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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第5章 事実
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5-3.発火

〈“キャサリン”、ゲリラの計画は!?〉

 ジャックは“キャサリン”に噛み付いた。

〈ここでことを起こすつもりか?〉


〈それは何とも言えないわ。手元にあるのはただの組織図よ〉


〈くそ!〉

 ジャックはハンドルに八つ当たりして、

〈マリィにコールを〉


 “キャサリン”の反応はなかった。代わりに“キャス”が応える。


〈うわ、すっごい妨害波! 軍用じゃないのこれ!?〉


 外との通信が断たれたのであれば、“キャサリン”を維持するネットワークも保たれないのが道理。ジャックは苦々しげに呟いた。

〈……始まったか……〉


 ◇


 この時、軌道エレヴェータ高高度に位置する通信モジュールを介して、軍用レーザ通信回線を駆けた声がある。


『“カウンタ”より全“ショット”へ。モード“R”、コード“K”』


 連邦軍の暗号表にない、それは言葉だった。


 ◇


 銃声――。

 血煙と、悲鳴が上がった。


〈軍曹殿!〉

 移動中の装甲兵員輸送車MAT-9アルマジロ、その中で狼狽した1等兵が銃を構えた。

〈何を……〉


 眼前には床へ倒れた伍長の姿と、それを撃った軍曹の拳銃――その向こうに据わる、冷徹な瞳。

 再び銃声。

 1等兵は事態を理解できぬまま崩れ落ちた。


〈こちら“ウォトカ3”、〉

 軍曹は輸送車内を見渡し、次いで声をデータ・リンクへ乗せた。

〈制圧完了〉


〈“ウィスキィ1”、制圧完了〉

〈“ラム4”、制圧完了〉


 同様の報告が、データ・リンクを駆けていく。

 そして、通信回線は悲鳴で満たされた。


〈司令部、大隊司令部!〉

〈味方が撃ってくる! 攻撃停止を! 司令部!〉

〈くそ、応答しろ、“イエロゥ2”、“イエロゥ2”!〉


 連邦軍内では同士討ちが始まっていた。

 “ハミルトン・シティ”に展開する大隊本部にも、“ハミルトン”陸軍駐屯地にすらも、対応する動きはなかった――いずれも、似たような状況に陥っていたのだった。


 ◇


 群衆の目前で爆発、悲鳴、ややあって呆然、そして歓声――。

 自分たちを鎮圧に来たはずの装甲車MAT-9アルマジロ――それが味方の砲撃を受けて火を上げる。随伴する歩兵たちも同士討ちを始めている。

 警官隊の中にも似たような動き。

 やがて戦闘が収まった頃、今度は困惑の声が群衆に満ちる。

 その眼の前で、装甲車の上部ハッチが開いた。中から現れた兵士が、両の手で旗を掲げる。

 “テセウス解放戦線”――その手には、独立派ゲリラの旗印。

 群衆から、前にも増した歓声が上がった。


 ◇


 ジャックは軽装甲スーツを身に着ける。胴体の他に両肩、前腕、すねに強化繊維装甲をマウントし、センサ・ヘルメットをかぶる。

 突撃銃AR110A2ヴァリアンスに軽機関銃SMG404ベア・クローと予備弾倉8本、加えて携行ロケット砲RL29を4発まとめて“ヒューイ”へ積み込むと、腰にMP680ケルベロス、右足首にP320ショート・ハンマの感触を確かめてアルビオンを後にする。

 アルビオンは自動制御の待機状態において、“ヒューイ”の鼻先を“ハミルトン・シティ”へ。

 その時、妨害波混じりの通信回線へ流れてメッセージ。


 ◇


『我々は“テセウス解放戦線”である。非道なる“惑星連邦”に、これまで植民惑星“テセウス”の市民たちは搾取され続けてきた。だが、機は熟した。我々は“惑星連邦”に対し、惑星“テセウス”の独立を宣言する! すでに3基の軌道エレヴェータは全て我々の制圧下にある。志を同じくする市民たちよ、立ち上がれ! 今こそ決着の時である! ……』


