人は手摺を乗り越えた。

 梯子を見付けて連絡通路の屋根へと下りる。そのまま歩廊を、身を低くして進む。

 横へ眼を向ければ、ターミナル周辺に装甲車や軍用トラックが群れている。うち一群が、軌道エレヴェータ本体を目指して移動していた。


「頭を上げるな」

 エリックが釘を刺す。

「見付かるぞ」


 連絡通路は長さにして500メートルそこそこというところ。その半ばを過ぎたころ、背後に人の声が聞こえた。振り返ったマリィは、ターミナル屋上に兵士を見た。その指先が自分たちを向いている。


「見付かったか!」

 エリックが舌を打った。屋上の兵士が背後へ向かって声を上げ、手招きしているさまが見える。

「急げ」


 警告と思しき声が飛んできた。耳を貸さず、ただ前へ。


 今度は銃声。さすがにマリィの身体が跳ねた。振り返ると、兵士の手元に銃口が見える。その背後、後続の兵士が屋上に現れた。

 エリックが手を引いた。マリィが続く。


 銃声――。それが一つに留まらない。


「威嚇だ」


 エリックは振り返らない。マリィも、足を止めたのは一瞬だった。

 歩廊の行き着く先は軌道エレヴェータの風防外壁、絶峰の裾野を思わせてその姿――その一角、整備用の地味なドア。そのままドアを引き開け、中へ。

 照明のスイッチは手近にあった。ただしエリックは手を触れず、フラッシュ・ライトを取り出して行き先を照らす。プラットフォームの天井裏と思しき平面の上で、歩廊が縦横に走っていた。上へと伸びる梯子も見える。


「ここなら隠れやすいはずだ」


 エリックが先に立った。ライトを口にくわえて梯子に手をかけ、上へと向かう。


 ◇


〈隠れて!〉

 ジャックの聴覚に“キャス”の声。


 背後には機動戦車ダリウス、眼前には渋滞の列。ジャックは“ヒューイ”を隙間――歩道へ突っ込ませた。背後に咆哮、ダリウスの25ミリ機関砲。

 渋滞の車列が砕け散った。歩道と壁面を抉り、砲弾の群れは周囲に破片の雨を降らせる。ジャックの軽装甲スーツに破片の感触。


〈無茶しやがる!〉


 ジャックが舌を打った。ダリウスはコミュータの残骸と瓦礫を乗り越えて前進する。


〈前!〉


 逃げ遅れた市民の一群が前にいた。ジャックは車体をスライドさせて急ブレーキ、ひとつ手前の路地に入り――切れずに行き過ぎた。


〈くそ!〉


 機動戦車へ眼をやる。が、こちらも撃つに撃てない体勢だった――このまま撃てば市民に当たる。

 ジャックはその隙へつけ込んだ。“ヒューイ”の体制を立て直し、路地に隠れる。

 ダリウスには狭すぎるビルの狭間を、ジャックは飛ばした。

 後部バケットから、携行ロケット弾RL29を取り出す。背後、路地の入り口を狙いかけ――ジャックは息を呑んだ。


 正面、路地の出口――機動装甲車MAT-12バンタムが顔を覗かせた。


 背後、路地の入口にもダリウスが急停止。挟まれたジャックへ、機関砲の砲口が巡る。

 ジャックは左手一本でRL29の安全装置を外した。狙いを正面に据え直して、引き鉄を絞る――対装甲ロケット弾が噴煙を曳いて飛翔する。バンタムの側面装甲に直撃したそれは、成型炸薬弾頭の力で装甲を灼き抜き、内部に爆炎を巡らせた。バンタムが内から炎を吹き上げる。ジャックは擱座したバンタムとビルの隙間をすり抜けた。遅れて機関砲弾が残骸を叩く。

