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電脳猟兵×クリスタルの鍵  作者: 中村尚裕
第4章 潜行
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4-7.露見

 ジャックはアルビオンを減速させた。

 見渡す限りのトウモロコシ畑、を覆う闇――その間を縫って走る、農道に毛が生えたような道。その中に、農場が自家用ついでに設けたような充電ステーションが据えてあった。ジャックはトレーラを乗り入れる。


「ベッドに入ってろ」

 ジャックは後ろへ親指を向けた。


 停車したトレーラのキャビンで、マリィが後部へ居を移す。

 帽子をかぶり、付け髭を貼りつけて、ジャックはトレーラの外へ出た。


〈キャス、画像は?〉

〈手抜かりなしよ。何だったらヌード・モデルにでも差し替えてあげようか?〉

〈思いっきり平凡にな〉

〈あーもう、面白味のない〉

「盗んだの?」


 わずかに数秒で充電を済ませて戻ったジャックへ、マリィが小声で訊いた。


「現金払いさ。騒がれちゃ面倒だからな」


 答えつつジャックが空を仰ぐ――視られている、その可能性を考えながら。


 ◇◇◇


『こちら“モスキート24”、アルビオンを発見』


 “サイモン・シティ”市街、“メルカート”所有のオフィス・ビル。地下に急設された監視指揮所へ報告が飛んだ。

 追跡リストに項目が加わる。監視網にかかった“アルビオン”型トレーラは、これで252台目。リストのうち200以上は“カーク・シティ”、“サイモン・シティ”やその郊外へ戻ったことを確認されて、リストから除外されている。


「辺鄙なところで引っかかったな」

 モスキートの配置図を見やって、ビジネス・スーツ姿の情報屋が呟いた。

「ナンバは?」


『まだ確認できません』


 回線越しにオペレータが告げる。旋回するモスキートからの映像は、夜間しかも無灯での撮影とあって、ごく粗い。しかも被写体はライトの一つも点けていない。

 だが解析を加えられたシルエットは、アルビオンのものに間違いなかった。


『寄せますか?』

「やれ」


 モスキートが旋回半径を縮め、徐々にトレーラへ接近する。後方へ回り込んだところでカメラをズーム、ナンバ・プレートに焦点を当てた。


 ◇


「ねえ、」

 言いにくそうに、マリィが口を開いた。

「……その、臭わない?」


「何がだ?」

 聴き返すジャックの声に表情はない。


「だからその……」

 マリィが言葉を濁した。


 先ほど開けたドア、そこから流れ込んだ外気に触れて、マリィは感じ取った――臭わない。体臭が篭もっていることを、改めて感じさせられた。それが男の匂いだけでないことにも。