 ◇


 一斉に、軌道エレヴェータの運行スケジュールが書き替わっていく――。

 マリィは、軌道エレヴェータ・旅客ターミナルの出発ロビィでそれを眼にした。宇宙港行きの便全てに“欠航”のマーク、地上への到着便にも次々と“遅延”のマークが点灯していく。遂には運行案内盤、その中央に“運航停止”の一語が大きく重なった。

 宇宙港を目指す人々がごった返すロビーで、失望の溜め息が拡がった。

 それまでニュースを流していた大型モニタが切り替わった。“LIVE”のロゴを左上に掲げた画面の中から、緊張した顔のキャスタが告げる。


『速報です。先ほど、独立派ゲリラ“テセウス解放戦線”が、“惑星連邦”に対して惑星“テセウス”の独立を宣言しました。“テセウス解放戦線”は3基ある軌道エレヴェータを全て制圧したと発表しており……』


 マリィは傍、エリックと眼を見合わせた。


『こちらは軌道エレヴェータ管制室です』


 ロビィにアナウンスが流れ出した。皆まで聞かず、エリックはマリィの手を引いた。


「出よう」

『“テセウス解放戦線”は、戒厳令を発令しました。事態が沈静化するまで、軌道エレヴェータに対する出入りを禁止します。これは市民の皆さんの安全を確保するための措置であり……』


 人混みを掻き分け、2人は非常階段へ。ここにいる“地球人”がどう扱われるか、素人のマリィにも見当はつく。運が良くても人質扱いがいいところ、悪ければ見せしめの類にもなりかねない。


 人の影が群れなす隙間、ロビィの入り口に兵士の姿が垣間見えた。非常階段へ辿り着き、ドアを開ける。

 広くもない階段室、下方からは足音の群れ――“テセウス解放戦線”の兵士と窺えた。

 揃って上を見上げる――が、上は上でせいぜい屋上と機械室、大した逃げ場があるでもない。が、マリィは上への階段を駆け上がる。エリックもわずかに遅れて上へと向かった。

 機械室の前でマリィは足を止める。が、エリックは追い抜きざまその手を引いた。


「ここだとすぐ見つかる」


 2人はそのまま屋上へと向かう。


 ◇


〈“キャス”、マリィの現在位置は?〉


 “ハミルトン・シティ”へ向けて“ヒューイ”を駆りつつ、ジャックは“キャス”に問いを投げた。


〈軌道エレヴェータのターミナル・ビル〉

 端的に最も剣呑な答えを返して“キャス”。

〈とっくに乗っ取られてるんじゃないの?〉


〈くそったれ!〉


 ジャックは“ヒューイ”をシティ外縁、北回りに走らせた。渋滞と暴動の地帯――早い話が市街全域――を可能な限り避けて、軌道エレヴェータのあるシティ西部へと向かう。


 しかしそれもつかの間――正面、ビル陰から戦車が飛び出した。128ミリ滑腔砲を巡らせるその姿は攻撃戦車AT-8ホプリテス。


 ジャックは急ブレーキ、“ヒューイ”はすんでのところでやり過ごす――その鼻先で、ホプリテスに対地ミサイルSSM-144アルバレストが命中する。内部から火を噴き出して、攻撃戦車は沈黙した。


『そこのフロート・バイク、止まれ!』


 まだミサイルの発射煙が残る中から、ジャックへ向けて声が飛ぶ。

 声の主はフロート・タンク、キャタピラの代わりにフロート・エンジンを装備した機動戦車MT-3ダリウス。

 砲塔上の12.7ミリ対人機銃がジャックへ向けて首をもたげる。そこへ一瞥をくれるなり、ジャックはスロットルを開けた。炎と残骸の陰を通って、さらにその先のビル陰へ。着弾の連なりが彼を追い――その先のビルで阻まれる。

 機動戦車が追いかける。高度を上げて、できたての残骸を乗り越え、ジャックへ向き直る。威嚇に機銃を1連射、そして恫喝。


『次は当てるぞ!』


 構わず、ジャックは右へ舵。再びビルの陰へと消える。その後、わずかに遅れて銃撃が壁を抉る。


〈“ウォトカ1”より“ウォトカ2”〉

 機動戦車が味方を呼んだ。

〈敵を発見、追い込むぞ!〉




著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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