 ジャックは再び大通り、傍らの歩道へ“ヒューイ”を乗せた。正面に遠く軌道エレヴェータ。


 ◇


 足下に、闇を切り取る矩形の光。


 マリィはつい下へ眼をやった。追っ手が内部へ入り込んだ、それは形跡と見て取れた。

 暗がりで高さはほぼ感じない。ただ、光の目印は眼下に広がる空間の広大さを想い起こさせずにおかない。梯子を握る手に力が入る。


「こっちだ」


 すぐ上方、エリックから声が降ってきた。さらに上、歩廊までよじ登る。

 エリックが顔を寄せた。


「連中、俺達を探してるはずだ」

 囁き声でエリックが告げる。

「俺が注意を逸らしてくる。ここで待ってろ」


「待って」

 マリィが止める。

「かえって危険じゃない?」


「ニセの手がかりをくれてやるだけさ」

 言うなり、エリックは梯子を降りていった。


 ◇


 交差点、左手に機動戦車ダリウス。射撃の暇を与えず、ジャックは車道を渡り、再び歩道へ。

 行手に地下街の入り口が見える。ジャックは“キャス”へ問いかけた。


〈監視カメラは使えないのか!?〉


〈地上は妨害波で繋がんない!〉

 “キャス”が応える間にも、ジャックの視覚を通信状況データが目まぐるしくスクロールしていく。

〈ネットワーク全然ダメ!〉


〈じゃ地下は!?〉

〈多分いける!〉


 ジャックは下り階段、“ヒューイ”を駆って地下街へ。


〈繋がった!〉

 “キャス”の快哉。ジャックの視界に、軌道エレヴェータまでの順路が重なる。


〈敵の展開見ながら案内するわ〉

 “キャス”が暫定ルートを視覚に重ねる。

〈邪魔者はそっちで避けてって!〉


 ジャックは“ヒューイ”の方向を転換、“キャス”の案内で走り出した。

 クラクションで、逃げ遅れた市民を散らしながら進む。


「どけ、どいてくれ!」


〈この先まっすぐ。“ハミルトン・プレス”ビル前までは軍もゲリラも――ちょっと待って!〉

 “キャス”がジャックの視覚、地図の一部をズームする。

〈“ハミルトン・プレス”前の部隊が動いてる!〉


 地図上、ゲリラの部隊を表す輝点が配置を変えつつあった。進むジャックを迎え撃つ――その意図が透けて見えてくる。


 ジャックが舌を打つ。

〈くそ、連中にも見えてるか!〉


 ジャックは“ヒューイ”の進路を変えた。“ハミルトン・プレス”ビルを大きく迂回にかかる。地図上の輝点はやや遅れて反応し、“ハミルトン・プレス”ビルの防衛に戻り始めた。


〈駄目、こっちの動きをマークされてる!〉

〈カムフラージュは!?〉

〈仕込みもなしで間に合うわけないでしょ!〉

〈敵の通信は!?〉

〈こっちの知らない暗号使ってる!〉

〈じゃあフェイントだ。駅に議事堂に行政庁舎、領事館! 使えそうな目標縫ってシティを抜けるぞ〉


 “キャス”がルートを計算にかかる。ジャックはまず手近な地下鉄駅へ進路を取った。


 ◇


〈目標M-1、また進路を変えました〉

 高速言語でオペレータが告げた。

〈今度は地球領事館に向かっています〉


〈撹乱が狙いか〉

 指揮官が鼻を鳴らす。

〈各守備隊、持ち場を堅守! “ボルト3”を向かわせろ。モグラが顔を出したら叩け、とな!〉


 ◇


〈駄目、敵が動かない!〉

 “キャス”に悲鳴。


 地球領事館へ鼻先を向けていたジャックは、唇を噛んだ。

〈もう気付かれたか〉


 5度目の進路転換に、地上の部隊は反応する気配を見せなかった。無視する肚を決めたと見える。


〈なら芝居をやめるまでだ。“キャス”、軌道エレヴェータ――ちょい向こう、空港へのルートを出せ〉


 開き直ったジャックが、軌道エレヴェータをかすめるルートを選んだ。傍目には空港を目指す最短ルートと映る――はずと見込む。

 シティ内の主要施設に張り付いた守備隊は、やはり動かない。


〈さて、引っかかってくれよ……〉


 ジャックはそのまま軌道エレヴェータへのルートを辿る。シティ北西、洋上の軌道エレヴェータへ繋がる橋のほど近くで、ジャックは進路を転じた。地上への階段を駆け上がる。


 海風がジャックを出迎えた――だけではない。


 ロータ音を響かせて、上空を旋回する対地戦闘VTOL――AV-223マングースが眼に入る。その進路が、ジャックへ向けて緩やかに曲がりつつあった。


「……無視してくれるんじゃなかったのかよ」


 剥いた歯の間から、ジャックは声を押し出した。





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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