「シャワーや風呂なら我慢しろ」

 察したのか、ジャックの言葉が先に回った。

「当分は泊まれる宿がない」


〈上空に反応〉

 “キャス”が気付いた。

〈5時方向、上方40度。人工物が星の光を遮ってる〉


「来やがったか」

 ジャックが舌を打った。


「何?」

 マリィだけが状況を把握できず問いを投げる。


「多分偵察機だ。充電ステーション辺りで見付かったな」

 ジャックは軽く唇を噛んだ。

「だとすりゃ近くに指揮車がいるはずだ。操作信号を手繰れないか?」


〈南南東に電波源――多分こいつ。こんだけ田舎だと見え見えね〉

「当たりか」


「じゃ、」

 マリィが問う。

「ナンバ・プレートとか見られるかもしれないってわけ?」


 ◇


『出ました。SPC044029』


 ジャック・マーフィの登録ナンバが画面隅に示してある。SAW040022。


 ◇


「ナンバは替えてある」

 ジャックは鼻頭を指で弾いた。

「が、それで見逃してくれるほど甘くはないだろうな」


 ◇


 モニタに映るアルビオンのナンバは登録されたそれとは違う、が――。


「偽造かも知れん。第一ライトも点けとらんところが怪しい」

 “サイモン・シティ”の情報屋は回線の向こう、オペレータへ告げた。

「こいつをマーク。シニョール・バレージへ報告する」


 ◇


「撃ち落とすの?」

 マリィが訊いた。


「そんなことしてみろ、」

 小さく舌を打ちながら、ジャックは小首を振った。

「自分から名乗り出るようなもんだ」


「じゃ、逃げる?」


「そういうことになる。が、このままじゃ捕まると見たほうがいいだろう」

 ジャックは腕を組み、シートに背を預けた。肚を固めたように呟く。

「……手を、出すしかないか」


 次いでジャックはマリィへ顔を向けた。


「こっちから仕掛ける。何かあったら“ティップス”の掲示板にメッセージを入れる。キィワードは――」

 ジャックは左手首を指差した。「“プレシジョンAM-35の傷”、忘れるな」


 ◇


 暗視映像の中で、“アルビオン252”が道を折れた。地図を照らし合わせればそのすぐ先は、エメリッヒ農場とある。


「“モスキート・ヘッド”、こちら“モスキート24”、“アルビオン252”がエメリッヒ農場へ入ります」


 “モスキート24”のオペレータが報告を上げる。移動する監視目標――“アルビオン252”を追って、オペレータを乗せたバンも走行している。


『了解、追跡続行』


 指示が来る。モスキートの捉えるところ、トレーラは農場へ乗り入れると母屋を無視し、大型サイロの陰へ入った。そこで停まる。


「何だ?」


 モスキートはサイロの上空を旋回しつつ監視を続ける。何周回目か、トレーラは再び動き出した。何もなかったかのように外へ向かい、道に乗る。


 ◇


〈OK、食い付いたみたいよ。上空から離れてく〉


 サイロの真下。アルビオンを見送ったジャックは、“キャス”の声に耳を傾けた。肉眼ではモスキートを捉えるのは難しいが、電波の発信源としては何とか検知できる。それが直上から離れつつあった。


〈よし、指揮車は?〉

〈相変わらず移動中。誘導するわ〉


 ジャックは“ヒューイ”のエンジンに灯を入れた。軽装甲ヘルメットをかぶり、“キャス”へ接続する。


〈真っ暗闇のドライヴだ。サポート頼むぞ〉

〈任せて〉


 ジャックがスロットルを開けた。無灯のまま、サイロの陰から“ヒューイ”が滑り出す。

 視界はほぼ闇一色。網膜に重ねられた地形図のワイア・フレームだけが、猛烈な速度で流れていく。

 トウモロコシ畑の間を縫い、進路を南へ。“キャス”からの情報だけを頼りに“ヒューイ”を駆る。

 横道へ出た。

 電波源は西へ移動中。ジャックは“ヒューイ”の進路を転じ、指揮車と思しき影を追う。やがてバンの尾灯が眼に入った。


 追いすがる。見る間に差を詰めて右横へ。


 側面、スライド・ドアへ手をかける。一気に開けて中へ踊り込み、ケルベロスをオペレータの後頭部へ。


「停めな」


 脅しつつ“キャス”を操作盤へ繋ぐ。一拍の間をおいて、状況を呑み込んだ運転手が減速した。バンの車体を路肩へ寄せる。


〈えー……っと、オーライ。偵察機を掌握したわ。こいつモスキートね。いいの使ってるじゃない〉


 ジャックはオペレータの襟首を掴み、外へ突き飛ばした――ところで、


「――!」


 隙と見たか、運転手が叫びかけた。ケルベロスに咆哮、シート越しに肩への一撃。運転手は上体をハンドルに打ちつける。その間に端末のナヴィゲータが回線に声を乗せ――ようとして阻まれた。


〈ざーんねんでした。先に回線ジャムっといて正解だったわね〉


 運転手の表情が見る間に萎える。

 ジャックは運転手の端末を取り上げ、叩き壊す。さらに車外へ引きずり出し、両手をプラスティック・ワイアで縛り上げた。戦意の失せたオペレータも同様、2人して路肩へへたり込ませる。


〈偵察機のデータは?〉

〈ちょっと待って、細工するわ〉


 “キャス”は偵察機からの受信データに手を加えた。トレーラが北上するさまを捉えた、その状況をループさせる。


〈はい完了。これでしばらく時間が稼げるわね〉

〈まあ、しばらくはな〉


 ジャックは応じた。時間は稼げた。が、バレた暁には、自分たちが本命だったと証明することにもなる。浮かれていられる状況でもなかった。


〈自動応答プログラムも放り込んどけ〉

 ジャックはバンの制御を自動に切り替える。

〈終わったらトレーラと合流するぞ。時間が惜しい〉


〈手抜かりなしよ〉


 バンに指示を出して、北へと走り出させる。それを見送ると、ジャックは“ヒューイ”にまたがってスロットルを開けた。バンを追い越し、さらにその先を行くアルビオンへ。





著者:中村尚裕

掲載サイト『小説家になろう』:http://book1.adouzi.eu.org/n9395da/

無断転載は固く禁じます。

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